第405話 閑話─レティは話したい
レティは皇帝陛下に呼ばれていた。
アンソニー王太子と決闘になった経緯を聞きたいと。
皇帝直々の事情聴取では無い。
武勇伝好きのオヤジが、ただレティの武勇伝を聞きたいだけである。
「 朝起きて……昼食のサンドイッチを作ろうと…… 」
「 いや、レティちゃん? そんな朝早くからの話はしなくても良いから…… 」
皇帝はクックと笑う。
あっ……
少し眉毛が下がった所はアルに似ている。
アルが年を取ったら陛下みたいになるのかしら?
そして……
それを見る事を私は出来る?
レティは少し切なくなった。
「 じゃあ……ボートに乗る時に、キャアと言って湖に落ちそうになったリズベット王女様が、殿下に抱き締められている所から話しますか? それとも……私がデートで湖に連れて行って貰った事が無いのは、他の女性と来た事を隠す為かと思って、キィ~ってなった所から話しますか? 」
「 ……いや、それは……中々込み入っている様だから、そこは飛ばしてもらって……王太子が現れた所からで…… 」
レティの、一点を見つめて淡々と喋る姿が怖いと思った皇帝だった。
アル……頑張れと。
レティは一通りの話をする。
皇帝は途中で相づちを打ったり、唸ったりしながら聞いてくれて、手袋を颯爽と投げた所は拍手までして。
とても聞き上手だ。
これも多くの人と話をする皇帝陛下ならではの事だろう。
そう言えば……
アルも聞き上手。
だから……
話していても楽しいし。
彼の周りに女生徒達が集まっていたのも分かる気がする。
1度目の人生でのレティは、皇太子殿下の取り巻きの中の1人だった。
公爵令嬢が取り巻きの1人ならば、その権力を生かして、「 お退きなさい。殿下の横に並ぶのに相応しいのはわたくしよ! 」などと言って、皇太子の横に並ぶ事も出来る筈なのだが。
領地暮らしが長く、あまり人と接して来なかったこの公爵令嬢はそんな争いは出来ないし、知らない。
マウントを取り合う女友達なんかいなかった。
なんせ魚釣りが趣味なのだから。
こんなに話好きになったのは、学園を卒業してからデザイナーになり、店を出して接客をしてから。
2度目の人生で医師として、3度目の人生では騎士として多くの人々と関わりを持ったからで。
陛下は話しやすい。
話していて楽しい。
決闘の経緯は楽しく話せた。
もう1つ聞いて欲しい話がある。
「 釣り大会で…… 」
魚の口から魚が飛び出して優勝した話をしようと口を開いたら……
「 陛下……そろそろお時間です 」
側近が無情にもレティの言葉を遮る。
「 おお、もうそんな時間か……楽しかったよ、有り難う。おや? アルが迎えに来ているから一緒にお帰り 」
そう言って急いで側近とサロンを後にした。
レティは恨めしそうに側近を見ていた。
また話が出来なかった。
シュンと耳が垂れて席を立つと……
アルベルトがいた。
アルベルトはクックと笑う。
そう言えば……
叔母上の歓迎パーティーの時に、魚釣り大会の話をしようとしていたっけ……
急にリズが来たから聞けなかったが……
余程話したい事なんだろうと。
「 僕に魚釣り大会の話を聞かせて 」
シュンとしたレティの頬にチュッとキスをする。
会った時の頬へのキスは2人の挨拶。
この日はお妃教育なので、公務が終わるや否や急いで帰城したら、また皇帝がレティを連れて行ったと聞いて迎えに来たのだった。
「 あのね…… 」
嬉しそうに話し出したレティが愛しい。
庭園を2人で手を繋いで散歩しながら話をする。
もう外は夕焼けで庭園はオレンジ色に染まっていた。
魚は、レティの両手を広げた大きさらしい。
そんな大きな魚は学園の池にはいないだろうと突っ込めば、ちょっとだけ小さい魚になった。
レティの身振り手振りの話は楽しい。
一生懸命話す姿が可愛くて、何度もチュッチュッとキスをしてしまう。
そんな2人のラブラブの姿を見て……
宮殿の皆は不思議に思った。
一体誰が、皇子様とあの子供な王女様を怪しいと言ったのかと?
ずっとお2人はこんなバカップル……いや、失礼……
こんな風にラブラブだったではないかと。
皇宮に静かな時間が戻り……
幸せな風が吹いていた。
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本日は2話更新しております。
ここからお入りの方は、もう1話前もお読み下さい。
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