第446話 未来への誓い─卒業試合

 



 卒業式を間近にして……

 各クラブではお別れ会が開かれていた。



 レティの学園生活での1週間は全部埋まっていて、止まったら死ぬのでは無いかと言う位に毎日忙しくしている。

 学園生活を楽しむと言う今生の目標である意気込みをそのままに。

 やりたい事をやっているので苦では無かったが、出来れば身体が2つ欲しいと何度願った事か。



 週に2回の騎士クラブ。

 料理クラブに語学クラブ、最近では皇子様ファンクラブにも入会して……

 同じクラスのマリアンナとユリベラとの週に1度の学校帰りのスィーツ店への寄り道は外せない。


 唯一残念なのは……

 昨年発足した釣りクラブに入会出来なかった事。

 釣りクラブは休日に活動する事から、レティに就けられている護衛騎士達を、釣りに付き合わせるのはあまりにも気の毒だと思ったからで。



 語学クラブのメンバーとの最後のクラブ活動も先日終わった。

 彼等はローランド国に一緒に留学した仲間達。


 2年前……

 やっとアルベルトの想いを受け入れる事が出来た時、アルベルトとイニエスタ王国のアリアドネ王女との婚姻が議会で決まった。


 父親のルーカスからも、この恋を諦める様に言われた1番辛かった時……

 逃げる様に旅立ったローランド国で、何も言わないで側に寄り添っていてくれた優しい仲間達であった。



 彼等は外交官になる為に文官の道に進む。

 春から文官養成所に入所する。





 ***




 騎士クラブではレティの学年では女子はレティだけ。

 それでも騎士クラブにレティがいるからか……

 2年生と1年生には女子がかなり入部していた。


 騎士クラブの部員達はレティ以外は騎士の道に進む。

 入学当初から入部していた正統派部員達も……

 レティがいるから入部したと言う31名の不埒な考えの部員達も、この春から騎士養成所に入所する。


 これだけの数の入所希望者は初めての事で……

 騎士団の幹部達は大層喜んでいるそうだ。




 卒業試合。

 後輩達から卒業生に試合を挑む毎年恒例の行事である。


 1年生はまだ対戦すると言うレベルに達していない事から、試合が出来るのは2年生と3年生。



 何と……

 皆がレティに試合を申し込んで来た。


 グランデルの王太子と決闘をしたレティと試合をしたいと思うのは当然で。

 決して不埒な考えでは無い。


 しかし……

 不埒な考えで入部して来た同期は許さなかった。

「 この……不埒者めが! 」


 まさか……

 全員と試合をする訳にはいかないので……

 2年生の女子部員達とレティからの逆指名男子部員1人が対戦する事になった。



 騎士クラブに弓矢の指導に来ていたグレイ、サンデー、ジャクソン、ロン、ケチャップの5人が、最後だからと皆で卒業試合を見に来ていたが……

 真剣に揉めている生徒達にゲラゲラと腹を抱えて笑っている。


 レティがいる場所は何時もワチャワチャと楽しい。


「 卒業試合って、もっとしんみりとした物じゃ無いのか? 」

「 俺達は泣きながら先輩や後輩達と対戦したよな 」

「 俺……号泣して試合にならなかったッスよ 」


 ケチャップは昨年の部長と同じだった様で。

 昨年の部長は……

 卒業して行くエドガーと対戦する時も、自分が卒業する時も号泣して試合が出来なかった。

 その部長とは……

 今ではレティのクラスの友達のユリベラの婚約者である。


 騎士団の騎士達も学園の卒業生。

 各々に懐かしい思い出があるのだった。




 レティが指名したのは……


「 キーくん! 」

 キーくんはエドガーの4歳下の弟。

 勿論、グレイの従兄弟である。


「 へぇ……キースか……」

 面白い対戦だな。

 グレイが瞳を輝かせた。



「 キーくん呼びは止めてくれって言ってるだろ! 」

 入部してからずっとレティにキーくんと呼ばれているので、騎士クラブだけで無くクラスでもキーくんと呼ばれる様になっていた。

 黒髪短髪の体躯の良いキースは気に入らなかったが。


 しかも……

 憧れのグレイの前で言われたもんだからキースは真っ赤になっている。

 お兄ちゃん大好き弟だが、騎士団ナンバー1の実力の従兄弟であるグレイを神の如く慕っているのだから。



「 さあ! かかってらっしゃい! 私はエドより弱いけど、エドと同じ顔をしていてもキーくんには負けないわよ! 」


 エドガーの顔を知っているグレイ達3人と卒業生達は大ウケだった。


 エドガーとキースはそっくりなのだ。

 最近はキースの背も高くなり益々そっくりで。

 レティは騎士クラブに来る度に、キースを捕まえては趣味である間違い探しをしていた。


 ハグはアルベルトにしたら駄目だと言われていたので、ハグこそしなかったが。

 顔を覗き込まれて赤くなるキースを、お構いなしに可愛い可愛いと追い掛け回していたのだった。

 悪い先輩である。



 そうなると……

 試合の申し込みは部長のケインに集中した。

 この学年は不埒な考えで入部した部員ばかりだから、どの学年よりも人数が多い。


 誰とも対戦出来ない卒業生達は……

 なんと……

 グレイや他の4人の騎士達と対戦する事になった。


 もう大盛り上がりである。



 レティは後輩の女子生徒達には勿論勝利したが、キースには負けた。

 流石に騎士の家系のドゥルグ侯爵家の次男坊である。


「 参りました 」

 あら!?

 こんな顔もエドとそっくりだわ。

 握手をする為に手を伸ばして来たキースの手をグイッと引っ張り、見上げたキースの顔をまじまじと見つめる。


 フワッと香る女性特有の甘い香り……

 白い肌、ピンクバイオレットのキラキラとした大きな瞳。

 長いまつ毛に赤い小さな唇。

 耳まで真っ赤になるキースの顔を、至近距離で覗き込むレティは別の意味で勝利していた。



「 もう……止めてあげて! 」

 赤くなるキースを見てロンが思わず叫んだ。

 他の騎士達も頬を押さえている。


 思春期の青年を弄ぶなんて……


 グレイがクックッと笑いを堪えて肩を揺らしていた。

 キース……

 可哀想に。



 最後はケインの希望でケインとグレイが対戦した。

 レティに出会わなければ騎士になる事なんか無かったケインだったが……

 憧れのグレイと対戦出来て幸せだった。


 彼みたいに強くなりたいと思った。

 レティを守る為にも。



 卒業試合は大盛り上がりで終わった。



 ケインとグレイの試合が終わるとレティは泣いていた。

 涙がポロポロと次から次へと溢れて止まらなかった。


 レティは騎士の道には進まない。

 皇太子妃になるレティは……

 ここにいる皆とは同じ道には行けないのだ。


 3度目の人生は騎士の道に進んだ。

 ここにいるグレイ、サンデー、ジャクソン、ロン、ケチャップのいる騎士の道に。


 涙が止まらなかった。

 志半ばで断たれた道を想って。



 部員の皆も泣いていた。

 レティの気持ちが分かるから。


 彼女は誰よりも本物の騎士の様だった。

 きっと騎士になりたかったに違いないと思って。


 だけど……

 彼女は皇太子妃になる。

 自分達の主君になるのだ。



 皆がレティの前に跪いた。


「 我々は皇太子殿下と貴女を守る為にこれから騎士の道へ進みます 」


 ケインが叫ぶ様に言うと……

 皆が頭を垂れて……

 手を胸に当て忠誠を誓う騎士の礼をした。


 レティはずっと涙が止まらなかった。

 2年前にアルベルトと一緒に見た光景がここにあった。



 在校生達も皆が泣いていた。



「 良い後輩達ですね 」

「 彼等は立派な騎士になりますよ 」

「 俺達の部下になるのが楽しみッスね 」


 グレイ達騎士の皆も感動していた。

 ケチャップはただただ号泣していた。



 毎年行われる騎士クラブの卒業試合。

 今年も涙涙の感動で終わった。


 騎士の卵達もベテラン騎士達も……

 みんなみんな熱かった。










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