第452話 閑話─皇子様はキャアキャア言われたい
この日はアルベルトの雷の魔力を風の矢に込めると言うので、レティは学園が終わると逸る気持ちで虎の穴に急いでいた。
マリアンナとユリベラとの今日の放課後の道草は中止にして、冬限定の熱々トロ~リバニラスフレは来週に食べに行く事にしていた。
一方、虎の穴の錬金術の部屋にはアルベルトが既に来ていた。
「 殿下? もう準備は出来ていますが…… 」
「 まだだ! まだ心の準備が出来ていない 」
スタンバイオッケーなのに、アルベルトはソファーに座ったままで一向に始めようとはしない。
殿下は執務でお忙しい筈なのに?
錬金術師のシエルは頭を傾げるが……
アルベルトは待っていた。
魔力使いが魔力を込めて放出する瞬間が好きだと言っていたレティが来るのを。
レティに格好良い所を見せたくて。
彼女にキャアキャア言って貰いたくて待っているのだ。
「 遅くなりました~ 」
可愛らしい声でレティが錬金術研究室のドアを開けた。
アルベルトは制服姿のままで飛び込んで来たレティに破顔する。
成る程……
殿下は彼女を待っていたのか。
シエルはクスリと笑う。
「 お帰り、レティ 」
会えばレティの頬にキスをする事はもう皇宮では当たり前な事で。
コホン……
シエルは1つ咳をして2人を部屋に入れた。
この部屋は魔石に魔力を融合させる部屋。
錬金術研究室にはこの部屋と同じ部屋が4部屋ある。
「 では……待ち人も来られました事ですから……始めましょうか 」
「 私が来るのを待っててくれたの? 」
「 好きなんだろ? 魔力を放出する瞬間が 」
うんうんと頷いて、尻尾をパタパタと振るレティのピンクバイオレットの瞳はキラキラと輝いている。
両手を胸の前で組んでアルベルトを見つめるレティは可愛らしいの極みである。
アルベルトはそんなレティに目をやりながら台の前に立った。
足を肩幅に広げて両手を胸の前に出して魔力を込める。
物凄い魔力と共に黒のローブがブワッと翻って……
「 わーっっ!! ストップストップ! 」
シエルが両手を交差させながら慌てて大声を上げてアルベルトを制止する。
「 殿下!? 何に魔力を融合させるつもりですか! 」
腰の位置位の台座の上には1本の矢が置いてある。
魔石は錬金術師のシエルの手によって小さな矢尻に加工されていた。
魔力を融合して欲しいのはこの矢尻の小さな魔石。
魔道具は魔石によって作られる物。
魔石を加工する事が出来るのは特殊な技術を持った錬金術師だけ。
彼等が優れているからこそシルフィード帝国は発展しているのである。
この世界における錬金術とは決して等価交換などでは無い。
「 こんな小さな魔石にそんな凄い魔力を放ったら、魔石が壊れて粉々になりますから! 」
確かに。
だけど……
もうちょっとでレティにキャアキャア言って貰えたのに。
アルベルトは少し項垂れて……
指をパチンと鳴らして魔力を矢尻に飛ばした。
黄金の光がすうぅぅっと魔石に入って行く。
すると……
緑だった魔石の矢尻が黄金色と混じりあって……
黄緑色に近い色になると思いきや……
なんと……矢尻は青になった。
「 流石ですね。1発で融合させるとは 」
風の魔力使いはこの小さな魔石に融合させる事にかなり苦戦したと言う。
そんな事を称賛されても嬉しくもなんとも無い。
俺はレティにキャアキャア言って貰いたかったんだ。
チラリとレティを見れば、目をキラキラとさせて矢尻を見ている。
可愛い。
彼女の好奇心はとどまる事が無いらしい。
「 緑色と黄色が混ざったら黄緑色になるんじゃ無いのかしら? 」
「 魔力は色では無いんですよ 」
魔石に融合するのが1つの魔力ならばその色になるが、違う魔力同士が融合するとどんな色になるのかは未知の世界だとシエルは言う。
「 今回は青になりましたね 」
綺麗なロイヤルブルーだ。
魔力……
奥深い。
こんな不思議な力を持ってるなんて……
魔力使いってやっぱり凄いわ!
レティはアルベルトをキラキラした瞳で見つめた。
キャアキャアは言って貰えなかったけれども……
こんなにキラキラした瞳で見つめられたから、まあ良いかと思うアルベルトであった。
あれだけ世の女性達からキャアキャアと言われているのにも関わらず、皇子様がキャアキャアと言って貰いたい女性(ひと)は唯1人なのである。
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本日も2話更新予定です。
読んで頂き有り難うございます。
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