邪道の百合解釈
「百合に挟まりたい」という感情は、「頭のおかしい」ことなのだろうか?
父がパソコンの「★ハンバーガー秘伝のレシピ★」というフォルダに無造作に放り込んでいたゲームには決まって、女の子二人と、男がいた。女の子たちはいちゃつき、たわいもない笑顔を見せて遊んでいる。主人公である男は、いつもその二人にちょっかいをかけるのだ。「俺も混ぜてよ」と。「★ハンバーガー秘伝のレシピ★」に記された作品群が「百合」というジャンルであると知ったのはそのすぐ後だった。だから彼にとって百合とは、挟まるべきものだった。むしろ男を排除し、挟まろうとしない最近の百合の傾向を苦々しく思ってすらいた。だが、どうやらこの世界では、百合とは男が挟まらないもののことを言うらしい。
何度読んでも意味が分からなかった、「ゆるキャン△食べログ論争」のきっかけとなった記事にもう一度目を通してみる。
【料理は満点だが百合解釈で踏み外した道】★0・1
すべての道は百合に通ずる、とはよく言ったものだが、わたしが通ったこの道には、どうやら落とし穴が潜んでいたようだ。
今回実食した「ガイアバーガー(レギュラーサイズ)」についてわたしは語ることができない。味はよかった。それだけは確かだった。もしあなたが、百合の道から遠く離れた道を歩む旅行者であるならば、この店は人生の快適なオアシスとして、あなたを至福の湖に連れ出してくれることだろう。
しかし、百合の道を歩む旅行者に告ぐ。この店は罠だ。来てはいけない。ハンバーガーは撒き餌だ。店主は、百合の皮を被った異端者なのだから。
断片的な情報で得ていた通り、店にはたくさんの百合漫画が置かれていた。そこには『ゆるキャン△』もあった。ハンバーガーとワインですっかり気分をよくしたわたしは、酔いの高揚も手伝ってつい「『ゆるキャン△』いいですよね……」と話を振ってしまった。斉藤恵那と志摩リンの関係性について意見を交わしたいと思ってしまったのだ。各務原なでしこという「外部=異境からの者」の到来により、秩序を保っていた「学校=秩序」は崩壊する。斉藤恵那は神話の英雄ではない。あくまでも、小さき人間である。彼女は回り道をして「野クル」に加わる道を取らざるを得ない。彼女はそれを恋心であると自覚していない。あくまでも、「楽しそうだから」参加するのだと、強弁するだろう。だが、斉藤恵那は、志摩リンが自分とは真逆のタイプである各務原なでしこにどうしようもなく惹かれてしまっていることを、あらゆる場面で徹底的に自覚させられているのだ。わたしたちは、斉藤恵那の感情の激しい変動を、彼女に貼りついた笑顔と、愛犬ちくわと重ねる愛らしきスキンシップの裏から読み取らねばならない。『ゆるキャン△』は斉藤恵那の崩壊への道である。もしあなたがまだ『ゆるキャン△』を視聴していないならば、アマゾンプライムで今すぐに視聴しなければならない。
店主は、顎に手を当てて探偵のように何かを考えこんでいた。わたしはその姿に、期待してしまった。ハンバーガーと同じくらいの感動をもたらしてくれるのだと、すがってしまったのだ。だが彼は、
「そういえば野外露出サークル略して野クルって十八禁の同人誌を読んだのですが。斉藤恵那はそういう系にはあんまり出てこないですよね。」
とだけ話して、口を閉ざしたのだ。
野クルの道を光につられる蛾のように群がる男どもの通る、野外露出への道程であると誤解する者が歩むべき道など、何処にも存在しない。『ゆるキャン△』に男が入り込む余地などどこにも存在しない。いや、あらゆる百合作品において、男は不要なのだ。
すべての道は百合に通ずる。だが、狂った道は、今すぐに正されなければならない。
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