裏の裏 #5

 ここまで女子達がざわつくほど人気な先輩がいることを知らなかった。ここ3日の経験から1つ引っかかることがある。ロリコン兄、同性愛者の後輩、ど天然の友達、みんな顔が良い。私の周りのイケメンや美女は皆何か裏を持っている。このるい先輩とやらもこんなに人気のイケメンだ。早めに裏があるのか知っておきたい。

 周りの女子達は目をハートにして先輩のことを見ている。だけど今私が先輩に向かって歩いているこの目は光のない真っ黒な目をしているはず。


「少し顔見たかったっ。これだけで今日頑張れるわ。ありがとうな。」


 それだけ言って私の頭を撫でると教室に戻っていった。恋愛映画の王子様みたいなセリフと行動に女子達はメロメロになっていた。私からすると正直そんなことができるタイプの男は苦手だ。特に演技で格好つけたことができるロリコンの存在を知ってから苦手になった。でもまだ裏があるようには見えなかった。


 この日は休み時間になるたびにるい先輩との関係や馴れ初めなどクラスの女子達から質問攻めの嵐だった。付き合ったことだけは伝えたが、何やらるい先輩と仲良いまたイケメンな先輩がいるらしく、その人の連絡先をとにかくしつこく聞かれた。そんな1日も終わり、放課後になったが女子達は諦めが悪く、しつこい虫のように私に向かってくる。


「ねえ!私、水瀬唯斗みずせ ゆいとくんの直筆のサイン、この前のサイン会で知り合いのツテがあって何個かもらったんだけどいる人いるっ??」


 困っていた時、美紅が大声でそう言った。クラスの女子は一斉に美紅の方を振り返り向かっていく。美紅にしては良くやった。だけどそんなの持っていないだろう。まあ私がハルに頼めば良いけどこの場を美紅がどう逃げ切るのか見てみたくなった。


「いる人!今日中に私にタッチした人にあげる!!なくなったらおしまいね!」


 ダッダッダッ


「え!?まじなの!?もらうしかないじゃん!!私が一番だから!」

「ま、待ってよ!あいつ足はや!」


 急に鬼ごっこが始まってしまった。褒めたのは間違いだったが少し楽しめた。まあ美紅は足は早いから大丈夫だろう。美紅には悪いが今日は1人で帰ることにした。


 ----------美紅視点-----------

ん?後ろ誰もいない...あれ?私こんなに走って何してたっけ....

 ってあれ、るい先輩だ!唯ちゃん教室にいることだけ伝えとこうかな。


「るい先輩!」

「あ、美紅ちゃん。ってなんでそんな走って!?」

「分からないんです!でも止まらなくて!唯ちゃんなら教室います!」

「!?不思議な子だ...」


 走りながらだったけど伝わったかなあ。唯ちゃんのところにるい先輩行くなら帰っちゃおーっと。


 ---------唯視点----------

「唯!一緒帰ろっか。」

「るい先輩?」


 教室にはもう誰もいなくなって帰ろうとした時、るい先輩が廊下に立っていた。

 昨日は断ったし仕方ない。るい先輩の方に行くと急に手を繋いできた。


「帰るぞ唯。お前身長ちっちゃくて可愛いな笑 俺の女なんだから俺のことはこれから、るいって呼べ。それに敬語は禁止っ。わかったな??」

「わかりま...わかった。」


 うわあぁ...うわぁ...。恋愛映画でよくあるドSの俺様キャラってところだろうか。すっごく痛い...彼氏になったイケメン先輩キャラが言う言葉コンプリートしやがった。

 私が言われ慣れてないのもあるけど他の女子みたいなキュンキュンどころか鳥肌のブツブツの方が止まらない。これがこいつの裏だったか。このキャラはなるべく早くやめてもらいたい。もう言ってしまおう。


「私そのキャラ苦手。呼び方とタメ語は別に良いけどそう言うベタな俺様的な感じ、余計反抗したくなるからやめてほしい。」

「...」


 黙った。思ったよりはっきり言われて効いたか。本当は今、自分の始めた俺様キャラを保つのが恥ずかしくて仕方ないはずだ。


 ドンッ

「壁ドンッ...(小声) 何?俺に反抗してんの?可愛いじゃん」


 ただの痛いやつだった。それに今壁ドンしながら自分で小声で壁ドンッって言った?恋愛映画でもそれは初見だ。怖い。

 そしてこの状況。いきなり壁ドンされて、顔が近づいてくるこの状況をどうにかしたい。仕方ない。壁ドンされた先輩の手を掴み、壁ドンを真似て小声で背負い投げって言いながら背負い投げを決めてみた。


「いっって!!!!お前なんなんだよ!俺がこんなに攻めてやってんのにさ!それにボソッと背負い投げとかいうなよ気持ち悪い。それならもっとはっきり言えよ!」

「こういうの興味ないから。それと恋愛映画でも壁ドンしながら壁ドンって小声で言ったりしない。るいの方が気持ち悪い。」

「こっちは何人もこれで女が喜んでんだぞ。それに恋愛映画でも皆ときめいてんじゃねえかよ。」


 喜んだ女子達は頭沸いてんのか。それにホラー映画の間違いだろう。裏があるとはいえ、俺様キャラはまだ表向きでこっちが本性だったか。まあこっちの方が接しやすい。まだ良かったのかもしれない。


「よし決めた。俺、お前を絶対落とす。離れらんねえようにしてやる。周りにはこのまま付き合ってることにしてやる。」


 前言撤回。くそ迷惑だ。もう無視して帰ってしまおう。


「おま、無視すんなって」

「なあ、一緒帰ってやってんだから一言くらい話せよ」


 かなりしつこい。あんな大きいタワマンに住んでいることがバレるのは困る。家に着くまでにはどうにか巻いておきたい。

 良い手があった。これなら何も言えなくなるだろう。


「もしもし?迎えにきて。彼氏と一緒だから彼氏も送ってやって。...うん。〇〇公園に。ありがと。」

「お、親とかか?」

「いや、私両親いないから」

「えっ!?」

「あ。お迎え来た。」

「ま、ままま、待て待てあれってヤクザの車じゃねーのか!?」


 わかるんだ。みてた映画って恋愛ものじゃなくてヤクザものじゃないのか。

 それにしてもあんなに自己中だったるいがいきなり黙り込んだ。面白い。少し遊んでやろう。


「姉貴!お疲れ様です!そいつが姉貴の彼氏っすか!?」

「うん。そうだよ。告られて昨日から付き合ったのにもうキスされそうになっちゃった〜」

「お前...どこの野郎だ。俺たちの許可もなしに手出そうとしやがって。早く車に乗れ」

「す、すいません!!わ、わわ、わかりました!」


 流石にこんなにガンをつけられたら誰でもビビるだろう。

 車に私も乗ると、先にるいを家に送ってもらうことにした。


「姉貴に何もしてねえだろうな?」

「な、何もしてないです!ゆ、唯...どういう関係だよ...」

「ん?前にお互い体と顔を使った、我慢対決みたいなゲームをした時に勝った。それだけ。」

「が、我慢対決ってなんだよ...」

「お前は知らなくていいガキ。ヤクザ流のやり方だ。踏み入るな。」


 ヤクザにはあらかじめメールでるいとの関係性と怖がらせたいってことを伝えていた。

 1人のヤクザが〔俺やります!俳優目指してたんで任せてください!楽しみです♪〕と嬉しそうに可愛らしい返事が来ていたから心配していたもののこれは名演技だ。いや、ヤクザが本職だから演技とも言えないけど。

 その後るいは家まで送ってもらい、手を震わせながら帰っていった。私もそのまま家まで送ってもらい、ヤクザ達も満足げに帰っていく。


 家に着き、自分の部屋に入った瞬間今日あった出来事に疲れがどっと体にくる。

 ハルは、ドラマの撮影が遅くまであるらしく、幸い今日は1人でゆっくり過ごせそうだ。まだ3日しか立っていないのに1ヶ月ぶりに1人になった気分だった。その日はすぐに寝てしまっていた。

 朝になってアラームの音で起きると、何か背中が暑く感じた。振り返ると


「おはよ♡」

「何で同じベッドで寝てんの。」

「唯ちゃんの匂いに包まれて寝てみたく...」


 ドンッ


 私の後ろに寝ていたハルをベッドから突き落としてリビングに行く。打った頭を痛そうに抑えながらハルもついてきた。


「唯ちゃーん。。酷いよ...」

「この年で妹と寝ようなんて考えるからじゃん」

「だって大好きなんだもん〜」


 その時テレビをつけるとハルの新しいドラマの予告が流れた。

 --------テレビ----------

「お前って可愛いよな。俺の女になんねえ?」

 俺様王子との胸キュン恋愛ストーリー解禁!女優の〇〇と注目の的!人気俳優の水瀬唯斗くんの豪華キャストが勢揃い!

 ---------------------------


 昨日のるいの事を思い出し、やっぱりこのキャラが人気なのかと不思議に思ってしまう。


「ねえ。次のこのドラマの俺様キャラって勉強したの?」

「まあ役作りのために色んな映画やドラマは見たよ〜、まあでも僕モテちゃうからそんなに勉強しなくても自然とできるようになっ...」

「そっかありがと」

「まだ話してたのに!!」

「あ、ついでに、壁ドンするときに壁ドンって小声で言うのってどう思う?」

「何それっ、なんかのお笑い?芸人のネタとかっ?」

「いや、なんでもない」


 こんなバカでどうしようもないロリコン兄にお笑いと勘違いされたるいがすごく哀れに思えた。とりあえず美紅に話したいことが多すぎる。早く学校に行ってしまおう。学校につくと、美紅が早速話しかけてきた。

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