第4話『意外な一面を沢山見た日』

 春休みは残り数日で終わりを迎える。

 今日は俺の家で、真理恵まりえと一緒に課題の確認兼遊びの予定だ。


「お邪魔しまーす」

「散らかっては無いと思うけど広くは無いから、ごめんな」

「いやいや全然大丈夫だよ。逆に私がお願いした立場だし、こちらこそごめんだよ」

「まあ、それはそうと、はいこれ、座布団」

「ありがと」


 真理恵まりえは、座るやすぐに舐め回すように辺りを見渡し始め、そわそわと落ち着きがない。


「どうかした? エロ本とか探しても無いぞ?」

「い、いやっ! そんなんじゃ無いよ! 私、男子の部屋に入るの初めてで緊張してるというか……」

「なるほどな、そんなのすぐに慣れるよ。それにしても、真理恵が課題終わってないとか意外だったな」

「まあね〜、本当に残り少しなんだけどねー」


 課題を机の上に広げた真理恵に対し、俺は終わった課題を並べて片手にスマホを持ち始めた。


「課題終わった後、何する?」

「んー、私も決めてないんだけど、パソコンで何か見たりするのは?」

「お、いいねえ、それあり」


 真理恵は「答えを写すのは嫌だ」と言い、こちらの提案を断って来たので、問題を解いている間は時間を潰すしかない。


「家の手伝いとかしてたん?」

「んー、まあそんなところかなー」

「そっか、大変なんだな。それを聞くとなんだか肩身が狭く感じる」

康大こうだいくん家は一人暮らしする件について、親が賛成してくれてるし、別に良いんじゃない?」

「うーん、なんかなあ」


 話に花が咲き始めてきたところで、通知が入ってきた。

 画面には恵美理えみりからの通知だった。

 通知を開くと、そこには一本の動画が貼られていた。


「あっはは、これおもしろ」

「どうしたの?」

「今、恵美理えみりから、飼ってる犬と遊んでる動画が送られてきてさ、ハチャメチャすぎて面白いんだよっ」

「へぇー、そうなんだ。最近仲良いんだ」

「そうか? 普通じゃね?」

「へー」


 課題に向かう真理恵は薄い反応を示している。

 俺は一人でに盛り上がったテンションで話しを続けてしまった。


「そうそう、この前えみりがさ――」

「ちょっと、いい加減にしてよ!」

「っ!?」


 真理恵は両手で机を叩きつけた。

 破裂音にも似た強烈な音に、俺は言葉を失ってしまった。


「わ、わりい。課題に集中したいよな」

「……」

「……」


 台風が過ぎ去った後のような静寂が訪れた。

 あまりにもの気まずさに俺は喋り出せず、真理恵が次の言葉を話してくれるのを待つのみだった。


「――――はぁ。あーあ、もういいや。はい、これ見て」


 最初、プリントで叩かれるか、そのままグーパンチが飛んでくるものだと思い、顔の前に手を置いて身構えたが、そんなことは起きなかった。

 すぐに理解することは出来なかった。だが、突き出されたプリントを冷静に見るみることにした。

 そして、プリントの中身を見た俺は目を疑った。


「え、これって……」

「そう……私、本当は課題なんて全部終わってる」

「ど、どういうこと……?」


 真理恵は大きく息を吸い、深く吐いた。

 プリントを机の上に置き、正座をし、姿勢を整えて目を閉じている。

 そして、意を決したかのように目を開き、ゆっくりと口を開いた。

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