第407話 閑話─会員ナンバー6番

 



 アンソニー王太子は帰国直前に学園の視察をした。

 あの決闘の経緯は許されないものではあったが、彼は短い来国の間は時間を惜しんで熱心にシルフィードの色々を勉強していた。


 失言こそしてしまったが、本来は国を思う真面目で勉強熱心な王子なのである。



 学園の案内は文部相とレティが務めると、因縁の2人だと学園の生徒達は盛り上がったが。


 学食や庶民棟にも立ち入った。

 特にグランデルの学園にはクラブが無かった事からより熱心に。


 レティの入っているクラブは、語学クラブと、料理クラブと騎士クラブ。

 料理クラブでは、平民生徒達と一緒に活動をしてると聞いてアンソニーは驚いた。



 レティがあれ程の腕前ならば、騎士クラブのレベルの高さが伺える。

 こんなに早くから騎士としての訓練をしてるならばと、自国でも騎士クラブは必要だと思ったのだった。



 それから……

 レティはサークルで皇子様ファンクラブにも入会しているのだと、こっそりとアンソニーに言う。


 皇子様の行く所に追っかけをしたり、応援グッズを作ったり、姿絵を集めたりするのが活動内容。

 次の活動は、皇子様の横顔の姿絵を宮廷絵師に書いて貰う為に、要望書を皇宮に提出するつもりだと。


 すると……

 アンソニーは自分も皇子の姿絵が欲しいと言い出した。



「 どうしてですの? 」

 レティが怪訝な顔をして尋ねると……


「 わ……私のもう1人の妹に、従兄妹であるアルベルト殿の顔を見せたいのだ 」

「 横顔を?」

「 そうだ! 他の姿絵は既にグランデルにも出回っている 」


「 分かりましたわ。 姿絵が出来上がり次第グランデルまでお送りいたしますわ 」

 勿論、その要望が通ればの話ですけれどもと付け加えて。


 それならば……

 アンソニー王太子は要望書に自分の名前を使って貰って良いと言った。


 どんだけ欲しいのか……

 その必死さにレティはちょっと違和感を感じたが。




 サークルの活動をするなら会員になる必要があると1番が言うので、アンソニー王太子も会員になって貰った。

 将来の女官を目指している喪女達は書類関係はきっちりしていた。


 翌日……

 学園帰りに王太子に会う為に皇宮に行き、王太子に会員になって貰った事と、会員ナンバーは6番だと伝えると……

 飛び上がらんばかりに凄く嬉しそうな顔をした。


 嬉しいのか?

 そんなに?



『 皇子様は遠くから愛でるもの! 皇子様の半径30メートル以内には近付いてはいけない 』


 これを書いた会員の掟の書をアンソニーに見せれば、もうすぐ国に帰るから大丈夫だと言われた。



「 確かに……アルベルト殿は離れて見る立ち姿もカッコいいな 」


 何だこの王太子は?

 ゴンゾーと同じ匂いがするのは気のせいか?





 ***





 宮殿には面会要請室と言うものがある。

 宮殿で働いている者や、大臣、皇族に合う事を要請する場所で。

 レティがまだ宮殿通いをして無かった頃に、アルベルトやクラウドに会う為に手続きに行った所である。



 そこの窓口に嘆願書の箱があって、備え付けの用紙に要望を書いたら、各部署の文官達が読んでくれるそうな。

 要望を叶えてくれるのかは知らないが。





「 殿下……これ……… 」

 アルベルトの執務室で、クラウドがある書類を見ながら驚いている。



「 要望書にリティエラ様の名前が…… 」

「 ? レティの名? 何の要望? 」


 要望書の処理は文官の仕事。

 名前欄にウォリウォールの名があった事から、クラウドの所にまで上がって来たのだった。


 兎に角、普通では絶対にアルベルトやクラウドの目に入らずに処理される要望書が、ウォリウォールの名で上の上まで行ったと言う。



「 皇子様の横顔の姿絵希望…… 」

「 ?? 俺の横顔? 」

 アルベルトは要望書をクラウドから受け取った。


 名前欄には6名の名前が記入され、5番目にはリティエラ・ラ・ウォリウォール、6番目にはアンソニー・ティシモ・ア・グランデルの名前があった。



「 これ……6番目はアンソニー殿だよな? 」

「 多分……でも何故? 」


 アルベルトとクラウドはさっぱり分からなかった。




 その夜アルベルトが公爵家に行きレティに聞くと……


「 あっ!? 凄い……ちゃんと皇太子殿下の所まで行ったのだわ 」

 書類の下には通過したのであろう何名ものサインがあった。

 どれだけの人の手に渡ったのかしらとレティは目を真ん丸くした。



「 いや、レティ。そんな事よりこれは何? 」

「 その要望書の書いてある事が全てなんだけど…… 」

「 だから……何故、俺の横顔の姿絵が必要なんだ? 」

「 それは…… 」


 アルの横顔が素敵だからその姿絵が欲しいだなんて。

 その姿絵を毎晩寝る前にベッドで眺めてキュンキュンしてから眠るのだとは……

 ちょっと恥ずかしくて言えないわ。


 レティは手の指をニギニギとしながら何だかモジモジとしている。


 ん?

 ……と、眉毛を上げて覗き込んでくる顔が……

 好き。

 ドギマギとして胸の鼓動が早くなる。



「 あの……あのね。ファンクラブの活動として……あの……皇子様の横顔の姿絵が欲しいなーって……皆で……考えて…… 」


 アルベルトはフッと笑いながら……

「 こんな面倒な事をしないで、僕に直接要請すれば良いのに…… 」

 そう言うとレティの頬にチュッとキスをした。



「 それは駄目なのよ……ファンの矜持として…… 」

 ファンクラブにも色々と内事情があるらしい。


 アルベルトは書類の最後の欄に……

 アルベルト・フォン・ラ・シルフィードのサインをした。


「 これで良い? 」

 レティは書類を手に取り、エヘヘと満足そうに笑った。

 どうやら要請が通ったらしい。



「 ……で……ここに何でアンソニー王太子の名が? 」

「 それが……王太子殿下もアルの横顔の姿絵が欲しいって。だから……要望書に名前を書いても良いって…… 」


「 何で俺の横顔が欲しいんだ? 」

「 もう1人の妹さん……その方もアルの従兄妹でしょ? その方にも見せたいんだって 」


「 横顔を? 」

「 そう、横顔 」


 アルの横顔の価値をあの王太子は分かっているのかな?

 会員ナンバー1番から4番は直ぐにその価値を分かってくれた。

 同じ推しを応援する者達との話は楽しい。


 あの舞踏会でベンチに座っているアルベルトの横顔に、レティと同じ様にアンソニーも見とれていた事はレティは知らない事で。




 何だかよく分からないけれども……

 兎に角アルベルトは宮廷絵師に横顔を書かせる事にした。

 愛しい婚約者の要望なのだから。



 そうして……

 出来上がった姿絵をレティに送って貰い、会員ナンバー6番は、皇子様の横顔の姿絵をゲット出来たのだった。


 アルベルトの姿絵はグランデルでも出回っていて、美丈夫である皇太子殿下の姿絵は女性達に大層人気である。

 自分の姿絵よりも遥かに種類が多いのは気になる所だが。


 この横顔の姿絵はレア物。



「 やっぱり……綺麗だな…… 」


 会員ナンバー6番は……

 執務室の文机の引き出しに忍ばせて、こっそりと眺めてはうっとりとしてるらしい。





 会員ナンバー5番も……

 寝る前に眺めてはうっとりとしている。


 しかし……

 会員ナンバー6番との違いがある。

 会員ナンバー5番は、皇子様の横顔の姿絵の原画を貰っていた。



 良いじゃない!

 婚約者特権があっても。


 これはファンクラブのメンバーにも内緒。

 除名はされたくない会員ナンバー5番であった。


 皇子様ファンクラブで、皇子様の素敵な所を聞く事が気に入っているのだから。




 その後……

 学園の生徒でもなく、サークル活動に参加しない会員ナンバー6番はその高い地位から名誉総裁になっていた。






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本日は2話更新しております。

ここからお入りの方は、もう1話前もお読み下さい。


読んで頂き有り難うございます。




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