第534話 閑話─レティの気掛かり
先日、料理クラブの友達のミリアに会った時に、以前に拾った猫は元気なのかとレティは聞いてみた。
恐る恐る。
「 ◯ピーですか? ええ元気です 」
やっぱり……
ミリアはまだその名前で呼んでいる。
当たり前だけれども……
レティは項垂れた。
レオナルドに付けて貰った猫の名前がいやらしい言葉で。
猫をそのいやらしい言葉で呼んでいたのはレティだ。
当然ながら……
共通語の話せないミリアは、そのままにいやらしい言葉を言い続けて来た。
いや、共通語がベラベラなレティだって、いやらしい言葉なんて知らない。
辞書でいやらしい言葉なんか調べませんから。
ミリアが結婚して嫁いでからは猫の◯ピーとは離れていたが……
今回の事件でミリアの実家も没収された事から、今はミリアの婚家で一緒に暮らしていると言う。
「 旦那様も……家族の皆が◯ピーを可愛がってくれています 」
◯ピーは公爵邸の庭に出入りしていた野良猫だったが、人懐っこい猫だった事から猫好きなミリアに引き取って貰ったのだった。
そんな嬉しそうなミリアに、今さら◯ピーはいやらしい名前だとは言えない。
「 その猫ちゃんの呼び方だけども……◯だけ取ってピーちゃんと呼んだ方が可愛いわ 」
「 そうですよね。父の船と同じ名前なんて思い出すのも嫌だから……そうします 」
ミリアはそう言って猫の名前をピーちゃんにした。
良かった。
今更感は凄いけれども……
このまま放置をしておく訳にもいかない。
◯ピーの意味を知っている人がその意味をミリアに教えたら、恥ずかしい思いをするのはミリアだ。
そして……
その名前を付けた私が痛い奴になってしまう。
「 ところで……ミリアのお父様はどうして猫の名前を船に付けたのかしら? 」
「 ◯ピーには別の意味があるから面白いと言ってましたけど……リティエラ様はどんな意味か分かりますか? 」
「 いえ…… 」
レティは澄ました顔をして紅茶をコクリと飲んだ。
ガスターは◯ピーがいやらしい言葉だと分かっていて、自分の船にその名前を付けたのだ。
そう……
共通語の話せるガスターが知らない訳が無い。
全く……
殿方の考える事が分からないわ。
そこでレティはある事に気が付いた。
「 もしかして……猫ちゃんの名前はわたくしが付けたのだとお父様に言いました? 」
「 はい、リティエラ様が名付け親だと言ったら、父は喜んでいましたわ 」
だから……
船にまで◯ピーの名前を付けたのよと、ミリアが嬉しそうな顔をする。
リティエラ様が名付け親だと皆に自慢していた事も。
終わった。
レティは真っ白になった。
そんないやらしい名前を付けた私って……
神様……
どうか変な噂が広まりません様に。
レオナルドめぇぇぇーーっ!!!
くそ~~~!!
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