第535話 閑話─第1部隊第2班の歓喜

 




 その日は何だかいけそうな気がしていた。

 皇宮騎士団第1部隊第2班班長は燃えていた。



 昨夜、皇太子殿下に第1部隊の全員が召集された。

 こんな事は初めての事で皆に緊張が走る。


 夜遅く皆が続々と集まって来る。

 勿論、中には酒臭い奴も。


 講堂で全員が並んでいるとアルベルトとクラウドが入室して来た。


 殿下は……

 どんな時でも美しい。

 男から見ても……

 気を許したらドキリとときめいてしまう程に。


 こんなに美しく優しい人が我が主君だと言う事が誇らしい。

 主君の為ならば……

 命を賭して守る事に何の躊躇いも無いのが騎士達なのである。



「 先程、私の元に密輸の密告書が届いた。信頼に足る者の密告だ! 明日早朝に港に停泊している船の潜入捜査をする 」

「 御意! 」


 集められた第1部隊の全員が跪いて右手を心臓に当てた。



 第1部隊は20数名余りの精鋭部隊。

 第1班と第2班に別れて、危険を伴う皇太子殿下の護衛には必ずどちらかの班が同行する。


 また、潜入捜査や大捕物には皇太子殿下の命の元に出動するのは彼等だ。


 皇帝陛下就きの特別部隊はルーカス宰相の命の元に数々の事件現場に出動をしている。


 皇太子殿下就きの第1部隊は今回が初めての捜査。

 皆の気合いは十分で、そのテンションは尋常じゃ無い程に高まっていた。



 まだ薄暗い早朝に一同が講堂に集まった時に……

 この捜査の作戦がアルベルトから話された。


「 私とクラウドが船のスタッフに変装して船に乗り込む 」

「 !? 」


 殿下が?

 自ら?


 驚いている矢先にもっと驚く事が。


 なんと……

 レティが潜入するからアルベルト達はその護衛に就くのだと言う。


 何故だ?

 危険じゃ無いのか?

 殿下が何よりも大切にしているお方なのに。


 いや……リティエラ様は騎士なのだ。


 騎士では無いけど騎士なのだと無理矢理納得をさせる。

 主君の考えは絶対で、どんな命令でも異は無い程に主君を敬愛しているのが騎士達なのだから。




 ***




 港に到着すると、先ずは目立たぬ様に建物の影に潜む。

 合図があれば直ぐに突入出来る様にと。


 ラウルが何の為に皇子様に変装してるのかなどは、絶対に気にしてはいけない。

 彼等は主君の合図を待つだけである。



 暫くしてレティがやって来た。

 エドガーと一緒だ。


 可愛い……

 今日もリュックを背負っている。


 皆の顔が緩くなる。

 騎士達皆が彼女にメロメロで。

 リティエラファンクラブの会員は増え続けていると言う。



 レティが船に乗ったら、騎士達は船の下に待機して合図があるのをここで待つ。

 アルベルトとクラウドは既に船に潜入していた。



 時間の経過と共に港に民衆が増えていく。

 何をしてるのかと。

 何かの捜査なのかと。

 皇子様がいるのかと口々に聞いてくる。


「 只今、捜索の訓練をしております! 」

 適当に野次馬達の相手をする。

 しつこいジジイは嫌いだ。



 その時……

「 出動!! 」

 皇太子殿下の澄んだ低い声が響いた。


 真っ先にグレイがタラップを駆け上がって行く。

 次にヒラヒラ皇子様に変装したラウル。

 その次に隊長、騎士達の順に甲板まで駆け上がる。


 甲板の上では既にグレイが男を取り押さえていた。



「 訓練を装いながら、密輸品の捜索を開始する 」

 打ち合わせていたとおりに速やかに移動して、騎士達は手分けして密輸品を探す。



 第2班の班長を先頭に船長の部屋に入る。

 皆で部屋の捜索を開始する。


「 みつかりません! 」

 文机の中から、クローゼットの中まで見たが何も見付から無かった。


 その時……

「 この船は船長が所有する船だ! 部屋以外の何処かに隠し部屋があるかも知れない 」

 エンジンルームの捜査を終えたグレイが、船長の部屋に入室して来た。


 グレイは天井を見上げたりと部屋の構造を見ていた。


 そこに隊長がやって来たので班長の2人が報告をすると、グレイは隊長に指示をされて操舵室に向かった。



 第2班の班長は船長の部屋を諦めて隣の部屋に移動する。

 この部屋は予備の部屋で誰も使用はしてはいない。


「 ? 」

 何だこの違和感は?

 第六感が怪しいと騒いでいる。


 同じ構造の部屋なのに……

 何故この部屋の方が隣の船長の部屋より狭いのか?


 今日は朝からいけそうな感じがしていた。

 この第六感を信じたい。



 班長はもう一度船長の部屋に戻った。


「 やはり……この部屋は広い 」

 グレイの言うとおりに何処かに隠し部屋があるかも知れない。


 皆で壁を調べる。

 しかし……

 入り口がどうしても見付からない。


 やはり……

 気のせいなのか。


 もう、隊長からは退却の命も出ている。

 焦る班長。


 その時……

 窓の外から悲鳴の様な騒がしい声が聞こえた。


 班長はベランダに通じる窓を開けて外に出た。

 何が起こってるのかはここからでは分からないが、耳を劈く様な悲鳴が何かあった事を知らせている。



「 我々も行かなければ…… 」

 ベランダの手摺から海を覗いていた班長が、踵を返して部屋に戻ろうとした時……


 部屋の窓の横に扉がある事に気付いた。


 一気に高鳴る鼓動。


「 隠し部屋だ! 」

「 !? 」

 班長の叫び声を聞いて、引き上げ様としていた部下達が慌ててベランダに駆け寄って来た。


「 こんな所に扉が…… 」

 扉を見た部下達に緊張が走る。

 港の方から聞こえる騒ぎが余計に緊張感を増す。



 逸る心を押さえながら……

 班長が鍵の掛かった扉を足でガシガシと蹴り上げる。


 バーンと大きな音と共に留め金が外れて扉が開けられた。


 小さな部屋に入ると……

 数々の調度品が所狭しと置かれているのが見て取れた。


 宝石……

 装飾品……

 高価な物ばかりが部屋にあった。


「 密輸品だ…… 」

「 見付けた! 」

 部下達と共に歓喜の声を上げる。


「 早く殿下に知らせよう! 」


 港からも……

 先程の悲鳴から変わって、歓声の声が沸き上がっていた。



「 班長! 凄いですね! 」

「 お手柄ですよー!! 」

「 どうして分かったのですか!? 」

 部下達も興奮を隠せない。


「 俺の第六感が働いたのさ! 」

 班長は拳を振り上げてガッツポーズをした。



 グレイ達、第1班は盗難された魔石を発見して、第2班は密輸品を発見した。


 何時もグレイが活躍する第1班に注目が集まってしまいがちだが。

 今回の捜索で、第2班も称賛され注目される事となった。



「 お前達、諦めずに良くやった 」

 殿下の言葉が涙が出る程に嬉しかった。



 第1班と共に……

 第2班も軍事式典で皇帝陛下から勲章を受ける事に。



 間近に迫った軍事式典の授章式では……

 皇宮騎士団第1部隊 第2班班長の、誇らしく晴れやかな顔が見られるだろう。











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