第602話 閑話─唯一無二

 




 帰城したアルベルトは、皇帝と三代貴族である大臣達にタシアン王国での詳細を皆で報告をした後に、ロナウド皇帝に話をする場を設けて貰った。


 レティをタシアン王国に連れて行く事を了承して貰う為に、レティには魔力を奪う能力があると言う事を、アルベルトはロナウドとルーカスに打ち明けた。


 魅了の魔力使いと災いの魔力使いが相手なら、どうしてもレティが必要なのだと言って。

 なので……

 その結末をロナウドとルーカスに伝えなければならなかった。



「 一瞬だった。突然現れたレティが、ザガード国王に触れたとたんに彼の魔力が奪われたんだ 」

 アルベルトの説明にロナウドとルーカスが目を見張る。


「 そして……ドレイン卿が私に向かって魅了の魔力を飛ばして来た時も……レティは片手で、いとも簡単に魔力を消し去った 」


 当時の緊迫した状況が伝わって来る。

 とんでも無い修羅場だったのだと。


 兎に角、レティ無しでは成し得ない事だった。



「 レティちゃんの能力は聖女の魔力に匹敵する。そなたにとっても……我が国にとっても彼女は唯一無二の存在だな 」

 何があっても手放すで無いぞとロナウドが笑うと、ルーカスが静かに頭を下げた。



 魔力を奪う能力。

 レティは魔力を奪うだけで無く、飛んで来る魔力を消し去ったのだ。

 確かにそれは聖女に匹敵する能力だ。


 魔力を与えるヒーラーが存在していた事は、文献に記載されてはいるが……


 存在すればシークレット扱いになる事から、世界の何処かの国には存在しているのかも知れないが。

 少なくともシルフィード帝国には存在した事は無い。


 皇立図書館にある蔵所の文献を片っ端から調べたが……

 何処にも魔力を奪う能力者の事は書かれてはいなかった。


 魔力を与えてくれるヒーラーで、魔力を奪う事も出来る能力者。

 こんな能力が存在すると知られたら……

 世界中がレティを欲しがるだろう。



 唯一無二の能力。

 それはアルベルトが魔力使いだからこそ現れた能力。


 一体どれ程自分の事を想えばそんな能力が出てくるのだろうと考えれば、アルベルトはレティが愛しくて愛しくて泣きそうになるのだった。


 レティは医師であり薬師。

 そして……

 騎士だ。

 主君を守る事を骨の髄まで染み渡っている騎士。


 あんな小さな身体で……

 彼女は命懸けでアルベルトを守るのである。



 しかし……

 普段のレティはアルベルトへの愛が些か足らない。

 アルベルトの愛情表現に何時も受け身であった。


 美貌の皇子様だ。

 告白される事や、言い寄って来られる事は掃いて捨てる程にあるが……

 自分から告白したのは勿論レティが初めてで。


 まだレティのループを知らない頃は……

 イエスと言わないレティがもどかしかった。

 何故返事をして貰えないのかが分からなかった。

 レティも自分の事を好きなのは確かなの事なのにと。


 想いが通じあっても……

 レティの自分への愛が足りないのではと思う事があった。

 まあ、それは今も同じなのだが。


 何とも思っていない女からは、グイグイと迫って来られるものだから余計に。


 しかし……

 騎士であるレティが、自分から言い寄る事は無いのだとアルベルトが気付いたのはレティのループを知った後だ。


 だからアルベルトは……

 レティに限りない愛を注ぎ続けるのだ。



 そんなレティが……

 アルベルトを熱に浮かされた様な目で見るのは……

 彼が軍服を着た時。


 またそれが嬉しくて堪らない。


 普段の服装も軍服にしようかと思った位で。

 クラウドに相談したら……

 たまに着用するから破壊力があるのだと助言された事も。




 ***




 今回もアルベルトの側室問題が取り上げられた。

 これはどの国も同じで……

 王族の存続がかかっているからには、どうしても避けては通れない問題だった。


 特に世継ぎがアルベルト皇太子しかいないシルフィード帝国では深刻で。

 しかしそれは……

 アルベルトしか世継ぎを残していないロナウド皇帝、即ち国の繁栄を司る役目である宰相ルーカスの失態でもあったのだ。



 いや、もっと悪いのは先帝とルーカスの父であるその時の宰相だ。


 それでも先帝には側室がいたが……

 残したのはグランデル王国に嫁がせたフローリア皇女とロナウド皇子だけだった。


 当時は……

 フローリア皇女をルーカス公爵令息に降嫁させる話もあった。


 しかし……

 先帝は、その時のサハルーン帝国の脅威を押さえる為に、グランデル王国とマケドリア王国との三国との政略結婚を選んだのだった。


 国の安寧の為に政治的な結婚を優先させて来た結果が、アルベルト皇子1人にのし掛かってしまったのも、皇族としては仕方の無い事であった。



「 ルーカス、要らぬ心配だったな 」

 議会で、側室問題を取り上げられた事をアルベルトは知っていた。


 勿論、戦争になるかも知れないと言うあの時の状態ならば、宰相の立場として進言するのは当然の事。


 アルベルトとしても……

 世継ぎを残す事は自分の責務だと言う事は理解している。


 本当に戦争が始まるのならば……

 受け入れるしか無い事も。


 そして……

 それを知ったレティが受け入れてくれない事も。



「 俺は……唯一無二を悲しませて……永遠に失う所だったぞ 」

 頭を下げているルーカスの肩を叩いて、アルベルトは踵を返した。



 今から……

 何よりも大切な……

 愛しくてたまらない唯一無二を抱き締めに行こうと思って。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る