第448話 共に歩む人生
今日は私の卒業式。
壇上では皇太子殿下が演台に手を付いて演説をしている。
卒業生への餞の言葉を。
4年前の入学式が思い出される。
この4度目の人生はあの日から始まった。
ガーゴイル討伐に向かったあの日。
突如横から現れたガーゴイルから皇太子殿下を守ろうと、手に持った矢をガーゴイルの目に突き刺し、暴れた翼に馬ごと弾き飛ばされ絶命した瞬間……
入学式の壇上に立つ皇太子殿下(アル)を見つめていたのである。
ああ……
また、この場所に戻って来てしまった……と。
私は3度目のループをした。
空を魔獣で多い尽くされた薄暗い世界から、鮮やかな花が飾られた明るい講堂に立っていた。
見つめる目の先には……
軍服を着て指揮を取っていた22歳の皇太子殿下では無く、学園の制服を着た17歳の皇太子殿下(アル)がいたのだった。
あれから4年。
今日で私の4年間の学園生活が終わる。
いや、私にとっては16年間の学園生活だ。
もし……
5度目の人生があるならば……
私は学園生活を送らないつもり。
16年間も学生をしたのだからもう十分。
それに……
何がどうなってこうなったのか、この4度目の人生はあれ程恋い焦がれていた皇太子殿下(アル)から見初められ、今は婚約者となっている。
私の3度の人生では見向きもされなかった事が起きたのだ。
歴史に名を馳せるシルフィード帝国の皇太子殿下と言う大きな存在に関わった事は、何もかもが特別な事になるのは当然で。
今まで経験した事の無い世界を経験した4度目の学園生活だった。
私がループして来た人生は、どの人生も同じものでは無かった。
耳にする大きな事件や事故はあったが……
私がそれに関わる事は無かったし、敢えて関わるつもりも無かった。
ループして来た過去とも未来とも分からない奇妙な時を注視する事も無く、与えられた時間を懸命に生きていた。
ただ……
3度のどの人生も皇太子殿下はイニエスタ王国のアリアドネ王女と婚約をした。
それだけは3度のどの人生でも同じだった。
だから……
きっと5度目の人生はまた、そうなるのだろうと思っている。
ただ……
今生がイレギュラーだっただけで。
それは違うとアルは言う。
「 レティのループする原因は、間違った人生をやり直しているからだ 」
「 間違ってはいないわ……3度の人生があるから私は商人で、医師で騎士なのよ 」
きっと……
これだけを経験して来た私だからアルが好きになってくれたのかも。
そう言うとアルは優しく目を細めた。
「 やっぱり僕と出逢う為にレティはこの4度目にループして来たんだよ 」
だから……
だから生き残る為に頑張ろうと言う。
この4度目の人生が正しい君の人生なのだからと。
そんな風に言われれば……
そうなのかなとも思う。
生き残る為には私は私の死を回避しなければならない。
私が死んだ時には私だけで無く沢山の人達が死んだ。
自分の死を回避すれば、沢山の人達も死なずに済む事になると言う思いもある。
予言者になって無人島で魚を釣って過ごすと言う5度目の人生も捨てがたいが。
やっぱり……
この4度目の人生を全うしたい。
皇太子殿下(アル)と共に歩む人生を。
***
可愛い。
1人だけキラキラしている。
俺の婚約者は何時も綺麗だ。
俺は今、壇上からレティを見ている。
レティのループしている3度の人生では俺は彼女に見向きもしなかったと言う。
ルーカスの娘でラウルの妹なのだから彼女を知らない筈は無いのだ。
それが不思議でならない。
3度の人生での俺は何をやっていたのかと全く呆れるしかない。
こんなに……
こんなに好きになれる女性(ひと)なのに。
自分の結婚には何も望んではいなかった。
父上も母上も、祖父母も皆国と国との政略結婚だった。
叔母上も……
留学先のローランド国の国王夫妻も王太子夫妻も……
王族に生まれたのならそれが当然な事だと理解していた。
それでも……
自分の妃になる王女とは、父上と母上の様に仲良く手を取りあって国を治めて行きたいと思っていた。
多分……
レティの3度の人生での俺もそう思っていたのだろう。
しかし……
レティに出逢ってしまったのだ。
彼女の3度の人生では無かったレティと俺の出逢いが、この4度目の人生で起きた。
自分がこんなにも女性(ひと)を好きになれるとは思っていなかった。
今まで知らなかった感情が次々と溢れてくる。
彼女に逢いたい。
彼女と話したい。
彼女と一緒にいたい。
彼女に触れたい。
彼女に嫌われたくない。
そう……
嫉妬と言う感情も初めて知った。
もう……
レティがいない世界は考えられない。
俺はレティがいないと狂ってしまうだろう。
彼女は言う。
5度目の人生が始まったら、学園を退学して無人島に行くのだと。
5度目の人生は俺とは出逢わないつもりらしい。
4度目の人生の今がこんなにも楽しいからと。
俺と婚約をするこの人生はイレギュラーだと言うのだ。
とんでも無い。
俺はこの人生こそが正しい人生だと断言する!
今まではレティと俺が出逢わなかったからこそ、彼女はループしていたのだと。
だから俺はこの人生を成就させる。
いや成就させなければならない。
そうでないと……
レティの5度目の人生での俺はレティのいない人生を送る事になる。
こんなに人を好きになる人生を……
誰かを愛する人生を5度目の人生での俺は経験出来ないのだと思うと……
未来の俺が不憫でならない。
兎に角レティを死なせない!
俺の魔力が開花したのもレティがいたから。
レティの3度の人生での俺は魔力は無かったと言っていた。
この魔力はきっと彼女を守る為の力。
だから……
もう2度とレティをループなんかさせない。
それでも……
それでもループする事に抗えないのなら。
俺はレティと共にループするつもりだ。
聖剣で胸を突き刺し共に絶命する覚悟でいる。
そして……
入学式の日に……
今みたいにレティを見付けるのさ。
逃がしてなんかやるものか。
壇上から駈け下りてレティを抱き締めて逃がさない。
今だって……
こんなにも彼女を抱き締めたくてたまらない。
椅子にちょこんと座って俺を真っ直ぐに見つめる愛しいレティを。
レティと共に歩む人生は……
こんなにも楽しいのだから。
アルベルト皇太子殿下とリティエラ公爵令嬢は……
これから始まる困難に……
2人は共に立ち向かおうとしていた。
────────────────
この話で第4章のレティの4年生が終わります。
入学式から始まったアルベルトとの出会いから、4年間の学園生活も終わりました。
この後は閑話を何話か書いて第5章に入って行きたいと思います。
第5章からは一気に核心に触れて行くつもりです。
この物語はレティが21歳になるまでの6章で完結予定です。
結末は……
読者様の想像どおりでございます。_(^^;)ゞ
2人のこれからのイチャラブを、キュンキュンしたり少しイライラとしながら楽しんで頂けたら嬉しいです。
読んで頂き有り難うございます。
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