@Altplus
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うわっと。
おいおい、そう身構えんなって。お前も一度首を縦に振ったんだぜ? 話を聞けよ。
ああ。ああ、そうなる。まあ、長話の部類だよな。でも時間を惜しむ理由もねえだろ? お前は見るからに暇人で時間を持て余してる。違うか? 違わねえよな?
おうよ。話は、そりゃあ俺の話さ。こいつはそこまで退屈もしねえと思うぜ。お前みたいなの相手にしか、ペラペラと話せるようなもんでもねえんだよ、俺の話はさ。
おい、そう睨むなって。お互い暇人だろ? どうせ誰も来やしねえよ。俺は仲間内でもおしゃべりで通っててよ、最近話し相手がいなくて鬱屈としてたんだよ。まあ、付き合えよ。
オーケー、オーケー。愉しんで貰えるように努力はするさ。
ふう、よっこらせっと。
見晴らしだけはいいな、ここは。それにいい天気だ。嫌になるほど晴れ晴れとしてやがる。ミスターチルドレンのでよ、太陽が照り付けるとやけに後ろめたい、って歌詞があってよ。ありゃよくわかってるよな。晴れ過ぎはうんざりするぜ。
ああ? ああ、そうだなぁ。最初は、トゥアレグ族の連中と旅をしたときの話をするべきだろうな。あいつらと砂漠を歩いたときは、いっつも太陽がぎらぎらとしていた。日陰が気味悪いぐらいに濃くてな。
いや、トゥアレグ族だ。トゥアレグ。
何だ? お前はトゥアレグ族を知らないのか。まあそりゃそうか。アフリカの北西辺りにいる連中で、あっちらこっちらをラクダにまたがって行ったり来たりしている。奴らを遊牧民だと言う連中もいるが、キャラバンをやってたり、一部は盗賊をやってたりもする。その全部をやってるトゥアレグもいる。アフリカ北西の砂漠で青い服を着た団体を見かけたら、それはトゥアレグだ。
おうよ、その通り。俺は世界を股に掛ける仕事をしている。そんな雰囲気が出てるだろ? でも今は暇人さ。難儀なもんだぜ。
それでその、トゥアレグの連中と一緒に、リビアからニジェールへ南下し、更に西へマリへと渡った時の話なんだな。
偉そうにしたが、俺もそれまではトゥアレグのことをほとんど知らなかった。子供の頃に兄貴が持っていたマンガでそういう部族がいることを知っただけだ。ヘンなマンガでな。砂漠のど真ん中で遭難した連中が、砂の丘ぐらいあるどデカい鯖の缶詰を開けようと悪戦苦闘するギャグマンガだ。その中にトゥアレグ族が出てくるんだ。ほんとにヘンなマンガだったな、アレは。
実際のトゥアレグは、砂漠のプロフェッショナルだった。当時、リビアでカダフィが死んで、一帯は大混乱に陥った。二〇一二年のことだ。俺はその混乱に乗じて色んなものをリビアから持ち出す仕事をしていて、トゥアレグの連中は荷物持ちと砂漠案内を兼ねていた。マリの北部のアザワドでは別のトゥアレグが武装蜂起し、ISILはそこを奪おうと動いていた。早い話が危険地帯だ。その中をお宝片手に歩くんだ。道路なんか使えない。ここにお宝を載せていますから、どなたか奪ってください、って言ってるようなもんだ。だから紆余曲折の道を行くのさ。蛇の案内がなきゃ蛇の道は進めない、って道理さ。
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