第450話 閑話─誇れる能力

 



 レティは卒業式の時に表彰された。



「 リティエラ・ラ・ウォリウォール君! 前へ 」

「 はい 」

 小柄で華奢な女子学生がトコトコと学園長の前に歩いて行く。

 次々に呼ばれて前に歩いて行くのは屈強な男子生徒達ばかり。

 何事かと会場が少しざわざわとした。



 主賓席には皇太子殿下がいた。

 そこだけキラキラ輝いていている様で……

 彼がいるだけであらゆる場所が華やかになるのだった。


 シルフィード帝国は絶対君主制である為、全ての決裁を皇帝陛下と皇太子殿下が担う。

 アルベルトは文科省を担当している事から、教育関係や医療関係は彼の決裁が必要とされるのである。


 そんな関係から学園の卒業式に主賓として呼ばれる事は不思議では無いが、本来ならば皇太子殿下が来る事は無く文相が代わりを担うものである。

 しかし……

 やはりレティの卒業式なのでアルベルトがやって来たと言う訳だ。



 レティは『4年間無遅刻無欠席』の快挙を表彰された。

 名前を呼ばれたのはレティと後3人。

 3人共に騎士クラブのガタイの良い、雪山に裸で放り投げても平気そうな猛者達ばかり。


 学園生活は4年間もある。

 その4年間を無遅刻無欠席で過ごす事は並大抵のものじゃなく、健康な身体と健全な精神力があってこそだ。



 アルベルトの横に座っている文相はご満悦である。

 彼は以前から学業を何よりも大切にするレティを好ましく思っていた。


 そして……

 これだけ健康な令嬢ならばと、ご成婚をした暁には御子の誕生に思いを馳せる事は当然で。

 もう、何人でも産むかも知れないと未来の皇太子妃に期待を寄せる。


 何よりも殿下の彼女への寵愛は凄まじいのだから。

 この卒業式も、自ら出席の意を表したのも彼女がいたから。

 主賓席から彼女を見つめる殿下の目はあんなにも愛おしそうで……

 横にいる文相は目を細める。


 本当に……

 我がシルフィード帝国はこれで安泰だと、文相だけで無く他の大臣達も久方ぶりの帝国の慶事を喜んでいるのだった。




 俺の愛しい婚約者が……

 あんな野郎達と同じだなんて。


 何処から見ても健康的なデカイ奴等と、小さなレティが並んでいる姿が可笑しくて。

 アルベルトが笑いを堪えている。



 この4年間。

 レティの学園へと拘りは凄く、何よりも学園に行く事を優先させた。


 熱が出て寝込んだ事もあったが……

 それは学園が休み中だった事もあって。



 その時の事をアルベルトは思い出していた。


「 ずっとずっとお慕い申しておりました……」

 あの時、熱で寝ていたレティが確かそう言った。

 ちょっと意識がハッキリとはしていなかった様だが。


 まだレティが俺の想いを受け止めてくれ無かった頃。

 そうだ……

 クリスマスに告白したのに何の返事もしてくれ無くて、少し気落ちしていた時だ。


 あの時は彼女の本心を言ってくれたのかと単純に喜んだのだが。

 あれは俺に言った言葉じゃ無くて……

 彼女がループしている時の俺に言った言葉だったのだと今なら分かる。

 彼女はずっと俺に片想いをしていたのだから。



 何時かは俺がイニエスタ王国の王女と婚約をすると思い、頑なに俺を拒んでいたレティ。


 今生の俺は……

 今までの俺の分も君を愛するよ。

 沢山の愛を君に贈り続けるから。


 色んな事を思い出す度に愛しくなる。

 アルベルトのレティへの想いはどんどん深くなって行くのだった。




 レティ達は表彰状を貰った。


「 リティエラ君! 俺達頑張ったよな 」

「 ええ、これはやはり誇れる事よね 」

「 我が同士! 」

 そう言いながら屈強の男達の1人がレティの手を両手で握った。


 !?

 デカイ男は頭を押さえて天井を見た。


 うそ!?

 アルが雷を落としたの?


 微弱過ぎて誰も気付かなかったが。

 本人さえも軽く頭を押さえる程度。

 まだ上を見ている。


 レティがアルベルトを見ると……

 アルベルトは指でバンと打つ真似をした。

 ニヤリとしながら。


 やっぱりアルね。

 今、私が手を握られたから落としたんだわ。

 本当にやきもち焼きなんだから。


 でも……

 こんなにも魔力を調整出来る様になったのね。

 何だか羨ましい。

 自分も魔力があればと思うレティであった。



 レティはそんな魔力使いの魔力を、増やせたり消滅させる事が出来る魔力使いの操り師である。


 レティ自身は、まだ自分の能力には気付いてはいないが。







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本日は2話更新予定です。



読んで頂き有り難うございます。



 

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