2021年11月1日

はじまり

私は、この日を一生忘れないだろう。

なぜなら、長女が家出した日であり、長女が家族を完全に捨てた日。


それは、午後7時06分に、長女からの突然のLINEから始まった。


  こんばんは

  今まで20年間育てていただきありがとうございました。

  私にとって、なぜ生きているのか、わからなくなる20年でした。

  なので、これから一人で生きてみようと思います。

  他にもいろいろありますが。これが1番大きいです。

  職の事ですが、誰にも伝えず、自分で決めました。

  最後に。

  私は元気でやっていくので探さず見守って欲しいです。

  こんな娘に育ってしまってごめんなさい。


正直、私は、それを見て固まった。

次の瞬間には、涙が止まらないほど流れ落ち、全身が震え、その場に

立ちすくんだ。


時を同じくして、次女からの連絡。


  お父さん、今日、さっき、急に人身事故か何かで、電車が止まって

  て帰るのが遅くなりそう。電車が、いつ動くかわからない。

  今、駅なんだけど・・・。


咄嗟に、長女が自殺したのでは・・・という思いがよぎった。


  ちょっと待って、お姉ちゃん、学校で見た?

  まだ帰ってないんだけど、電話してみて、今から、そっちに車で行くから

  連絡着くなら一緒に拾うから・・・


そう次女に伝え、急いで車で学校に向かった。


長女の大学と、次女の高校は、同じ敷地内だから、もしかして・・・という思い

が頭をよぎるのも当然で、その大前提には、真面目な長女が、まさか、本当に

家出をするとか、そこまで苦しい思いをしているようには、思っていなかったし

普通に朝、学校に行くと、出掛けた、いつもと同じ最後だったから、まさか・・・

という思いしか、この時点では全く想像もしていなかったし、出来なかった。


学校の近くの駅に向かう車の中で、ただ長女の無事を祈り、涙が止まらない自分を

必死で抑え、ここで事故するわけにもいかない、踏ん張れ!と自分に言い聞かせ

次女の居る場所に向かった。


向かう途中で、次女から電話があり、


  お父さん、今日、お姉ちゃんを学校で見た人居ないっぽいよ

  なんかあったの?


    ごめん、お姉ちゃん、家出したみたいなんだ。

    もうすぐ着くから、その場で待ってて。


  学校に戻って、先生に今日の様子とか聞こうか?

  

    いや、もし、そうだったとしたら、戻ってきた時に学校に知られてる

    とか、本人が嫌だろうし、ちゃんとわかるまで、黙っていようか。


  わかった


そう次女と話すうちに、駅に着いた。

次女を拾い、妻に電話をした。


  すまない、お姉ちゃんが家出をしたみたいだ。

  電車が止まっているのが自殺かと不安になったけど、それは関係ないっぽい。

  どうしたらいいか、わからない


そう言ったけれど、ここは、さすがのアスペさんだから

 

  あっそう、爆発して暴走したんだね

  もう帰ってこないね

  帰ってくるとしたら死体だね


妻の口から出るのは、そういう言葉だった。

アスペさんだから期待はしていなかったが、このタイミングで、死体という言葉は

正直、聞きたくなかった。


こういう時、相談できる相手は全て知っている親戚の叔母なのだが、叔母も

最近、心臓に病気を抱えているから、この状況を聞いたら、その負担を考えたら

安易に相談も出来ない、どうしていいかわからなくなった。


妻は手術開けの初出勤だったので、朝、私が車で職場に送ったので、このまま

職場に迎えに行く事にした。


迎えに行く車の中で、次女に、もう一度、状況を説明し、とにかく、長女に電話を

何度もかけてもらっていたが、電源を切っているようで、全くでない。


すぐに妻の職場についた。


  どうせ電話でないでしょ。

  家出でしょ もう帰ってこないんだから、探すだけ無駄よ

  あんな子に振り回されるだけ時間の無駄

  それに、こんなタイミングで、よく家出なんて出来るわ~

  何も考えてないし、悪いとか考えてないし、諦めたら


さすがのアスペは、本当に、こうなると、家族もくそもない。


この人たちと話していても進まない・・・この状況での苦痛は想像を絶する


とにかく息が出来ない・・・

身体の震えが止まらない・・・

涙が延々と頬を伝う・・・

何をどすいていいかさえわからない・・・


けれど、この家族で、長女を心配し、動けるのは、きっと私しかいない


今、探さなければ、きっと後悔する

今すぐ、あの子の顔を見たい、抱きしめたい

辛かったね・・・頑張ったね・・・と


二人を拾い、自宅の方に向かい、私は車を走らせた 

 

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