第476話 海の上での誓い

 



 翌朝は騎士団の訓練があった。

 勿論レティも参加させて貰う。


 エレナとカレンも一緒だからそれは嬉しそうに、3人でアップを開始する。


 カレンは1年生のレティが騎士クラブに入部した時には4年生。

 エレナは3年生で当時の女子部員は3人だけだった。

 カレンが卒業してからはエレナとレティの2人だけになったが。


 2人供に父親は騎士団の騎士で、皇后陛下や将来の皇太子妃に仕える為に、彼女達は生まれた時から騎士になる為に育てられて来た。


 カレンはその後、騎士の道に進んだが……

 3度目の人生でのエレナは、騎士の道に進まなかった記憶がレティにはある。

 しかし……

 今生のエレナは、皇太子殿下と未来の皇太子妃レティをお守りしたいと言って騎士の道に進んだのだ。


 だから……

 自分の影響で彼女の人生を変えてしまった事に、レティは少し心を痛めていた。


 それをアルベルトに言えば……

「 今生は君の影響でエレナが違う道を進んでいても、それはエレナ自身が選んだ道なんだから、レティが気にする事は何も無いよ 」

 ……と、言って頭を撫でてくれた。


 彼女が騎士の道に進まなかった理由は、もう誰にも分からない事だが。



 アルベルトが甲板にやって来た。


「 全員整列! 」

「 はっ!! 」

 第1班の騎士達、カレン、エドガー、エレナの順に整列する。

 勿論レティも。



 レティはのエドガーよりは先に並びたかったのだが……

 エドと同期のエレナ先輩がいるからどうなの?

 ……と、考えてるうちにレティが最後になってしまっていた。


 アルベルトはおかしくて仕方無い。

 不服そうにエドガーを睨むレティが可愛くて。

 どうしてもエドガーよりは先に並びたいんだと。



 他の騎士達は見慣れた騎士レティだが。

 カレンとエレナは、皇太子殿下に騎士の敬礼しているレティに驚きを隠せない。


 婚約者なのに?

 どうして騎士の敬礼を?


 それに……

 昨夜に話していた内容は騎士養成所の事。

 レティと話が盛り上がった事が不思議で仕方無かった。


 レティは2人の不思議そうな顔を見て……


 しまった!

 つい……


「 リティエラ様がどうしてそれを? 」

「 そ……それは……エドに聞いていたから…… 」

 ……と、誤魔化したが……


 エドガーは……

 女子トイレや更衣室の事がやたらと詳しい男だと、カレンとエレナに思われたのだった。

 キモい奴だと。



 レティは学園を卒業してからは練習らしい練習をしていなかった。

 早朝から3度目の人生の時にグレイが考案した体力アップメニューをこなして、剣を振り、弓矢の練習をしているが……

 やはりそれだけでは駄目なのは分かっていた。



 剣を抜き、訓練に励む騎士達を見ながら……

 レティは木剣を振っていた。

 騎士では無いレティは剣を持つ事は許されてはいない。


 私だって……

 ちゃんと騎士養成所に入所して、ちゃんと騎士団に入団したのにと、なんだか悲しくなる。


 何よりも愛馬のショコラに乗って弓矢の訓練をしたいのだ。



 その夜。

 2人のデートの時間にアルベルトにお願いをする。

 相変わらずピッタリとくっついてくるがそこは我慢。


「 あのね……ガーゴイル討伐の日まで後1年と少しだから…… 私も弓騎兵としての訓練を始めたいのだけれども…… 」

「 レティ? 君は自分の馬に乗って討伐に参加するつもりなのか? 」

「 そうよ。だって私は弓騎兵だもの 」


 アルベルトは当然のように自分を弓騎兵だと言うレティに驚く。


「 それは君の3度目の人生の事だろ? 」

 今は俺の婚約者で未来の皇太子妃だと言って、アルベルトは抱き締めていたレティの身体を離して、クルリとレティを自分の方に向けた。



を持ってるのに黙って見てろと言うの? 」

 が私の元にやって来たのは……

 これはガーゴイル討伐への伏線だと思うわとレティは力説した。


「 だから私が行かないとならないの! 私が矢を射る必要があるのよ! 」

「 じゃあ……ドラゴン討伐の時の様に俺と一緒の馬に乗れば良い 」

「 ガーゴイルは一匹じゃ無いのよ! 何百といるのにドラゴンの時みたいにはいかないわ! 」


 レティは何百ものガーゴイルのいる恐怖は、ドラゴンの比では無いと身体を震わせた。



「 それでも君を危険な目に合わせる事は出来無い 」

 騎乗してガーゴイルに向かって行くレティを俺はそのままにしてはおけない。


「 第一……君はそこで死んだんだろ? 」


 アルベルトを見つめるレティの目から大粒の涙がポロポロと溢れ出て来た。


「 ごめん……不用意な事を言った 」

 アルベルトは慌ててレティの涙を指先で拭う。


「 ……ごめん…… 」

 まだポロポロと涙を溢すレティの目尻に唇を寄せた。



 そう……

 私はあの時に死んだ。

 聖なる矢でしか絶命させられないガーゴイルは、一匹も死んではいなかったのだろう。

 指から血が噴き出す程に矢を射たにも関わらず。


 だからこそ今回は必ず勝利を手にしたいのだ。

 いや……

 勝たなければ帝国がボロボロになってしまう。


 あれだけのガーゴイルが野放しになれば……

 真っ先にうちのウォリウォール領地が壊滅する。

 レティが育った公爵邸が破壊され、ジイや家人達、町の人々、穏やかに畑作業をしている領地民達が死んでしまうのだ。


 そして……

 今、正に魔獣によってボロボロになった国に行こうとしているのを忘れてはならない。



「 私は……私は弓騎兵よ! 戦場から逃げる事なんか出来ない! 仲間と共に戦うわ! 」

 涙をポロポロと溢しながら……

 アルベルトにそう言い切ったレティの美しさにドキリとする。


「 仲間と一緒に戦いたいの…… 」

 声を震わせてアルベルトに懇願する。



 そうだった。

 レティは誇り高き騎士。

 俺は何度彼女を見誤れば彼女を理解出来るんだろうか。


「 分かった。君が戦える様に……特別に騎士団での訓練の許可を与える 」

「 アル…… 」

 涙をポロポロと流して、アルベルトを睨み付けていたレティが破顔する。


「 有り難う 」

 アルベルトの首に手を回してレティが抱き付いて来た。


 アルベルトもレティの背中に手を回して抱き締める。

 スッポリと腕の中に入るこの小さな少女が、一体どれだけの物を背負っているのかと思うと、胸が痛くなる。



「 僕が君の後ろから守ると誓うよ 」

「 うん……後ろにアルがいれば安心ね 」


 ガーゴイルは聖なる矢でしか絶命させられないと記述されているが。

 から放った矢に……

 アルの聖剣から放出された雷を乗せればガーゴイルを仕留められるかも知れないのだから。


「 私達は2人で1つね 」

「 そうだね……2人で1つだね 」

 コツンと額を合わせて……

 2人はクスクスと笑った。









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