シスコンは当たり前? #9

 るいからの2回目の告白に別に動揺はしなかった。けどいかにも女で遊んでそうなこいつが私のことを本気で好きになってしまったのはかなり意外だった。

 本人は誤魔化しているつもりだが、ツンデレの小学生並みの告白に本当に好きになったってことは私にも分かる。


「なんでもいいから帰らせてくれない?」

「ほら俺と帰りたいだろ?はっきり言わねえとまた...ってちょ、待てって」


 少しは告白のことを考えてやろうと思った私が馬鹿だった。この胡散臭い俺様キャラをなんでやめない。大体このキャラが私に全く効いてないの知っててどんな感情でやってるんだよ。

 止めようとしてくるるいを無視してそのまま靴箱に向かった。流石にヤクザの件があるからかしつこくはしてこないけど、またストーカーのように後ろをついてくるるいに嫌気がさしてきた時、校門を過ぎたところで知らない女の人が声をかけてきた。


「わ〜!!唯ちゃんだよね!?可愛すぎてすぐに分かっちゃった!あいつシスコンだし大袈裟かと思ってたけど本当に可愛い〜♡」

「え、あの、どちら様ですか?」

「あ、自己紹介が先だよね!私は姫野ひめのさき。水瀬唯斗のマネージャーやってるの。あ、唯ちゃんのお兄ちゃんのマネージャーって言った方が早いかな? 」

「え、お前、どういうこと?」


 後ろにるいが居るのを分かっててなんでその声量で言ってしまうんだ。一応ハルも有名人だし普通は人目につかない所で話す。それにるいが完全に気になってしまっている。とにかくもう隠すことはできない。この何処かハルの陽気さに似たマネージャーを無視してるいの手を引き、ひとまずマネージャーから離れた木陰で私の事情、ハルの存在、全てを話した。


「お前まじかよ!あの水瀬唯斗の妹!?あの俳優の恋愛映画で俺、女の扱い方学んだんだよ!」

「なんでもいいからこの事は黙ってて。誰かに話したら次はヤクザじゃ済まないかもよ。このまま帰って。」

「お、おう...」


 ハルが出てる映画で学んでことを女遊びに生かしてるのが私の彼氏だと知ったら気絶でもするんじゃないか。まあ少し心配だけどとりあえずは大丈夫そう。どうなることかと思ったけど、あのマネージャーもあんなに無防備なやつで大丈夫なのか。戻ると満面な笑みでマネージャーが待っていた。


「今の例の彼氏さんかな?めちゃくちゃイケメンじゃん〜♡」

「よかったら譲りますよ」

「え〜!でも私は大好きでしょうがない子がいるからだめだ〜...」

「そうなんですね。それで咲さん、何の用ですか?」

「それがね、唯ちゃんに彼氏できたことをハルが知ってからずっと私にどんな人か偵察してきてって言われてたの」

「それで待ってたんですか...」


偵察なら直接声かけじゃダメだろ。本当にこの人大丈夫なのか...


「まあ妹を思う気持ちは私も分かるしそれで来ちゃった!」

「妹がいるんですか?」

「この学校だよ!」


 まて。咲さんの苗字って確か...いや、まさかだけど嫌な予感がする。もう引き上げてこのまま帰ろう。


「お姉ちゃん!?」

「わ〜〜〜!愛ちゃ〜〜ん♡」

「うわっ!来ないで!ここ学校!」


 愛ちゃんがこちらに気づくなり、逃げようとするところを全速力で咲さんが追いかけ回している。まさかハルのマネージャーが愛ちゃんのお姉さんだったとは。しかもこの光景、咲さんの話し方、どこかハルのシスコンさを感じる。


「って唯先輩!?なんでお姉ちゃんといるんですか!?」

「話すと長くなるから咲さんから帰ったら詳しく聞いて?私もう帰らないと、愛ちゃんまたねっ。咲さんもまた。」

「お姉ちゃん!どういうこと!?」

「逃げられちゃった...帰って話すからおてて繋いで帰ろっか!♡」

「う、うん...恥ずかしいからあんまり見られないようにね...//」


 早めに振り切って帰る事はできたけど、最後に振り返って様子を見た時何か妙な光景が見えた気がする。お互い仲良く手を繋いでいた?いやまさか。私の経験上シスコンの兄や姉を持つと拒否反応を起こすはずだ。ましてや愛ちゃんは私に告白をしてきている。もう何も考えず、帰ってハルから事情を聞くことにした。


「ただいま」

「うわ〜〜〜〜!唯ちゃ〜〜〜ん!♡おかえりおかえりおかえりおかえり!ねえ!無視しないで!おかえり!ねえ!おかえり!」


 同じことしか言えないインコかよ。きっとこの家でインコを飼えば私の名前とおかえりって言葉しか覚えないだろう。

 しばらく無視して大人しくなってきたときに今日あったことを聞いてみた。


「ねえ、咲さんってハルのマネージャー今日放課後きたんだけどどういうこと?」

「偵察してって言ったのに咲さん会いに行っちゃったんだ...」

「もう何でもいいけどさ、咲さんに妹いたの知ってる?」

「知ってるよ〜、確か唯ちゃんと同じ学校じゃなかったかな...咲さんすっごいシスコンだから妹の自慢話がすごくてね〜...」


 それは多分咲さんも同じことを思っているんじゃないか。愛ちゃんには仕方ないけど本当のことを伝えてもらうしかない。なぜか今日だけで世間でいう水瀬唯斗が私の兄だってことが2人もバレている。これ以上の面倒はもう勘弁してほしい。


「咲さんの妹、愛ちゃんって言うんだけど一個下で告白されたから知り合いだよ。」

「ん!?こ、告白って今言った!?女の子だよね!?」

「うん。断ったけど私もびっくりした。」

「えぇぇぇ!どうしよ!唯ちゃん女の子にまでモテちゃうの!?」


 そこかよ。もっと他にびっくりするところあっただろ。


「とりあえず誤魔化しきれないから愛ちゃんには私の事情を今日咲さんから話してもらってるから。」

「唯ちゃん...僕...死んじゃうかもしれない...」

「ん?病気かなんか?」

「嫉妬で...」


 いっそ病気になってもらいたい。無視してお風呂に入り今日の疲れをシャワーと一緒に流した。朝から鬼退治して、美紅を守って、その鬼にはキスされるし、愛ちゃんのお姉ちゃんがハルのマネージャーだった。病気になりそうなのは私の方だ。明日は土曜日だし1日寝ていよう。そう決断してお風呂を上がり、すぐに眠りについた。




 〜♪(着信音)


「ん〜...もしもし...」


 朝になってまだゆっくり寝ていた私は、着信音で目を覚ましたが、寝ぼけて誰からの着信か画面を見ずに出てしまった。


「るいだ、寝起きの声可愛いなお前」


 ポチッ...プープープー


 切った。休みの日まで関わりたくない。それにこの顔から何しても可愛いことは自分でも分かっている。あれ?この自分の要素に自信がある感じ、どこかハルに似てる気がする。やっぱり血が繋がっているんだと自覚すると鳥肌がたった。


 〜♪(着信音)


「しつこい」

「!?僕泣いちゃうよ!?一回電話しただけなのに...(泣)」


 しまった。るいかと思ってまた画面を見ずに出てしまった。ハルだった。


「あ〜ごめん。間違えた。」

「何を!?!?」

「何でもいいから。何?」

「もう仕事で外いるんだけど朝ごはん用意するの忘れちゃったから僕の貯金箱からお金使って出前でも頼んでて欲しくてっ」

「そんなことしないから、いらない」

「お願い〜!お友達と遊ぶならそれも使っていいし!ね?ね?」

「分かったよ、ありがと」

「わ〜!僕唯ちゃんから感謝されちゃった!咲さ〜ん!聞いて〜!!」


 自慢しに行く前に先に電話を切れ。これは逆に使わないとうるさそうだ。ハルはなぜかその貯金箱を私の部屋に置いている。目立たないよう本の様な見た目をした箱が貯金箱だ。裏側には普通空くはずの場所に4桁の数字を入れないと開かない仕組みになっていた。番号があるのは聞いていない。

 その4桁の数字を打ち込むところの横には付箋が貼ってあった。


「ヒント 唯ちゃんの誕生日♡」


 何がヒントだ。私の誕生日である3月16日の0316を入力するとすぐに開いた。ヒントどころかもろに答えだった。

 開けてみると今まで見たこともない札束が詰まっていた。流石にびっくりした。いくら有名な俳優でも月収までは知らない。万札しかないそこから1万円だけ取ってその箱を直した。

 リビングに戻って携帯で何を注文するか悩んでいると美紅からメッセージが来ていた。


 ---------美紅とのトーク画面-----------

「昨日あのまま連絡できなくてごめん!」

「大丈夫だよ〜。いきなりどうしたの?」

「今日遊ばないかなって!新しくオープンしたスイーツカフェに行きたくて!」


 今日はゆっくりしていたかったけどここ最近のストレスで甘いものに惹かれてしまう。それに美紅と2人なら別に構わない。


「スイーツは食べたいな...行こっかっ」

「やった〜!じゃあ12時に〇〇駅の前で!」

「りょーかい。楽しみだね。」

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 急に決まった予定に慌てて支度を始めた。友達と遊ぶときはこんな私でも化粧をして、普段履けないひらひらのスカートに、髪をおろして巻いて思いっきり女の子を楽しむ。こうでもしないと可愛いと言われ慣れすぎてたまに何かを失いそうになる。

 今日だけはハルに感謝してお金を使わせてもらうことにした。


 駅に向かい、待ち合わせの10分前についた私は言われた場所で美紅を待った。

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