第9話 厄介なお客様

1週間投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。


今年も拙作をよろしくお願いします。

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「オーギュスト様、お客様です。」


 ケネスが扉をノックしてから声をかけてくる。


「はいはい。ん?なんか嫌な予感がする。お客様の名前は聞いている?」


「・・・はい。」


 扉越しとはいえケネスが即答しないなんて珍しい。厄介なお客様かもしれない。


「名前を教えて。」


「・・・カトリナ・バチェフお嬢様です。」


「げっ!?居留守は・・・無理だよね。」


「はい。油断をしました。いつもの騎士の方々に幌馬車でしたので。“オーギュスト様に取り次ぎます。”と対応しましたら木箱から侍女の方と共に現れました。」


「ハァ、わかったよ。僕が対応する。ケネスはいつも通りに紅茶と茶菓子をお願い。」


「はい。」


 服装をしっかりと整えて1階の応接室に向かう。カトリナ・バチェフ侯爵令孫は、クレメントおじさんの孫娘だ。国立ドナラグネ学園中等部3学年に在籍していて、15歳。成績は優秀らしい。スタイルもよく、金の輝く髪に吸い込まれそうな深紅の瞳が配置された整った美貌は学園の男女問わずにファンが多いらしい。そして、一番問題なのがどうやら僕のことを好いているということだ。


 姉兄はいないが、弟が2人に妹が1人いて侯爵家の後継者は弟のどちらかになるらしく、カトリナ嬢は両親からある程度の自由恋愛を認められている。それがいけなかった。クレメントおじさんの寄子で伯爵位を持っている僕は、カトリナ嬢のご両親からも気に入られてしまい、クレメントおじさんも僕ならということで反対していないみたい。僕は平民上がりなんだから反対してよ!!歳も9つも離れているのにさ!!


 そんなことを思いながら応接室の扉をノックして開ける。


「どうもカトリナ嬢。学園は夏季休暇に入ったようだね。」


「オーギュスト様、ごきげんよう。ええ、おかげでオーギュスト様にいつでもお会いすることができます。」


「その言い方だと、毎日でも来そうだね。まぁ、取り敢えず、挨拶は終わったしどうぞ座って。」


「ありがとうございます。わたくしとしては毎日会いたいですわ。以前から進言しているようにオーギュスト様も学園の講師になればよろしいのに。そうすれば、まことの意味で毎日会えますわ。」


「僕は人にモノを教えることは苦手だから無理だよ。って前も言ったよね。」


「ええ、おっしゃいました。しかし、人の心はうつろうモノ。そうではありませんか?」


「う~ん、まぁ、そうだね。否定はしないよ。」


 ケネスが用意してくれた紅茶を口にしながら話す。


「オーギュスト様、ハッキリと聞きます。わたくしの何がいけないのですか!?」


「え?年齢。」


 あっさりと答える。


「たった9歳しか違いませんわ!!」


「9歳も違うんだよなぁ。」


「あら、貴族の世界では9歳ぐらいは許容範囲ですよ?」


「それって、後妻とかが多いよね。カトリナ嬢には合わないよね?」


「関係ないですわ。お爺様にも許しは得ています。それとも、どなたかお好きな方でもいらっしゃるのですか!?」


 なんか今日はグイグイ来るなぁ。


「あぁ、そういえば、今年で16となって成人を迎え来年には中等部の修了式に高等部の始業式だね。」


「ええ、そうですわ。そしてご存知の通り修了式の後にはパーティがあるのですが、パートナーが見つかりませんの。ですからパートナーを前提として私と婚約してくださいませ!!」


「順番おかしくない?」


「いえ、ちっとも!!」


「学園の男子諸君にも良家の子はいるでしょう?その子たちじゃダメなの?」


「ダメですわね。ええ、ダメです。皆がとは言いませんが、大多数がバチェフ侯爵家の力を狙っておりますもの。他は、貧乏貴族の出でわたくしの持参金目当てが見え見えですわ。」


「ふーん、貴族ってやはり面倒だね。僕も君のお祖父じいさんに声をかけてもらってなければ、平穏な農民生活がおくれたのにとは時々思うよ。」


「まぁ、お爺様は人材の蒐集しゅうしゅう家みたいなものですから。」


「わかっているよ。腕の良い冒険者がいるとすぐに騎士に勧誘するぐらいだからねぇ。」


「ええ、まったく。すぐに王家に爵位を強請ねだり寄子だけが増えていきますわ。まぁ、優秀ですから良いのですが。」


 そうして、しばらくお互いに無言で紅茶を飲んで茶菓子を口にする。


「で、わたくしと婚約する覚悟はできましたか?」


「また蒸し返すの?」


 思わずため息をついてしまう。そしたらカトリナ嬢の侍女さんに睨まれてしまった。いつもは別の侍女というか乳母さんと共に来るんだけど、今回は違ったようだね。いつもは乳母さんがカトリナ嬢をなだめて終了となるんだけど、それも難しそうだね。


 以前、「僕のどこがそんなにいいのさ。」と聞いたことがあり、彼女は「全てですわ。」と言いきった。最初は一目惚れ、学園に入ってからは僕の学業の成績を聞いて更に磨きがかかったようだね。この暗闇のような黒髪、黒目は結構、貴族の女性からは忌避されていたんだけどなぁ。


「僕の実家は農家だよ?つまり、義理の父母は農民ということになる。」


「そうですわね。それが問題ですか?しっかりと自らの土地を持ち、農業と畜産を行なっておられるではないですか。借金も無く、奴隷に対してもしっかりとしていらっしゃいます。」


「それじゃあ、実家の家業を継ぎたいと言ったらどうするのさ。」


「そうですわね。まずは、農畜産について1から勉強をしなおしますので時間をいただきたいですわね。それと並行して国から下賜されたこの屋敷と迷いの森の後処理、使用人たちの職の斡旋をいたします。それで、時間が取れれば子を成したいと思いますわ。」


「具体的にありがとう。どうしても諦められない?」


「はい。オーギュスト様を凌ぐほどの男性を見たことがありませんわ。」


 僕は紅茶にブランデーを垂らして一口飲み言う。


「僕はね。学園にいた頃、女子との交流がほとんど無かった。いや、平民のましてや地方の農民の子供だから友人と呼べる人もほとんどいない。だから、貴族の社交パーティに呼ばれるようなこともほとんどない。そして、家はさっきも君の言った通り、迷いの森の中にある。利便性も良くない。それでも、いいのかい?」


「もちろんですわ!!」


 さらに紅茶にブランデーを足してのどを潤す。


「わかった。修了式には答えを出そう。勿論、パートナーとしてパーティにも出席はするよ。しかし、その時の僕の答え次第ではもうここには来られなくなるよ。それでもいいかい?」


「ええ、オーギュスト様が真剣に悩んで出してくださった答えでしたら納得します。しかし、いい加減なものであったならわたくしは諦めません。」


「勿論、真剣に考えるさ。そのために期限を決めたんだ。」


「そのお言葉、信じます。それでは、失礼いたしました。」


 そう言うとカトリナ嬢は帰っていった。疲れたー。


「オーギュスト様、レモンスカッシュです。スッキリするかと。」


「ありがとう、ケネス。さて、どうしたもんかねぇ。」


 厄介だよ、本当に。

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