娘との最後の出会い

管轄の警察署に着いたが、かなり入り組んだ場所にあり、一方通行が邪魔をして

なかなか、警察署の駐車場に入れない。


見えているのに、何周も回って、ようやく、たどり着き、車を停めた。


中に入り、担当の刑事に会い、事情を説明しなおし、ようやく娘のいるはずの

場所に向かう事となった。


  お父さんが、いきなり入ると、店の方も構えるし、冷静じゃない人が

  話をしたら、迷惑にもなるので、いったん、私達が話をして、そこで、

  店がどうでるか見て、お父さんが、言い分を話してください。

  うまくいけば、娘さんに会えるかもしれませんが、冷静にお願いします。


そう諭されつつ、車は停めたまま、店の場所まで歩いていく事となった。


歩いていく中、その道、その場所にある私の記憶が鮮明に蘇ってきた。

私は、人生の中で、一度も風俗と呼ばれる場所には、お金を出して行った事は

ないが、この道、この場所には、かなり嫌な記憶がある。


娘の事でもなければ、一生、通りたくない道で、場所なのだ。


その詳細は、いずれ余談にも書くが、ザックリ言うと、この近くの場所で

私は拘束され、拳銃を突きつけられ、といったような事件があったのだ。


そういう場所の近くのファッションホテル街の真ん中に、その店はある。


刑事が二人、両端にいるから、なんとか歩いていけているけれども、

一人なら、絶対に避けたい道だから、娘に会えるかもという緊張と、

自身が脅された場所という恐怖の記憶とが入り交じり、震えが走っていた

のも自分でわかる。


けれど、行かなくてはいけない。

今日を逃すと、もう会えないかもしれない。

今を逃すと、娘は、もっと深みに落ちて、助けられなくなるかもしれない。


ただそれだけの思いの中で、店まで歩いた。


店は、2階にある

刑事さんが、先に行き、私が後からついていく

階段を上がり、店の前で待つ


しばらくすると、刑事さんに呼ばれ、私が話す事なる

刑事さんが何を話したのかわからないし、実際に、風俗店に入ったのが

初めてなので、何をどうしていいかわからないので、緊張もするし、

どこからどう話せばいいのかわからない中、とにかく私は説明を始めた。


  昨夜、突然、娘が家出をしました。

  色々と調べていく中、どうやら、このお店で働いているようで

  ホームページによれば、今日は朝10時から勤務となっていましたので

  あえて、この時間に来ました。


そういう風に静かに説明してみたが、店長の反応は、【だから何?】

【警察まで連れてきて何なの?】といった感じで、ふ~ん、それで?という

対応だったので、そこから先の言葉が、うまく出てこない私は、思わず・・・


   お願いです!娘を返してください!!


と叫ぶまではいかないけれど、ハッキリしたトーンで言ってしまった。

特に泣いていたわけでもないし、ただ、緊張と動揺で、そう言ってしまった。


思わず、それに動揺した店長が、刑事さんを見た瞬間

私は、刑事さん二人に、表に連れ出された。


   お父さん、冷静にって言ったじゃないですか!!

   これじゃぁ営業妨害とか言われますよ!!

   他のお客さんも来る店なんですから・・・・

   気持ちはわかるけれども、これでは・・・


と言われ、私と刑事さん一名は表で待つ、刑事さん一名が、再度、話をしに行く

という事になり、仕方なく表に出た。


数分後


そこに、娘が高校生風のコスプレをした姿で歩いてきたのだ。


私は、咄嗟に、娘の名前を呼び、近づいた。

けっして大きな声で叫んだわけでもないし、泣きながらでもない。

娘の姿に茫然と現実を見たのもあるし、その先の未来を考えたら生きた心地もしなか

ったし、過去に妻の時に、同じような光景を見た記憶があったので、本心では、

叩いてでも無理矢理にでも連れて帰りたいという思いや、とにかく抱きしめてといっ

た思いも私の中にはあったのだが、アスペさんにそれをしたら、一生のトラウマにな

る事を知っているから、それも出来ないという自分への線引き的な部分が邪魔をし

近づく事、名前を呼ぶこと、それしか出来なかった。


娘は、私を見て、睨みつけ、無視をし、そそくさと店の中に逃げ込んだ。


表で待っていた刑事さんは、その瞬間に、私を引き止め、自分が行くからと

娘を追いかけ、店の中に入っていった。


何分、待っただろうか、ホテル街の真ん中の道に、こんなおっさんが、たった一人で

ポツンと立って待っている。


それも、朝の10時~11時といった時間にだ。

待っている場所は、ホテヘルと呼ばれる店の前だから、周囲からは、どう思われて

いたのだろうか?と後からは思うが、この時点では、そんな事は考えられないし、

次から次に来る、中年のおじさんが店に入っていく姿を見て、娘は、こういう人の

おもちゃにされるんだ!という気持ちも出てくる中で、とにかく、会って、とにかく

ちゃんと話がしたい、帰ってくる来ないは別としても、あの子は、そこまで馬鹿じゃ

ない!!ちゃんと話せば考えられる子だと、この時点では思ったりしていたので、

今は刑事さんが連れてきてくれるのを待つしかない。


色々な気持ちがグルグルと頭の中をめぐる中、私は。ただ、茫然としつつ放心状態に

なりつつ、その場に立ち続けた。

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