手紙

自宅に帰ると、三女に言われた。


  手紙がね、3通、お母さんと、私と、お姉ちゃん(次女)にだけあったよ

  

   妻には

    突然、行方を晦ましてすいません。

    学業、日常生活が苦になり、家を出ることにしました。

    父から聞いた母の親戚の話、父の親戚、私が生まれる前の話

    父が私に求めている事、全てが重く、しんどかったです。

    毎日、私はどうして生まれたのだろう。

    どうして、姉が生まれなかったのだろう。

    なぜ、私を産んだのだろう。

    どうして育てたのかわからなかったです。

    母は、なぜ、父と結婚して、私を育てたのですか?

    なぜ、離婚しなかったのですか?

    父から聞いていても、母から本当の事を聞いた事がないのですが

    本当の事なら、余計わけがわからないです。

    今後、妹には連絡するつもりですが、もしかしたら、母にも

    連絡するかもしれません。その時はよろしくお願いします。

    こんな娘に育ってしまい申し訳ありません。

    家族が幸せに過ごしている事を遠くで見守ります。


   次女には

    突然、居なくなってごめんなさい。

    この家に居る事が辛くなって家を出ました。

    あなたには、黙っていたことがあります。

    1つ目は、私が中2の頃から腕を傷つけていた事です。

    あの時、あなたが、【リスカする人は、かまって欲しいだけ】

    【死にたいなら、死ねばいい】と言っていた事もあり、しんどくても

    家族には言うべきではないと思うようになりました。

    あなたが原因というわけではないですが、その意見を否定しなかった家族が

    そこに居たのです。私がしんどいと思っても、辛いと思っても、あまり伝え

    なかったのはこの為です。

    2つ目は、私は、大学の2年の前期の授業を1つも受けていませんでした。

    あなたが、先生や友達から聞いたのは、本当です。

    今まで、姉らしい事をしてこなくてごめんなさい。

    こんな姉にならないよう無理せず、姉をやってください。

    大学の事、母の事、家族の事で、しんどい思いをすると思いますが、お体に

    気を付けて、過ごしてください。 


   三女には

    突然、居なくなってごめん。

    人として、長女として、この家で生活することが辛くて逃げました。

    最後まで姉として、シッカリしなくて、ごめんなさい。

    私がいなくなっても、何も変わらないと思いますが、お元気で。

    また、落ち着いたころに連絡します。

  

その時の妻の反応といえば、

  計画的犯行だね、もう帰ってこないね

  帰ってくる時は、確実に死体だね

  帰ってこないんだから、荷物をとっとと捨てちゃえ

  要らないから置いていったんだし


次女は

  お父さんを苦しめたお姉ちゃんを一生許さない!と、怒りをあらわにし、泣く

  リスカしていたのは、お姉ちゃんじゃなくて、お姉ちゃんの友達の●●さんで

  しょ。それに、あの時、私、小学生だし、最近でも、お姉ちゃんと一緒に何度も

  スーパー銭湯行ったり、家のお風呂に入っているけど、傷なんてなかったし。


三女は

  私には、あまり関係ないけど、プリント印刷してもらってたから、これから

  それをどうしようか悩んでる


これで、おわかりかと思うが、ある意味、まともな反応をしているのは次女のみ。


それ以外は、自分の事のみで、言っている事が、確実に他人事モードになっている。

家族として生活をしていても、アスペさんというのは、こういう感じが普通なのだ。


確かに、考え方を変えれば、まだ実感が無いともとれるし、実際に動揺していると

いうことなのかもしれないが、この方々が口にしている言葉、姿を見れば、明らかに

他人事で、出て行った人に興味はない。そういう風にしか見えないのだ。


私は妻と娘に言う

  お姉ちゃんが居なくなったんだよ

  例え、計画的であっても、例え、どんな理由があっても、今、見つけ出さないと

  永遠に会えなくなるかもしれないんだよ。そんなの私は嫌だ!どんな事をしても

  絶対に見つけ出し、出来る事なら連れて帰る。

  家族なんだから、今、みんなで力を合わせて、乗り越える大事なタイミングな

  んだから、協力してほしいんだ。


けれど、この方々は

  帰ってきたくないんだから、別にいいよ

  ただ、私たちのこれからの人生に影響が出るのだけが嫌

  どうせ、男と駆け落ちとか、風俗で働いてるとかじゃないの?

  悪い世界が楽しくて、好き勝手したいって話でしょ


そんなことしか言えない家族を私は作ったんだろうか・・・

けれど、これもアスペだから、こうなってしまうというのは、わかる

けれど、こうなってくると、確実に、私一人の戦いになる

絶対に見つけ出す、どんなことをしても見つけ出す

必ず、連れて帰る。


こう思ったのだが、これは、この時点で、私が、長女の中で、大事な存在で

大好きな父親であると思われていると、私が信じていた妄想が、そう思わせて

いたし、全てを知るまでの私の勝手な考えだったのだ。


確かに違和感はある。

私には手紙は無く、LINEのメッセージのみ。

妻に対し、離婚の要求をしているような文面。

日付が1か月前であった。

自傷行為をほのめかしているが、一緒に風呂に入っている家族(私以外)が

傷があれば気づくはずが、今のいままで、誰も、そんな傷を見た記憶が無い。

そういういくつかの違和感も感じつつ。


そして、妻は、私が何を言っても無駄で、探す事が馬鹿な事と言わんばかりに、

普段は絶対にしないはずの食事の用意を始めた。


我が家の場合は、妻は、普段は食事を作らない。

食事の係は、私だからだ。


幼き頃から、子供達の弁当なども、全て私が作っている。

今でも、高校生の次女と、妻の分を毎日、朝から作っているし、夜も私が、

その人の好みに合わせ、作り続けている。


長女の高校3年間も、1日も休まず、娘の体調を見ながら、好みを考え、毎日

作った。娘からは、お父さんの玉子焼きと唐揚げは、学校で友達の間で評判だ

から、友達のお母さんが、お金を出すから1度、作って欲しいとまで言われ、

当時の長女からは、自慢の父だと聞かされていた。


だからこそ、余計に、私の中では、長女が、私を裏切るわけがない。

なんの相談もないまま、家出をするなんて考えられない。

そう思いながら、長女の部屋にヒントを探しに私は一人で入った。


さすがに、この日だけは、いくらお腹がすいたと言われても、正直、それどころ

ではない!という気持ちだったので、ただひたすら部屋を探す事だけに集中して

いた。

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