第440話 閑話─バイオリン
アルベルトは幼少期からバイオリンを習っていた。
父であるロナウド皇帝陛下も子供の頃に習っていた事もあって。
多分辞めたのは10歳位。
大人用のバイオリンを用意した頃に辞めたので、今手元にあるバイオリンは殆ど弾いていない。
どんな事も何でも苦労せずに出来てしまうので、飽きてしまったのかも知れない。
その頃から剣の訓練や体術を習い始めた事も辞めた理由の1つなのだろうが……
不思議とその頃の記憶はあまり定かでは無かった。
それからは時たま母親に言われてお茶会などで弾かされる事はあったが、学園に入学してからはバイオリンに触る事は無かった。
だから……
自分としてはバイオリンを弾けると言う覚えは無い。
子供の頃に習ってたと言う程度で。
レティは俺がバイオリンを弾いていたと言う事を誰かから聴いたのだろうか?
あんなに涙をポロポロと流す程に聴きたかったのかと思うと胸がキュンとする。
それからアルベルトは少しバイオリンの練習を始めた。
レティの為に。
次こそは……
彼女が望めば何時でも弾いてあげれる様にと。
昨年の建国祭の時には王女達が5人来国していた。
勿論王女達が、アルベルトとの婚姻を結ぶ為に乗り込んで来ていたのだと言う事は言うまでもない。
レティと言う婚約者がいるのに。
政略結婚では無く恋愛結婚をする2人にも関わらず。
業を煮やしたアルベルトが、この後に側室制度の廃止を唱える事になったのだが。
王女達と一緒に来国している大臣や他の要人達はちゃんと外交の為に来ていた。
国として円満な関係を築く為にも、来国している王族にはきちんとおもてなしをしなければならない。
それがホスト国としてのやるべき事で、若き皇太子であるアルベルトの公務でもある。
アルベルトと親密になろうとした王女達は、2人だけの茶会や観劇を要求して来たが……
流石にそれはアルベルトの側近であるクラウドは認める事は無い。
当たり前だ。
アルベルトには既に婚約者がいるのだから。
そんな訳で……
5人纏めてのお茶会や宮廷楽団による演奏会を開いた。
演奏会の時には皇后陛下もいた。
しかし、この皇后がいた事でかえって面倒な事になってしまう。
「 アルベルトもバイオリンが弾けるのよ 」
皇后のこの一言で王女達が聴きたいと騒ぎ、披露する羽目になったのだった。
お喋りなメイド達の言うイニエスタ王女だけの為に弾いた訳では無い。
間違った情報が広まっただけで。
アルベルトにとってはすっかり忘れてしまっている様な、しかも迷惑な公務の一環。
だから……
レティの抱えてしまった切ない思いは知る由もなかった。
レティは拗らせていたが……
感情のコントロール出来なくなり、泣いて訴えてしまった事には後から恥ずかしく思う事に。
あんなに格好いいアルベルトを間近で見れて、あんな素敵なクリスマスの夜を過ごせた事で満足したから……
これはこれで良かったのだろう。
自分だけの為にバイオリンを弾いてくれたクリスマスの夜は、一生涯忘れられないものになったのだから。
たとえ……
4度目の死が訪れて5度目の人生が始まったとしても、この思い出だけでも生きていける程に。
なので……
この先、レティはアルベルトにバイオリンを弾いて欲しいと言う事は無い。
アルベルトのバイオリンの練習は……
何時か……
何時かは日の目を見る時が来るだろう。
多分……
知らんけど。
──────────────────
本日は2話更新予定です。
読んで頂き有り難うございます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます