第404話 閑話─手袋は投げられた

 



 ルーカスは頭を抱えていた。


 グランデル王太子の『妾』発言を聞いた時は、腸が煮えくり返る程に腹が立ったが。


 問題は……

 レティが王太子に向かって手袋を投げた事である。



 他国の王太子にである。

 不敬罪でグランデルの騎士達が剣を抜くのは当然で、その場で処刑されても仕方の無い事案だった。


 よくぞあの場所にグレイがいてくれたものだと胸を撫で下ろす。


 彼は剣を抜き、レティを守る様にして前に立ってくれたのだと聞いた。


 グレイは……

 ルーカスがまだアルベルトのレティへの恋心を知らない時に、レティと結婚させる事を考えた程の男であった。



 グレイはあの後、3日間の謹慎処分を受けた。

 処分が軽かったのは勿論王太子に非があるからで……

 それでも、フローリア王妃の慈悲があった事に感謝した。


 王族に手袋を投げたのはレティなのだ。



 そして……

 直ぐに駆け付けたアルベルトの処置には感嘆した。


 グランデルの騎士達が抜いた剣を納めさせるのは王太子の命でなければならない。

 皇后陛下や王妃陛下がいる事を理由付けにして、王太子に命を出させたのは流石である。


 お互いの母親達の、楽しく過ごす時間に水を差すのは止めようじゃないかと言えば、息子としてはそれに従うしか無いのだから。



 それにしてもラウルだ。

 言いたい事は最もだが……

 あの場に出会したのなら、土下座をしてでも終息させないといけない。

 煽ってどうする?


 これもやはり殿下がいて下さったから、不敬な言葉を毒づいた事も許されたのだと、後からラウルをこっ酷く叱った。


 反省の色の無い我が息子と娘であったが。




「 皇帝陛下……王妃陛下……誠に申し訳ございません 」


 ルーカスが2人の前で土下座をした事はラウルもレティも知らない事。


「 よい、よい、軍事式典の良い余興になった 」

「 悪いのは、アンソニーだから、わたくしはレティちゃんの応援を致しますわ」


 2人は楽しんでいる様だ。

 そして……

 レティの剣の実力の話に花が咲いていた。



 何はともあれ手袋を投げたのだ。

 貴族が手袋を投げる時は名誉を著しく傷つけられた時。


 手袋を投げたのも、投げられたのも頷ける正当な理由があるので、投げた方が退ける以外は皇帝陛下も無効には出来ない。


 代理の騎士を立てれば本当の決闘になる。

 そうなればグランデルの騎士と闘う事に。

 他国とその様な血を流す争いは何としても避けたい。


 こうして軍事式典での余興と言う事になったのである。


 代理騎士でも決闘は出来るが……

 レティはやる気満々。

 自分で決着を付けたいと。


 アルベルトやグレイに聞けば、王太子は剣の訓練をしていないと言う。

 ならば……

 レティと互角位だろう。


 レティが出場するとなれば、王太子が出ない訳にはいかない。

 こうして本人達による決闘となった。



 やる気満々なのはレティだけでは無い。

 負けたら、我がウォリウォールのご先祖様に顔向け出来ないと息巻くのは公爵夫人であるローズ。

 ドゥルグ侯爵夫人やディオール侯爵夫人まで巻き込んで、えらい鼻息である。



 当然シルフィードの三大貴族夫人である彼女達の影響は絶大で。

 その後に追随する貴族の夫人達皆が……

「 やっておしまい 」

 ……と、もはや帝国あげての決闘になってしまっていた。



「 まあ……何はともあれ結果オーライだ 」

 皇帝は、貴族も平民も帝国中が一致団結した事に満足であり、国民の良いガス抜きが出来たと喜んだ。


 最近の、公爵令嬢不要論には何かの陰謀めいた物があると感じていた事もあって。



「 それにしても、そなたの娘は面白いのう 」

「 さ……さようで…… 」



「 手袋を投げよったか…… 」

 皇帝陛下は笑った。








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本日は2話更新予定です。

宜しくお願いします。


読んで頂き有り難うございます。

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