第2話婚約者はいりません
前世の記憶を思い出してから3年の月日が経ち、私は8歳になった。
「はっ!!」
「そこまで!!」
私は今、兄と剣術の稽古の真っ最中。
「レーナ、また強くなったね」
「いえ、まだまだです。兄様に勝てませんもの」
この3年間、私は剣術をマスターしようと頑張った。
しかし兄様には、どんなに頑張っても勝てない。
正直、剣には自信があっただけに悔しい。
前世の私は、日本刀を使わせれば組一番の腕前だったのだ。
「僕がレーナに負ける様では、セルヴィロの次期当主は務まらないよ」
──それは、もっともなんだが。
「坊っちゃまもお嬢様も素晴らしい腕前です。爺は嬉しいですぞ」
私達二人の剣の先生は我が家の執事、爺やだ。
爺やは元騎士団長を勤めていたが、怪我をして団長を退いた所で、父様が家に勧誘したのだった。
元騎士団長というだけあって、腕前は確かだった。
──怪我をしたと聞いていたが、ハンデを感じさせない身のこなしだ。
「そういえば、レーナ。今日は父様から話があるみたいだね?」
「ええ。稽古が終わったら、来るよう言われています」
今朝、朝食を取りながら父様に「大事な話がある」と言われた。
「ふ~ん。じゃぁ、もう行った方がいいね」
「ええ。ではお先に失礼します」
──嫌な予感しかしない。
※
コンコン
「父様、ミレーナです」
「入りなさい」
ドアをノックして、父様の書斎の扉を開けた。
父様は忙しそうに、ペンを走らせている。
「失礼します。お忙しかったでしょうか?出直しますか?」
「イヤいい。そこに座りなさい」
カチャと掛けていた眼鏡を外し、ソファへと足を運ぶ。
「レーナ。お前も8歳だ。そろそろ婚約の話が出てくる時期になってきた」
婚約……?
この単語はまずい気がする。
「ありがたい事に、第一王子殿下からお声がかかっている。……本音を言えば、私はまだ婚約など早いと思っている。しかし、お前の幸せを考えると家柄の良い所に嫁ぐのが一番だと思うんだ」
そうだ。原作では殿下との婚約が決まり、次期王妃だと周りを威圧していた。
学園に入学すると、愛らしいヒロインに殿下も次第に心奪われていく。
そして、そのヒロインに嫌がらせを繰り返すミレーナに殿下は激怒し、婚約破棄され、断罪、死刑になる。
──これは、まずいね。まずは殿下と婚約しないようにしなきゃね。
「……父様。殿下からの申し出嬉しく思います」
「そうか!ならば……」
「ですが、私に王妃は無理です。見てください、この手を。剣術で出来た豆がいくつもあります。それに、殿下も私もまだ子供。これから先、いくらでも出会いがあります。矢継ぎ早に決めるものではないと、思っております」
一気に言うと、父様はポカ-ンと口を開けたまま動かない。
──しまった!言いすぎたか!?
「……レーナは本当に8歳なのか?」
──やはり言いすぎたか。中身は三十路を超えているからな。子供に生まれ変わるのも、良し悪しだな。言い方が難しい。
「えっと、父様……?」
「わはははは!うちの子は聡明だな!父様は誇らしいよ!」
言い訳をどうしようか考えていたら、父様が笑いだした。
「そうだな、レーナの言う通りだ。お前達にはこの先出会いがいくらでもあるんだ、その時お前が選んだ者を婚約者にしよう」
「父様!ありがとうございます!」
──これで、婚約は回避できた。
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