第533話 閑話─料理クラブの友人達
『 ◯ピー丸 』の事件は……
皇太子が直々に陣頭指揮を取っての大捜索であった事から、港街のみならず皇都でも大変な話題になった。
国民の混乱を防ぐ為に魅了の魔石の事は伏せられた。
そして……
船を爆破しようとしていた魔力使いの事よりも、国民はもう1つの犯罪である密輸の摘発に注目した。
宰相ルーカスの命の元に……
皇帝陛下就きの皇宮騎士団特別部隊を引き連れたロバート騎士団団長が、貴族の家よりも豪華な彼等の家に家宅捜査に入った所……
様々な密輸品が見付かり彼等は逮捕された。
なので……
宝石商のゲイブ・メリッケン、輸入品を扱うギル・チェイド、この密輸品を運んでいた船のオーナーであり、船長でもあるガスター・ストロングは『悪の3G』と言われている程に、悪どい事をして金儲けをしていた事が国民の目にさらされる事となった。
彼等は禁固2年の刑に処され、彼等の財産は全て没収され、こうしてこの事件は終息した。
しかし……
レティにとっては辛い出来事となった。
1度目の人生で……
レティを海に突き落としたガスター・ストロングは料理クラブで一緒に調理をしていたミリアの父親だ。
宝石商のゲイブ・メリッケン、輸入品を扱うギル・チェイドも、料理クラブで一レティと緒に調理をしているベルとスーザンの父親でもあったのだ。
料理クラブはレティが4度目の人生を生きる為の原動力だった。
4度目の人生を歩む事となったレティは……
友達が欲しかった。
友達と学園帰りに寄り道をしてカフェに行ってみたい。
恋人との制服デートもしてみたいと思って。
どうしても叶わない皇太子殿下への恋心を捨てて4度目の人生をスタートさせたのだ。
元々食いしん坊だった事もあり、自分で作れたら楽しいだろうなと、平民達のクラブである料理クラブに入部した。
そこで、平民の彼女達と仲良くなったのだった。
その料理クラブに入部した事からレティの運命は変わった。
公爵令嬢が庶民棟の料理クラブに入部した事から、キャベツの千切りを料理だと言って家族に振る舞うレティに興味を抱いた皇太子が、今まで1度も訪れた事の無い公爵邸にやって来たのだ。
その後も……
レティの料理クラブが終わるのを待つ様になって……
皇太子がレティを待って座るベンチは、皇子様のベンチと呼ばれる様になった事はあまりにも有名な話である。
その料理クラブで同じ班だったミリア・ストロング、ベル・メリッケン、スーザン・チェイド。
彼女達は幼馴染みだ。
父親達の関係で、小さい頃から付き合いのある3人だった。
元々ジラルド学園に入学出来る平民はかなり裕福な平民達であるが……
この3人の家はかなりの財力があり、在学中にはジラルド学園に多額の寄付をしていたと言う。
悪い事をしていたとしても、自分の親である。
レティの父親である宰相ルーカスが、彼等の逮捕をして財産まで没収したのだ。
いくら友達でも……
恨まれていると思いレティは心を痛めていた。
その事件から暫くして……
お嬢様に渡してくれと言って、公爵家の使いが皇太子宮のクラウドの元に手紙を持って来た。
レティは20歳の誕生日からは皇太子宮に住んでいるので、アルベルト同様にレティの管理はクラウドがしている。
手紙はレティに会いたいと言う内容で、受け取ったレティは公爵邸で会う事にした。
平民である彼女達が登城する事はハードルが高い。
公爵邸には……
レティの15歳の誕生日に彼女達を招いていた事もあった。
15歳の誕生日に……
レティは友達を呼んで初めて自分の誕生日パーティーを自宅で開いた。
クラスの友達のマリアンナとユリベラも招待して。
4度目の人生で……
初めて仲の良い友達が出来た事が嬉しいレティだった。
***
公爵邸の居間に通された3人は、レティを見るなり駆け寄って来た。
涙を流して。
学園から卒業して……
彼女達と会うのは初めてだった。
同じ貴族であるマリアンナやユリベラ達とは、たまに会ってお茶会をしていたが。
やはり平民である彼女達と会う事は難しい。
「 あの……ごめんなさい……貴女達のお父様を…… 」
「 リティエラ様! 父達を逮捕して下さって有り難うございました 」
「 えっ!? 」
彼女達はレティの前に土下座をした。
彼女達は口を揃えて言う。
父親達は悪い事をし過ぎて命を狙われていたのだと。
脅迫文はしょっちゅうで、家の者達は怯えて暮らしていた。
悪い事を止めるように言っても父親達は、金に目が眩んで少しも聞いてくれなかったと。
「 あんな父親でも私にとってはたった1人の父で……牢屋にいるなら……それが安心なんです 」
財産も全て没収された事で脅迫文も来なくなったと言って、3人は嬉しそうな顔をした。
「 3人ともブクブク肥っておりますから、牢屋暮らしが丁度良いのだわ 」
「 2年経てばスマートになってるかも知れませんわ 」
「 色んな病気も治ってしまうかもね 」
3人はそう言ってクスクスと笑った。
豪華過ぎる家も、彼等の財産は全てがルーカスの手に寄って没収された様だったが、残った家族には十分生活出来るお金は残してくれていた。
表向きには全財産を没収した事にしなければ、残った家族が狙われてしまう事もあるからで。
彼女達は宰相ルーカスの優しさに感謝したのだった。
本来ならば……
犯罪者の娘である彼女達の将来は懸念される所だが、彼女達は3人共に既に他家に嫁いでいた。
勿論、嫁ぎ先もお金持ちである事から、それぞれの実家が潰れてもびくともしないし、彼女達の立場も悪くなってはいない。
なぜなら嫁ぎ先の本心は嫁の実家のお金よりも……
公爵令嬢であるレティと、彼女達が友達なのが大事な事だった。
皇太子殿下の婚約者である公爵令嬢のレティと平民である嫁が友達なのだ。
こんなに名誉な事は無い。
彼女達が座っている豪華な絨毯を敷き詰めた床にレティも座った。
4人で固く手を握り合ったのである。
***
「 どうした? 何だか嬉しそうだな 」
アルベルトと夕食を取っているサロンでレティはご機嫌で今日あった事を話す。
「 そうか……良い子達だな 」
「 うん……ずっと友達でいてくれるって 」
勿論、ガスター達の逮捕はレティには関係無い事だが、レティがずっと気に病んでいた事はアルベルトも知っていた。
平民の彼女達を友達だと言うレティ。
アルベルトは思い出していた。
庶民棟の平民生徒達の料理クラブに入部した公爵令嬢に興味を持ったと言う事を。
レティの3度の人生では……
宰相ルーカスの娘やラウルの妹と言うだけでは、レティに興味を抱かなかった事は確かな事で。
気掛かりな事が1つ消えて……
美味しそうに料理を食べるレティを、アルベルトは楽し気に見ていた。
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