第453話 閑話─レティの功績
シルフィード帝国の医療界に皇太子殿下がメスを入れた。
皇帝や宰相でさえも踏み込めなかった世界に。
医療界は人を治療して助けると言う神の様な世界だ。
誰もがなれるものでは無い医師は、やはり特別な存在として君臨していた。
専門用語を並べ立てられて、医師からこうだと言われれば従うしか無い世界だった。
だから……
世間からは尖ったナイフと恐れられている宰相ルーカスでさえも手付かずな世界であった。
皇帝陛下は、文部省全体の権限は皇太子の決裁を行使させる事にした。
文部省には、学園、病院、図書館、皇立特別総合研究所(虎の穴)の管理がある。
比較的に安定している部署であり、まだ若い皇太子にとってはやり易いと判断したからだった。
そんな若い皇太子を軽くみたのか、病院長が直ぐに病院の改革を申し入れて来ていた。
病院長が改革をして欲しかったのは設備や給料面だったが。
しかし……
アルベルトがメスを入れたのは別の事だった。
勿論そこには医師であるレティがいるから。
彼女の功績は計り知れない。
病院長は、皇宮病院と庶民病院を兼任していたが、それぞれに同等な立場の病院長を着任させ医師の管理を徹底させた。
それは……
あの皇都の大火の時の事があったからで。
庶民病院の医師の怠慢さにレティは腸が煮えくり返ったのだ。
医師免許の更新制も導入した。
地方の医師が皇宮病院で医師免許を更新する事で、新しい医術や薬学を学ぶ事を義務付けた。
勿論、それに関わる費用は全て政府持ちである。
これは地方医師であるヤング医師には向上心が無い事をレティは懸念した。
医師が向上心を失えば助かる患者も助からない。
レティはそれを許したくは無かった。
この春には女医が2名程誕生していた。
勿論……
レティが医師だからだ。
レティは医師になった2度目の人生では苦労をした。
女性だからと言うだけの差別で悔しい思いを何度もしたのだった。
女性医師が必要だと言いながらも何も改善しない現実。
しかし……
女性医師を必要としたのは皇太子妃の主治医になって欲しかっただけ。
医師としての技術なんかは必要無かった。
そんなレティが皇太子殿下に助言するのは女性医師が働きやすい環境だ。
医師の試験を受けた女性達は、医師になりたかったが女性には厳しい世界だと思い、諦めて文官になっていた女性達だった。
彼女達は見事合格して、今は先輩医師について医師の修行をしている所である。
皇太子殿下の婚約者が医師ならば、きっと自分達の力になってくれるだろうと彼女達は思っている。
今、新米医師である彼女達は希望に燃えていた。
そして……
レティの功績はこれだけでは無かった。
学園の騎士クラブへの女生徒の入部が増えたのだ。
騎士養成所に入るには、学園で騎士クラブに入部する事は必要不可欠。
この4年間の体力作りが無ければ騎士団ではついていけない事から、騎士クラブに女生徒が入部する事は未来に繋がる事なのである。
レティの……
昨年の卒業式での横暴な卒業生に対してのドロップキック。
他国王太子との決闘。
それは……
淑女としてどうなのかと言う声も勿論上がってはいるが。
これらの事は女性達を刺激したのだった。
男性相手でも己の正義の為なら一歩も怯まないレティに感銘を受けた。
そして……
それが出来るのは騎士クラブで鍛えているからこそであるのは確かな事。
今までの女性騎士は、騎士団の団員の娘が志願する事が殆どで。
彼女達は皇后や皇女や妃達の護衛に就く為に、生まれた時から女性騎士になる事を前提に育てられていたからである。
それでも……
学園の騎士クラブには入部するが騎士養成所に入所しない事もあった。
その殆どが結婚する事になったりして。
なので……
一般生徒が騎士クラブに入部する事はあまり無かった事なのだが、レティに憧れて騎士クラブに入部する女生徒が増えていた。
今までは憧れるだけだったが……
実際にやってみたいと挑戦する事が大事で。
レティは卒業してしまったが……
来年度は女生徒達の騎士クラブへの入部が、かなり増える事になるのだった。
医師の世界も騎士の世界も女性が欲しいと言う要望があるものの……
女性には高い壁があった。
だけど……
そこにレティがいる事が……
皇太子殿下の婚約者がいる事が……
今まで諦めていた女性達が希望が持てる事になったのだ。
やがて騎士養成所も騎士団も直に改革される事になる。
女性が入所しやすい様に。
女性がもっと活躍出来る様にと。
レティの要望は……
普通なら女のくせにと無視されたり非難されたりして相手にもされないのだろう。
だけどレティは強い。
何故なら彼女の後ろには……
彼女を愛して止まない最強の皇太子殿下がいるのだから。
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本日も2話更新しております。
ここからお入りの方はもう1話前もお読みください。
次話から本編の第5章に入ります。
読んで頂き有り難うございます。
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