第3話『俺はエイラムちゃん一筋だ!』

 土曜日の勤務はいつもハードだ。

 それもあって、高校生組は全員ほぼ強制出勤になっていた。


「ったく、いつもながら土曜日は大変だな」

「そうだねー。でもでもー?」

「よし、始めるか」


 あれ以来、恵美理えみりとは親密な仲になっていた。

 更には恵美理えみりがシフト変更を申し出て、俺と同じ勤務時間になり、休憩時間に二人で『推しの会』なるものを開催していた。


「それで恵美理よ、エイラムちゃんはどうかね」

「はい隊長! エイラムちゃんラブであります!」

「いいぞ、お前にもエイラムちゃんの良さが伝わったようだな」

「もちろんであります!」


 たぶん、傍から見たら完全に変人集団だろう。

 だが、俺達のみ! 控える必要などない!


 テンション爆上がりのところで、ふと、数日前のことを思い出した。

 初見の感想を聞いた時に抱いた疑問をぶつけてみた。


「あー、そういえば初めての配信を見た日、配信終わった瞬間連絡してきたじゃん?」

「うんうん」

「その時さ、息上がってたけど、興奮でもしてたん?」

「え……? 気のせいじゃない?」

「あー、あれか」

「え! いや! 違うよ!」


 恵美理は目をかっぴらきながら頭と腕を横にブンブンと降り始めた。

 いきなり激しく動き始めて驚いたが、俺はそのまま言葉を続けた。


「何がだよ。あれだろ? お前かなりのオタク気質なんだろ?」

「はい……?」

「初見でも、エイラムちゃんに釘付けになって、興奮しちまったんだろ? わかるわその気持ち。それにあれだろ? 配信で体を動かしながらやるゲームやってたから、お前も一緒に動いちまったんだろ?」

「…………はっはっは、バレたなら仕方がない。そうだよっ、そうなのだよ!」


 1時間休憩も早30分が経過。

 推し活中の俺達の空間に新たな参加者が追加された。


「あーっ、やっと休憩だあ~」

真理恵まりえお疲れ~。あっ、この席使ってー。私はっと――ここに座って――よいしょっと」

「いや近いな」


 恵美理は自分が座っていた席を明け渡し、俺の横へ移動。

 椅子を強引に俺の横へ押し寄せ、体を密着させて腕を絡めて来た。


「ちょと恵美理っ、何してるの!」

「何って、仲良く一緒に話をしようとしてるだけだよ」

「そうだぞ、そんなに驚くことか?」

「はっ――――はぁ……そうですか」


 勢いよく立ち上がった真理恵まりえは、ため息をつきながら腰をストンと下ろした。

 続いてスマホを取り出し、操作を始めながら質問を投げかけて来た。


「康大くんは推しの子をほったらかしにして、女の子とイチャイチャしてるんだ?」

「何を言っているんだ! そんなことはありえない! 俺はエイラムちゃん一筋だ!」


 真理恵の問いに対し、俺は立ち上がり、胸を張って高らかに宣言した。

 恥じることなど微塵も無い。いや、このメンバーだけだからだが。


「そうだよね。それでこそ康大くん」

「う、うう。何だか物凄い敗北感」


 二人はスマホに目を落とし操作を開始。

 漂う微妙に気まずい空気。

 奮起して立ったままだった俺は、そっと腰を落ろした。

 すると、通知音が一つ。即、スマホに手を伸ばした。


『今日は、とても気分の悪くなる悪夢を見ちゃった。だから、うっぷんを晴らすために、配信時間を一時間延長しちゃうよ!』

「うおぉぉぉぉ! エイラムちゃん、今日は配信時間延長だって!」

「そうなんだ」

「良かったね」

「えーっと……」


 どうした。何が起きてるんだ?

 なんか二人とも冷たくね?

 俺が暴走したせいで二人が引いてるのか?


「あっ、私ロッカー行って来るね」

「私はちょっとお手洗いー」


 真理恵はロッカーへと向かい。

 恵美理はトイレへと急ぎ足で向かって行った。

 そこで俺は気づいた。二人ともスマホを置いて行ってしまった。覗きの趣味は無いから、触れることはない。

 だが、中央側にある二人のスマホに目を向けてしまった。すると、通知が来て画面が明るくなった。

 数回鳴る通知音、気にならずにはいられなかった。

 いけないとわかっていても、邪な心が俺を動かした。



 そこで俺は、驚愕の事実を捉えてしまった――。

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