第451話 閑話─白い結婚!?

 



 卒業を間近に控えた頃。

 レティは進路について考えていた。


 友達のマリアンナは卒業してすぐに婚約者と結婚をする様だが、ユリベラは婚約者がこの春に騎士団に入団する事から結婚は1年後らしい。

 ユリベラは花嫁修業として家事手伝いをすると言う。



 レティも卒業して直ぐには結婚をしない。

 だから……

 自分が何になりたいのかを真剣に考えていたのだった。


 当然ながらレティに家にいる言う選択肢は無い。


 そもそもレティの様な高位貴族の令嬢が社会に出て働く事は稀で、結婚までの時間は家で花嫁修業をするのであった。




 1度目の人生は商人。

 2度目の人生は医師。

 3度目の人生は騎士。


 そして……

 4度目の人生はもう既に商人で医師になっている。


 騎士にはなれない事は分かっている。

 皇太子殿下の婚約者が……

 やがては皇太子妃になる者が、皇族に命を捧げている騎士にはなれる筈が無いのだから。

 勿論、気持ちはガッツリ騎士だが。




 女官や文官も興味がある。

 だけど……

 文官養成所に毎日通うのも難しい。

 この1年で……

 やらなければならない事を優先出来ないのは駄目だ。



「 だから……僕と結婚をしよう! 就職先は僕で! 」

 帝国の皇太子がそれはそれはキラキラした目で訴えてくる。

 最近は頻繁に口説いて来るのだ。

 あの手この手で。


「 それは出来ないと言ってるでしょ? それに今から準備しても結婚式は1年後になるわ 」

 世界中から王族を招待する皇族の結婚は貴族の結婚とはその規模が違う。

 その準備には1年でも足らない位である。


「 じゃあ、来年には結婚してくれる? 」

「 だからね、来年は無理なのは分かってるでしょ? 」



 来年は私の運命の20歳。

 船の爆発を防がなければならないし、流行り病の特効薬もまだ完成してない。

 ガーゴイルの討伐用の聖なる矢の対策を考えなければならない。


 聖剣からアルの魔力を放てばガーゴイルを絶命させられるかも知れないが……

 それはあくまでも仮定だ。

 もっと色んな対策を立てて準備をしておく必要がある。



 もしかしたら……

 私の4度目の死はその先にあるのかも知れない。



「 来年なんか結婚出来るわけないわ! 」

 もういい加減に諦めて欲しい。

 21歳の誕生日までは無理な事なのだから。



「 だったら……一緒に住むだけでも……駄目? 」

 悲しみに打ちひしがれた仔犬みたいな可愛い顔をして、レティの顔を覗き込んで来るのは帝国の皇太子。

 まるで駄々っ子の様に。


「 世には白い結婚って言うのもあるんだから 」

「 へっ?………白い結婚!? 」


 思わず変な声が出ちゃったわ。

 何を言い出すのだこの皇子は。



 白い結婚とは……

 政略結婚の成れの果て。

 書類の上では結婚しているが、同じ屋根の下に住んでいるだけで夫婦生活をしていない夫婦。

 もしかしたら一緒にも住んでいない事もある。


 つまり……

 結婚はしてるけれども、ただの1度も身体の関係が無い夫婦。


 他に好きな人がいるか愛人が既にいるとかで、貴族社会には身分の違いによって決して結ばれない相手がいた。

 その相手への究極の愛が白い結婚になるのだった。



 結婚は家同士の繋がり。

 家の為にも結婚をしなければならない事から、自分の気持ちも身体も他の者にありながらも、親に決められた相手と結婚しなければならない事もあった。


 夫婦共に愛人がいると言う割り切った関係ならばありかも知れないが……

 夫のみに愛人がいて、妻にはそれが許されない場合が殆どである。


 愛人に子が出来れば……

 正妻の子として育てられると言う事もあるらしい。

 正妻、愛人、子供のどれをとっても結果的には皆が不幸な結婚になる事が多かった。



 御代の為に皇子を残さなければならない定めの皇太子には、白い結婚はあり得ない事だったが……

 側室にさえなれない身分の者との愛は存在した。

 もう……

 そこには泥々の愛憎劇が繰り広げられただけだったが。



「 21歳までに子供が出来ると駄目だから、結婚をしないと言うレティの気持ちは分かる。だから……一緒に住んで白い結婚をすれば良いんだよ 」


 こいつは……

 何を言ってるんだ?

 私達はこんな状態なのに?


 今……

 レティはアルベルトの膝の上に乗せられてチュッチュッとキスをされている。

 最近はやたらとスキンシップが多いので困っている所だ。


 今でもこんなに危ういのに……

 愛し合う2人がずーっと同じ部屋に一緒に住んでいて、白い結婚なんか成立する筈が無い。

 恋愛未経験のレティですら分かる事で。



 レティが呆れた顔をしてアルベルトを見ていると。


「 うん……無理だな……レティと一緒の部屋にいたら2日で完全に押し倒しているな 」

 僕が我慢出来る筈がないよと言ってレティに熱い視線を送って来た。


 この色っぽさは危険。

 スイッチが入ったら面倒な事になる。


 レティは慌ててアルベルトの膝の上から下りた。

「 じゃあ。またね 」と言いながら。


 慌てて逃げるレティの焦った顔がまた可愛くて仕方無い。


「 送るよ 」

 アルベルトはクスクスと笑いながらレティに駆け寄り手を繋いだ。


 2人が仲良く手を繋いで歩く姿は皇宮では程に見られる様になった。

 レティが入内するに合わせて皇太子宮を改装していて、最近はその打ち合わせをする為に、レティが頻繁に皇太子宮に訪れていたのだ。

 クラブ活動も終わった事もあり。



 皇太子宮の改装も後少しで終わる。


 レティの気持とは他所に……

 周りは着々と結婚に向けて動き出していた。








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本日は2話更新しております。

ここからお入りの方はもう1話前もお読みください。


読んで頂き有り難うございます。



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