第479話 砂漠のオアシス
サハルーン帝国は砂漠の国。
だけど……
宮殿中が緑で溢れていた。
広い廊下には木々が植えられ、花壇には花まで咲いていた。
外はあれ程暑かったのに、宮殿の中は涼しく快適な温度で、所々に大きな噴水もあり、そこから流れる水が木々の根本に注がれている事から木々が青々と繁っているのである。
この機能の全てが魔道具でなされているのが分かる。
シルフィード帝国の宮殿も空調管理されており、蛇口を捻るとお湯が出ると言う便利な生活は全て魔道具があるからで。
「 素敵なオアシスだわ 」
「 ドラゴンに襲撃される前は街の至る場所に、この様なオアシスがあった 」
平民達は集い、水を汲み、洗濯をし、オアシスが生活の中心となっていたのだとジャファルは悲しそうな顔をして俯いた。
「 アルベルト殿……今回の大量の魔石の贈り物を感謝する 」
ジャファルは立ち止まって改めてアルベルトに礼を言った。
アルベルトは、今回の訪問でシルフィード帝国から手土産として大量の魔石を持参して来ていた。
ジャファル皇太子が昨年のシルフィード帝国の建国祭にやって来たのは、魔石の確保の為でもあった。
国の復興には魔石が必要不可欠。
魔石の国のミレニアム公国に口利きをして欲しいと、ジャファルは皇帝陛下に申し入れたのだ。
口利きはしたものの……
ミレニアム公国は閉鎖的で用心深い国。
何よりもサハルーン帝国の船が港に着くのを嫌がった。
ミレニアム公国の宗主国であるシルフィード帝国でさえ、まだサハルーン帝国との国交が無い事から、そんな国に大量の魔石は輸出出来ないとして、ミレニアム大公はジャファルの申し出を断ったのだった。
そんな経緯があっての、シルフィード帝国の皇太子殿下によるサハルーン帝国への来国だった。
当然ながら世界中から注目を集めた。
手土産として……
ミレニアム公国から買い付けた魔石をサハルーン帝国に持参したと言う訳だ。
喉から手が出る程に魔石が欲しかった皇帝陛下や大臣達が、諸手を挙げて喜んだ事は言うまでも無い。
これで復興が早まると。
魔石はシルフィード帝国でも貴重な代物。
その大切な魔石を、大量に贈り物としたシルフィード帝国の皇帝陛下。
彼が真剣にサハルーン帝国と国交を結ぶ気なのだと、世界中がいきり立ったのだった。
「 凄い……設備だわ 」
レティが天井を見上げて感激していた。
硝子張りの天井からは、砂漠の太陽の陽が散々と木々に注がれているが、少しも暑さは感じない。
「 これが街中に……」
アルベルトも天井を見上げながら呟いた。
「 街だけでは無い。砂漠の至る所にこのシステムを導入した施設があったんだ 」
……と、ジャファルが言う。
サハルーン帝国はかつては少数民族の集まりの貧しい国であったが、このオアシスが導入されてからは人々の暮らしが豊かになり、どんどんと国力が大きくなって行ったのだった。
「 こんな素晴らしいシステムが砂漠の各地に…… 」
魔道具の開発をする錬金術師達の能力が、国の発展に繋がる。
サハルーン帝国もまた、シルフィード帝国に匹敵する国である事を浮き彫りにした。
アルベルトにとって、皇太子としての外遊は昨年のミレニアム公国に続き2度目の事だ。
ローランド国に留学していた事もあるが。
それも1年間も。
しかし……
16歳の学生の時の事だから、悪ガキ達と遊び回っていただけだったのは仕方の無い事で。
父である皇帝陛下が……
他国に外遊に行けなかった事を残念がっている理由が分かった。
先の皇帝が若くして崩御した事から、皇太子時代が少なかったからなのだが。
他国で見聞きした事は自分の見識を広げる財産になる。
国造りを担う立場の者としてのそれは、とても重要な事。
皇帝陛下はアルベルトには……
出来るだけ他国に行かせようとしているのだった。
レティと結婚したら……
彼女と沢山の国に行きたい。
レティも喜んで一緒に行ってくれるだろう。
彼女の好奇心や探究心は計り知れない。
魔道具を見ようと、キラキラと瞳を輝かせながらちょこまかと走り回るレティを……
アルベルトは愛し気に見つめていた。
サハルーン帝国の5日間の滞在後は……
隣国であるアルベルトの叔母のいるグランデル王国と、母であるシルビアの母国であるマケドリア王国に立ち寄る予定である。
───────────
この項目を記載していると思っていたのですが……
完全な作者のミスで載せておりませんでした。
第478話『 砂漠の国 』の後に組み入れましたので、宜しくお願いします。
サハルーン帝国の宮殿内の説明が無いので、後の話が?ってなっていたと思います。
この項目が無いと、後の木々の話に繋がりませんよね_(^^;)ゞ
本当に申し訳ありませんでしたm(__)m
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