第441話 閑話─お姫様抱っこ

 



 レティの拗らせはまだあった。



「 皇子様が王女様をお姫様抱っこで優しく抱き上げて…… 」

「 キャア~!! 憧れるわ~お姫様抱っこ 」


 お喋りなメイド達の声がリピートする。



 アルは……

 何で私にはお姫様抱っこをしてくれないのかしら?


 皇子様にお姫様抱っこをして貰う事は全女性の憧れ。

 物語にはとても素敵に描かれているのだから。


 レティはその皇子様が彼氏であり婚約者なのである。

 だから……

 誰よりも実現出来る立場なのに……

 その皇子様がレティを抱っこする時は何時も縦抱きだ。



 それが気に入らない。

 まるで小さな子供の様にヒョイと抱っこされる。


 多分荷物なんだろう。

 急いでいる時に抱き抱えられるのだから。

 それは足の長さの違いがあるからか?



 ロマンチックにお姫様抱っこをされたい。

 そして……

 クルクルと回りながらアハハウフフと笑って見つめ合うのよ。

 花を飛ばしながら……



 勿論お姫様抱っこをしてと言えば優しいアルはいくらでもしてくれるに違いない。

 だけどそれでは意味がない。

 あんなものはサプライズでなくっちゃ。



「 王女様は皇子様の首に手を回して……皇子様の逞しい胸に顔を埋めたのよ。まるで恋人同士みたいだったわ 」

 お喋りなメイドはこんな事まで言っていた。


 恋人は私!

 あいつら……

 城勤めとしてはなっとらん!

 皇宮に住むようになったらとっちめてやる。

 声だけでは分からないかも知れないが。


 それに……

 あの時ポリポリと食べていたお菓子も気になる。

 あのポリポリと言う音のお菓子は何なのか?

 ポリポリなのだ。ポリポリ……


 確か……

 王女は腰を抜かしたとか言ってたわよね。

 腰を抜かしたらお姫様抱っこで運んでくれる?

 でも……

 腰ってどうやって抜かすのかしら?



 3度の人生で皇太子殿下と婚約をしたイニエスタ王国のアリアドネ王女はレティのトラウマ。


 だから……

 こんなにも拘ってしまうのも仕方の無い事であった。





 ***




 クリスマスの夜から翌朝にかけて皇都には大雪が降った。

 雪が積もると馬車は走れない事から、皇宮での仕事は休みとなる。

 学園は冬休みに入ったのでレティには支障は無いが。



「 やってるやってる 」


 アルベルトが公爵邸の門をくぐると……

 キャアキャアと楽しそうな声が聞こえて来た。


 レオナルドも遊びに来ていて、広い庭で3人で戦闘中。

 ただ……

 エドガーは除雪作業に騎士団で駆り出されているので、今回は不参加。


 ラウル、レオナルド組対レティの雪合戦をしている。

 レティがこの悪ガキ3人と遊ぶ時は全てが対レティなのが面白過ぎる。

 それも本気で遊ぶのだ。

 きっと……

 兄達はムキになるレティが可愛くて仕方無いんだろう。



「 アルーっ! 」


 アルベルトを見つけるやいなやレティは両手を上げて万歳をした。

 味方が来たと大喜びで。


 寒さと冷たさで真っ赤になった頬と鼻先が可愛らしい。

 アルベルトの好きなちょっと広めのオデコを見せながら駆けて来る。


 アルベルトが両手を横に広げると……

 その逞しい胸に飛び込んで来た。


 ああ……

 可愛い。


「 私1人でもあの腰抜け文官の2人と互角なのよ 」

 エドガーがいなけりゃ大した事無いわねと言って、アルベルト腕の中でケラケラと笑う。



 指先が真っ赤になっているので思わず手を握ったら……

 その手を俺の頬に当てて、冷たいでしょうと悪そうな顔をする君が好きだ。


 ラウルが投げた雪玉が顔面に当たって涙目になってる君も。

 飛んでくる雪玉に当たらない様に俺の後ろに隠れる君も。


 後ろを向いたら……

 小さく丸まって1人でせっせと雪玉を作ってる君も……


 レオに挑発されて前に行くなり激しい攻撃に合い、慌てて俺の後ろに逃げて来る君が……

 その時に滑ってコロンと転んだ君も……


 君の全部が大好きだ。



 君と笑い合うこの瞬間がどれだけ尊いものかと改めて思う。

 母上から言われた婚約解消の言葉が突き刺さる。

 君を失ったら俺は狂ってしまうだろう。




「 立てな~い。腰を抜かしたの~ 」

 レティが尻もちを付いたまま甘えた声を出している。

 アルベルトがそれはそれは甘い顔をしてレティの側に跪いた。


 そこに……

 どさどさと雪の塊が2人の頭に降って来た。


「 うわっ!? 」

「 ☆#*※○☆ 」

「 何を甘えた声を出してるんだよ! 」

 ラウルとレオナルドが両手いっぱいの雪を2人に浴びせて、もう寒くてたまらんと言ってそのまま公爵邸に入って行った。



「 お前らなーっ! 」

 アルベルトはブルルと頭を振って雪を落とし、雪だらけになったレティの頭から雪をパンパンと綺麗に払った。


 両手を出しておいでと言えば、レティが手を上げて抱っこをせがむようにして来る。


 ああ……

 本当に可愛い。


 アルベルトはヒョイとレティを抱き上げた。

「 !? ちょっと…… 」


 お姫様抱っこをして貰えると思ったのに、またもや縦抱きにされた。


「 びしょ濡れだ。このままでは風邪を引くぞ 」

 アルベルトはレティを片腕で抱っこしながらスタスタと公爵邸に向かって歩いて行く。


 違ーーう!!

 皇子様はどうして乙女心を分かってくれないのかしら?

 ここはお姫様抱っこでしょ?

 私は腰を抜かしていたのよ!

 いや、尻もちか。


 ぶぅっと膨れっ面をしてアルベルトを睨んでいると……


 あら?

 濡れた前髪も素敵だわ。


 目の前にアルベルトの美しい横顔がある。


 こんな風に……

 もの凄く近い距離で皇子様を見れるのはレティだけで。



「 は……は……クシュ…… 」

 くしゃみをしたレティは腕をアルベルトの首に回して頬に頬を寄せた。

 唾は飛んでないぞ。


「 早く暖を取ろう。風邪を引いたら大変だ 」

「 頬っぺが暖かーい 」

 レティが自分の頬をアルベルトの頬にピタッと付けている。


「 レティ、キスして 」

 アルベルトのおねだりにチュッとキスをした。

 皇子様は満足そうな顔をして歩いて行く。



 まあ、良いか……

 アルの頬っぺが暖かいから。


 レティの拗らせは少し消えた。



 世の女性達からしたら皇子様の縦抱っこも憧れるものなのだが。

 レティを片腕で抱いて軽々と歩いて行くのだから。



 昼からはエドガーもやって来て……

 また激しい雪合戦をした5人だった。







──────────────────



本日は2話更新しております。

ここからお入りの方はもう1つ前の話もお読み下さい。


読んで頂き有り難うございます。

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