第466話 炎の魔力使いとオリハルコンの弓
「 完成する……私のオリハルコンの弓が 」
薬学研究室で研究中のレティにシエルから連絡があった。
レティは流行り病の特効薬の量産にずっと心血を注いでいる所である。
「 リティエラ様! オリハルコンの弓が完成予定ですので錬金術の部屋までお越し下さい 」
「 やったぁー!!! 」
レティが嬉しさのあまりに叫び声を上げて錬金術の部屋まで駆けて行く。
すると……
レティの可愛らしい叫び声を聞き付けて、隣の部屋から出て来た爺達10人もゾロゾロと錬金術の部屋に入って行った。
爺達は虎の穴の物理学研究員。
多分……。
錬金術の部屋には魔力を融合させる部屋がある。
その部屋に入ると……
シエルと炎の魔力使いのマシューがいた。
マシューは平民だが平民の魔力使いは皆、皇帝陛下から男爵の爵位を与えられている。
貴族として登録する事で、監視と保護を担っているのだった。
魔力使いは国の宝。
男爵と言えども特別な存在なので態度もデカイ。
高位貴族の爺達相手でも臆する事は無い。
「 おい! ジジイ達は何をしに来たんだ? 」
炎の魔力使いマシュー・ブレアが部屋にワラワラと入って来た爺達を睨む。
この部屋は魔力を融合する時の特殊な部屋。
10人の爺達が入れば満杯だ。
「 魔力使いじゃからと偉そうに…… 」
「 殿下程の魔力は無いくせに…… 」
「 妃様に色目を使っても無駄じゃ…… 」
マシューに次々悪口を投げ付ける爺達。
爺達は退屈だった。
レティは以前に炎の魔力で攻撃された事から炎の魔力が少し……いやかなり怖い。
魔力を融合する所は見たいが……
爺ちゃん達の後ろに隠れている。
「 我々は妃様を守る為にここにいるのじゃ 」
……と、爺達はこの部屋にいる理由を取って付けた様に言う。
ただ、暇だっただけなのだが。
「 マシュー! 君の準備は良いか? 」
「 良いよ 」
爺達と揉めていたマシューが錬金術師シエルの方に向き直る。
オリハルコンは弓の形に型取られているが、このままではただのオブジェ。
オリハルコンに命を吹き込むには、炎の魔力が必要だと皇族以外は閲覧禁止の書物に記載してあったのだ。
シルフィード帝国の宝である皇帝が持つ聖杯も、皇太子が持つ聖剣もオリハルコンから作られていると言う。
なので……
このオリハルコンの弓は国宝である聖杯と聖剣と同等の価値があると言う事になるのだが……
このオリハルコンの弓はレティの私物である。
シエルは……
シルフィード帝国での武器製造の拠点であるドゥルグ領地まで出向いて、弓矢のスペシャリストに弓の作り方を習って来たのだと言う。
「 シエルさん……そんなにまでして……有り難うございます 」
「 オリハルコンなんて、錬金術師が生きてる内にお目にかかる事が貴重だからね 」
こんなレアな物に関われるなんて錬金術師冥利に尽きると言って、シエルは愛おしそにオリハルコンの弓を見つめるのだった。
「 さあ! マシュー! 」
シエルがマシューに魔力の融合を促すと、レティが慌てて爺達の後ろに隠れて隙間から顔を出した。
「 マシューさん! お手やわらかにね 」
強い魔力で弓が壊されたら大変だわ。
マシューが足を肩幅に開き両手を前に突き出し魔力を込める。
ブワッと黒のローブが翻ると炎が手を包んだ。
マシューが坊主頭なのは髪がチリチリと燃え上がるからだと言うのも分かる。
「 魔力全開でやれ! 」
シエルが叫ぶと炎が更に燃え上がった。
辺りには凄い熱気が充満する。
天井から吊り下げられているオリハルコンの弓に向かって物凄い炎の魔力が放たれると、ゴォォォっと言う轟音と共にオリハルコンの弓を包み込んだ。
その迫力に皆は息を飲む。
レティは……
魔力使いが魔力を放出する姿が大好物なのでもう目がハートだ。
「 カッコいい…… 」
炎の魔力を吸収して行くオリハルコンの弓は銀色に光る。
赤じゃ無いのは魔力には色が無いらしい事から。
「 マシュー! お見事! 」
シエルが手を叩いて喜んでいる。
どうやらオリハルコンの弓と魔力との融合が成功した様だ。
レティや爺達も手を叩く。
マシューはこんなに大勢から拍手喝采で称えられたのは初めてでおたおたしている姿が何だか可愛い。
シエルは天井から吊り下げられた銀色に輝くオリハルコンの弓を下ろして手に持った。
「 熱くないですか? 」
炎の魔力の威力は凄かった事から、出来立てほやほやの弓は何だか熱そうで。
「 大丈夫ですよ 」
命が吹き込まれたばかりのオリハルコンの弓をレティに渡した。
ドキドキと心臓の鼓動が早くなる。
持った瞬間に特別な弓だと分かる程に。
「 私の弓…… 」
レティは矢を射る構えをした。
軽い。
手に馴染む。
「 どうですか? 」
「 凄く良いです……ああ……直ぐに矢を射ってみたい 」
爺達もオリハルコンの弓に興味津々で、レティの手から弓を奪いワイワイと調べている。
その時……
マシューがドカッとソファーに腰を下ろした。
「 マシュー? 大丈夫か? 」
「 ………… 」
シエルの問い掛けにもマシューは眉間を押さえているだけで微動だにしなかった。
「 魔力切れを起こしている。リティエラ嬢! 助けてやってくれないか? 」
皆が声の方を振り向くと、いつの間にかルーピンが部屋にいた。
炎の魔力を融合させる時には、何時も水の魔力使いであるルーピンが待機している。
炎の魔力はその特性だけに周囲にはかなり危険な魔力。
殺傷能力は雷の魔力の方が強いとされているが……
取り扱い注意なのは断然炎の魔力なのである。
「 ええ、ええ! 勿論ですわ!! 」
魔力切れは命に関わる事。
私の私物にこれだけのエネルギーを注いでくれたのだから。
確か……
アルにはキスが効果的だったわね。
レティは医師。
必要とするならばマウスツーマウスだってやる。
レティが爺達を掻き分けマシューに近付くと……
何者かに腕を引っ張られた。
「 キャッ!? 」
レティを抱き寄せたのは凄い形相なアルベルトだった。
ふわっと香る嗅ぎ慣れた素敵な香りがレティを包み込む。
「 ルーピン!! レティに何をさせるつもりだ!? 」
ルーピンは魔力の研究の第一人者。
レティがヒーラーである事は判明しているので、検証したくてたまらない。
「 その位の魔力切れは、食えば元通りになる!俺がマシューに食事を提供する。マシュー、この後鱈腹食べよ! 」
手を握る位は良いじゃないかと、ぶつぶつと言いながらルーピンはマシューの肩を抱き、脱力している彼をカフェに連れて行く。
すると……
何故か爺達もゾロゾロとルーピンとマシューの後に付いて行った。
今日のランチは特上スペシャルランチを頼もうと口々に言いながら。
爺……
この時に……
医師レティがマウスツーマウスをするつもりだった事は勿論誰も知らない。
アルベルトが来なければこの場はどうなっていた事か。
だからなのだ。
アルベルトが医師レティに良い顔をしないのは。
レティが他の男をペタペタと触るのが耐えられない。
もし……
この場でレティがマシューにマウスツーマウスをやっていたら……
レティの医師の道は断たれる事になっただろう。
レティは未来の皇太子妃。
やはりその行為は許されない事なのだ。
オリハルコンで弓を作って欲しいと言う依頼は、レティ個人の依頼である。
「 だってオリハルコンは私が掘り出した物だもの 」
レティはシエルから多額の金額を要求された。
ドゥルグ領地までのホテル代込みの出張費も。
「 ………少しマケて下さらない? 」
「 駄目です! ルーピン所長に承認して貰った金額をマケる訳にはいきません 」
財布をパチンと開けて渋々お金を支払うレティにシエルはクスクスと笑う。
大きなガマ口財布を持つレティが可愛いくて。
「 またのご依頼をお待ちしております 」
シエルはレティに丁寧に頭を下げた。
虎の穴はお金にシビアだった。
オリハルコンの弓を手にしてレティはご満悦だ。
「 この子の名前は……そうね……オリハルコンだから……オハルね 」
爺達が新種の薬草キクール草と名付けた事をセンスが悪いと不服に思っていたレティだったが。
レティのネーミングのセンスも大概だった。
レティはオリハルコンの弓を手に入れた。
騎士レティの攻撃力が大幅に上がった。
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