第8話 オーギュスト働く
7月13日月曜日、朝食を終えたぐらいの時間帯に、ケネスが私室にやって来た。
「オーギュスト様、お客様です。平民の方のようです。大人が男女1名ずつ、子供は男子が2名、女子が1名。家族との事でした。」
「はいはい。それじゃ、お客様専用の応接室に通して。クレメントおじさんがつけた護衛の騎士たちは?」
「休憩室にてお休みになっています。」
「流石はケネス。仕事が早いね。」
僕はそう言いながら、お客様のもとへと向かう。
応接室の扉をノックして入る。ジェナが応対して、紅茶とお茶菓子でもてなしている。ソファには緊張した様子の両親と思わしき男女とここが何なのかよく理解できていないのか茶菓子に夢中の子供が3人いる。
「こんにちは。僕はオーギュスト・ユベール伯爵。ああ、座ったままで大丈夫。早速で申し訳ないんだけど、クレメント・バチェフ侯爵からの手紙を見せてもらえるかな?」
「は、はい。こちらになります。」
僕は手紙の封蝋印を確認後、中身を読む。
ふ~ん、なるほどね。行商人をしていたみたいだけど、
ああ、商売敵と悪徳金貸しはクレメントおじさんが証拠を揃えて潰す準備をしているみたいだね。ただ、他の貴族が関わっている可能性が高いから時間がかかると。そんじゃ、心機一転、新天地で頑張ってもらおうかな。ちなみに父親がヘリー、母親がマノン、子供達は男の子がコーバス、ダーン、女の子がミルテというらしい。
「早速、仕事の話しに入ろうか。今、お金はどれくらい持っているのかな?全部出して。」
「はい。こちらになります。」
チャラっと音を立てて革袋が応接机の上に置かれる。中身を確認すると銀貨1枚に銅貨十数枚といった感じだね。ホントに急いで逃げてきたんだろうね。
「ケネス、いつものやつを人数分渡してあげて。」
「はい、かしこまりました。ヘリー様、こちらをお受け取り下さい。」
様々な宝石の入った革袋を5袋渡す。中身を確認したヘリーさんが驚いた表情をする。それを不審に思ったマノンさんも袋の中身を見て、同じ表情をする。
「こ、こんなに戴けません。私達の持っていた金銭では足りないです。返す当ても今のところありませんし。」
「ああ、これはここの掟みたいなものだから気にしないで。有り金全部と交換しているんだよ。それにこれでも貴族だからね。まだ余裕はあるのさ。これは新天地での資金源としてくれればいいよ。そんで、これから起きることを他言しないという魔法でできた契約書をみんなに書いてもらうよ。ああ、サインだけでいいから。大まかな話しはクレメント・バチェフ侯爵から聞いているでしょう?」
「はい、これまでの人間関係は全て捨て去る覚悟がなければやめるようにとも忠告を受けました。」
「結構。なら、契約書を書いてね。そして、これが行った先の事が書いてある本になるよ。魔法は使えるよね?」
「初歩的なものでしたら。」
「なら、家族みんなの魔力をこの本に流して、そうすれば他の人からは見られないから。」
その後は、前回の王女様と同じような説明をする。
「これから行くところは、比較的治安はいいけど、普通に魔物はいるから気を付けてね。ああ、それと町の近くまでしか送れないから護身用に剣を渡そう。ケネス、武器庫に案内して使いやすそうなモノを渡して。」
十数分後、革鎧と長剣を装備したヘリーさんが戻ってきた。それと、マノンさんには短剣を、子供達にはナイフをそれぞれ渡す。
「よし、これで準備ができた。それじゃあ、行こうか。着いてきて。」
応接室を出て30番目の扉の前で立ち止まる。
「さっきも説明したけど、この扉の先は異世界だよ。こっちの常識は全部が全部当てはまるとは考えないでね。」
「ありがとうございます。オーギュスト様。」
「よしてよ。感謝をするならクレメント・バチェフ侯爵にするべきだね。そうそう、向こうに行ったお客様の中にはこっちの世界にない珍しい食べ物を侯爵に献上する人もいるよ。」
「食べ物ですか?」
「そう。侯爵は食べることが好きな人だからねぇ。ああ、それとお酒はあまり好きではないみたいだから、飲み物の場合はジュースがいいかもね。」
「知りませんでした。御用商人でしたが侯爵様とは直接お会いしたことはあまりありませんでしたから。わかりました。向こうの世界でも各地を回る行商をやってみようと思います。」
「うん、変な人に騙されないようにね。それと、貴族とかとまた繋がりを持って御用商人となれるといいね。」
「はい、頑張ります。」
ヘリーさん達は笑顔で旅立っていった。さてさて、それじゃあ、僕はもう1つお仕事をしようかな。クレメントおじさんからの手紙には悪徳金貸しの証拠の証書を集めて欲しいとも書いてあったんだよね。チャチャっと済ませよう。
はい、終わりました。時空魔法で悪徳金貸しの所にケネスと一緒に押し入って、ケネスが悪徳金貸しのところの人間を拘束して、記憶魔法の応用で色々と聞きだしたよ。もちろん、隠してあった証書も見つけたし、例の貴族とのやり取りの手紙も確保したよ。いやぁ、異世界の特殊部隊員って強いねぇ。ケネスを見てそう思うよ。
地球のアフガニスタンってところで死にかけていたケネス達を連れてきて本当に良かった。
さて、闇魔法を使って悪徳金貸し共を気絶させて拘束を解いて、記憶魔法で記憶の改ざんを行う。これで、証書と手紙が盗まれたことはわからないし、思い出せない。
屋敷に戻ると休憩室で休んでいるクレメントおじさんのところの騎士たちと会う。
「やぁ、遅くなってすまなかったね。」
「いえ、こちらこそお昼をご馳走になり、ありがとうございます。」
「仕事は終わったから侯爵に報告に行こう。準備は?」
「大丈夫です。」
「よし、行こうか。ケネス、後は任せたよ。」
そう言って、時空魔法で僕と騎士たちはクレメント・バチェフ侯爵の屋敷の一室に移動する。この部屋は僕以外は外からは開けられないように魔法で扉に加工されている僕の訪問用なんだよね。騎士たちと共に部屋を出て、クレメントおじさんの執務室に向かう。
執務室の扉を騎士がノックしてクレメントおじさんが入室を許可してくれたので、僕だけが入る。
「どうも、侯爵閣下、お久しぶりです。」
「ハハハ、オーギュスト、いつも通りおじさん呼びでいいぞ。」
「それじゃ、遠慮なく。クレメントおじさん、これが例の金貸しのところから盗んできた証書と例の貴族との手紙です。」
「おう、助かる。これでアイツを潰しやすくなる。ウチの派閥とは敵対していてな。丁度いい頃合いにヘリー達も来たものだ。」
「んじゃ、僕は帰りますね。」
「なんだ、茶の一杯でも飲んでいけばいい。」
「自分の屋敷の方がゆっくりできますから。」
「ハハ、違いないな。ほれ、今回の報酬だ。」
そう言って、ずっしりとした革袋を投げて渡してくるので、僕はそれをキャッチする。
「もうちょっと、貴族らしい渡し方にしたらどうです?」
「俺にそれを求めるのか?無理な話だな。」
ガハハと豪快に笑うクレメントおじさんに一礼して執務室を出る。あー、久しぶりに仕事したなぁ。今日の残りの時間はゆっくりしようっと。
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みなさん、よいお年を。
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