2021年11月2日

GPS 

刑事さんからの電話によると

明らかに土地勘が無いだろうと私が勝手に思い込んでいる場所で、娘が持っている

スマホの位置情報が、キャリアからの報告で、今、確認されたけれど、この場所に

心あたりがないか?というものだった。


正直、全く心当たりがない。

すぐに、パソコンで、Googleを開き、その場所の地図を見ても、全くイメージが

わかないし、ストリートビューを見ても、ただのマンションの場所なのだ。


この時点で、私の中には、誘拐という文字が余儀っていたので、ここに監禁??

という事しか、思い込みのせいで、そうだとしか思わなかった。


置手紙があったのだから、計画性があったと思えるのかもしれない。

当然、娘らしからぬLINEの文面もあったのだから、誘拐は考えにくいかも

しれない。


ただ、置手紙に書かれていた日付は、2021年10月1日であって、1か月も

前なのだから、けっして、今日ではない。


この時の私は、都合よく、そう思ったのだろう


確かに、家出を考える程、1か月前は、悩んでいたのかもしれない

けれど、この1か月、必死で思い留まったか、その悩みが解決したのだろう


だとするのならば、家出ではない、誘拐だ

もしくは、気持ちが弱っている時に、誰かに洗脳されたのだ


という感じで勝手に思い込んでいたところもあり、

その大前提には、長女が、私を裏切るわけがないという勝手な思いと、

例え、アスペルガーというものを持っていたとしても、あの子の中に、きっとある

家族への思いや、私への思いが、きっと守ってくれるはずだから、計画的な家出、

暴走という事は、絶対にない


そう思ったりしていたので、余計に、冷静に判断できなかったのだろう。


警察の電話を切った後、また、私は祈り始めた


どれぐらい時間がたったのか覚えていないが、

すでに、妻と子供達は何事もなかったように寝ていた。


何か食べないと・・・けれど、食べたくもない

何か飲まないと・・・飲みたくない


そう思った時、いったん、祈りを止め、もう一度、娘の部屋の捜索をしようと

思ったので、仏壇から離れ、娘の部屋に入った。


たぶん1時間くらいかかったのだろうか

ゴミを仕分けし、部屋の外に出し、ようやく足の踏み場が出来た


なんとなく、部屋の様子がわかるようになってきた


自分の気持ちも少し冷静になってきた


ここからが、本気で探すという事なのだが、部屋を見る限り、特に何かが無くなって

いる気配もなかったし、いつも通りの部屋だった


一番、恐怖を感じたのは、娘の財布が残されており、渡していた小遣いが、そのまま

使われず残っていたという事実


まさか自殺・・・という思いが再燃してくるし、それを考えると、動けなくなるし、

という悪循環が続きながら、とにかくヒントはないのだろうか・・・という思いで、

部屋を探していたが、どうしても、警察に言われた場所が気になり始めたので、私

は、すぐに着替え、家を出た。


車を走らせ、その場所に向かった。


深夜といえど、距離があったので、かなり飛ばしていたけれど、

自宅から車で1時間程はかかった。


その場所は、本当に薄暗く、マンションと駐車場しかなかった。


止まっていた車を見る限り、普通の人の車でもない。


その日、その時間にあったのは、暴走族風ではない明らかな改造のある車のみ


そのマンションの2階は電気がついいているが、他は消えている


ポストを見れば、明らかにシングル向けマンションで、ほとんどの郵便受けは、

DMが溢れている状態で、一切の表札もない


少し、周りを歩いてみた


かなり寂れた感じの街並みで、暗い感じで、近くにコンビニもなく、潰れた工場

のような感じのものはあったように思うが、人が通るわけでもなく、少し歩いた

ところに大きな公園はあったものの、そこに居たのは、いわゆるホームレスの人が

数名いたのは確認したが、町の臭いも独特で、こういう場所に、なぜ娘が居たのか

全く不明であったので、余計に、誘拐という言葉もよぎり始めた


私は、そう思うと、居てもたってもいられなくなり、誘拐だったら、このあたりに

何か娘の物が落ちていないか、ヒントになる何かが、ここに落ちていないか、

そう考えるようになり、その場所を中心に、地面に這いつくばりながら、何かないか

必死で探し始めた。


この姿を誰かが見たら、即時、警察に通報されるだろうという感じだったが、

なりふりなんてかまっていられなかったし、時間との勝負だ!という思いしか

なかったし、あの時点では、きっと、私は爆発寸前だったのだろうと思う。


何時間、探したか、覚えていないが、気が付けば、夜が明けていた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る