第472話 閑話─10人の爺達

 




 爺達は先の皇帝陛下の重鎮達で、先代と同じ時代を生きた者達だ。

 先の皇帝陛下が崩御したのと同時に政治の表舞台を去った。


 彼等と同じ時代を生きたエドガーの祖父バークレイ・ラ・ドゥルグと、レオナルドの祖父イザーク・ラ・ディオールは未だに当主として領地で帝国を守っているが。



 表舞台から下りた爺達は、アルベルト皇子の成長を楽しみにして、密かに生きて来たのである。


 虎の穴での勤務は……

 早くに表舞台から去った爺達への、ロナウド皇帝からの温情だと言われている。



 そんな爺達がレティの存在を知ったのは、勿論彼女が虎の穴にやって来たからで。


 虎の穴はシルフィード帝国の発展を担う研究所である。

 自分達とは違って薬学研究員や錬金術師になるには、かなりの才能が必要な部署。

 余程の頭脳が無ければここに来る事は出来ないのである。


 しかし……

 レティはまだ16歳でこの虎の穴にやって来た。

 それも……

 アルベルト皇子と一緒に。


 この天才と言われる少女が……

 ウォリウォール公爵家の令嬢だと知り爺達は歓喜した。



 先代のウォリウォール公爵はルーカスが学園を卒業した後に病で亡くなった。

 シルフィード帝国の3大貴族の長であるウォリウォール公爵の死には、皇帝陛下だけでなく多くの重鎮達が心を痛めたのは言うまでも無い。


 特に……

 バークレイとリンデンの落ち込み様は激しくて……

 皇室を支える柱が1本折れた様に、政治のバランスを少しずつ崩していたのだった。


 そんな悪いバランスを懸念している頃に、帝国に更なる不幸が訪れた。

 前皇帝陛下の突然の崩御。

 まだ若い皇帝陛下を巡って、不穏な貴族達の台頭との争いに政治は乱れに乱れた。


 新しい皇帝となったロナウドを支え、帝国を立て直したのはウォリウォール、ドゥルグ、ディオールの、新世代を担う若きルーカス、デニス、イザークだった。


 特にルーカスの手腕には目を見張るものがあり、流石はウォリウォール公爵の嫡男だと爺達は絶賛した。


 ルーカスはラウルと違い物静かな男。

 何か物足り無いものがある様に感じたが……

 いざとなれば、非情にもなれるルーカスは間違いなく宰相の器だった。



 そのルーカスの娘がレティ。

 皇子がこの令嬢に想いを寄せているのは一目瞭然。


 綺麗な令嬢と言う事は勿論だが……

 ラウル同様の物怖じしない態度、そしてその聡明さに魅了された爺達は、彼女を妃にと選んだ皇子を称賛した。



 虎の穴で、好きな事をして静かに余生を送る事を当たり前としていた爺達が、なんと他国へ視察に行く事になったのはこのレティからの発破のお陰である。


 爺達は水を得た魚の様に輝きを増した。


 老いても……

 自分達が役に立っていると思えば嬉しかった。

 レティの頼みで、薬草を摘む為に他国の洞窟にも入り、崖によじ登る大冒険も難なくやりこなした。


 そのお陰であの特効薬になるキクール草を手に入れたのであるが。



「 殿下と妃様の御子が生まれて、皇太子になるのを見届けるまでは死ねんのう 」

「 わしは御子の爺やに立候補するかの 」

「 わしは……御子のオムツを替えたいのう 」


 爺達は新たな生き甲斐を見つけた。



 アルベルトの奢りならば、喜び勇んで特上スペシャルランチをたらふく食べ、仲睦まじい2人を下ネタでからかう赤のローブを着た爺達10人は……


 今日も頗る元気だ。







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