第400話 軍事式典の熱い日
晴れた空。
眩しい太陽の光。
軍事式典は始まった。
この1年間に功績を残した者に皇帝陛下から勲章を授与される式典である。
数々の功績者への授与が終わり……
ドラゴンの到来をいち早く見付けた、ディオール領で任務に当たっている第3部隊の騎士達と、サンデー、ジャクソン、ロン、ケチャップの名前が読み上げられ、彼等には功労賞が授与された。
「 グレイ・ラ・ドゥルグ 」
ドラゴンの首を切り付けて致命傷を与えた事と、準皇族であるレティを炎の魔力使いから守ったグレイは名誉勲章。
そして最後に……
「 アルベルト・フォン・ラ・シルフィード 」
ドラゴンの首を討ち取り、シルフィード帝国を守ったとして最高勲章が授与された。
式典が終わるとパレードだ。
シルフィード帝国最高指揮官であるアルベルト皇太子殿下を先頭に、騎士団の騎士達が隊列を作って行進をする。
皇都広場から皇宮に向かって溢れ返った沿道の人々の大歓声の中、白馬に乗って練り歩くのである。
今回は皇女様のお里帰りで、グランデルの王妃を一目見ようと沢山の人々が地方からやって来た。
武器の街であるドゥルグ領地からやって来たバークレイ・ラ・ドゥルグ侯爵は、エドガーとグレイの祖父である。
海辺の街ディオール領地からは、レオナルドの祖父であるリンデン・ラ・ディオール侯爵が来ている。
そして……
隣国との国境を守るカルロス・ラ・マイセン辺境伯も遠路遥々やって来ていた。
懐かしいフローリア皇女に会う為でもあるが……
メインは勿論、グランデル王国のアンソニー王太子とリティエラ公爵令嬢の決闘である。
この決闘は……
他国対自国の血湧き肉躍ると言う好カード。
平和になった世の中での他国との勝負事に皆が熱狂しているのである。
会場も見物人で膨れ上がり、平民達がいる皇都広場から皇宮までの道則も人でごった返し、会場も例年に無く人で溢れているのだった。
ラッパの音が鳴り響き、凄い歓声と共にパレードが始まった。
今年は第1部隊と第3部隊のパレード。
第2部隊は全員が警備に当たり、誰もが見たい決闘が見れないと悄気る騎士達だった。
壇上には両陛下とフローリア王妃とリズベット王女が中央に座り、レティとアンソニー王太子は左右に分かれた場所に座っている。
皇宮橋を渡っているのか……
一際歓声が大きくなった。
「 何処かに1番から4番までがいる筈よね 」
彼女達が、白馬に乗った皇子様を見逃す筈が無いわ。
最近は『投げキッスをして!』の扇子をせっせと作っていたもの。
一緒に活動出来ない事が残念だわ。
貴族席を見ると母親のローズとラウルが座っていた。
決闘なんかする事になって、ローズに怒られると思ったが……
以外にも、ローズはアンソニー王太子に対して怒り心頭だった。
「 私の大事な娘に妾になれとは……王太子といえども許してはおけないわ! レティ!やっておしまい! 」
いち早くドゥルグ家に連絡をして、エドガーに稽古を付けてくれる様に頼んだのもローズだった。
母親達のネットワークは侮れない。
「 私は全てを殿下に任せておる 」
ルーカスは……
レティの事はアルベルトに丸投げをする事を貫いている。
更に歓声が大きくなった。
いよいよ皇宮に入って来たのである。
白馬に乗った皇子様の姿が見える。
白の軍服に……
今回はマントでは無く真っ赤なペリースだ。
片側の肩にだけ羽織る片マントである。
「 格好良い…… 」
騎士団を引き連れて……
馬の手綱を握り、白馬を操りながら行進するアルベルトはもはや神の域だ。
太陽の光を浴びて黄金の髪がキラキラと輝いている。
大歓声と女性達のキャアキャア叫ぶ声で周りの話し声も聞こえなくなる。
「 あっ! グレイ隊長だわ! 」
グレイはアルベルトの後に騎乗していて、背中には弓矢を背負い、続く9人の弓騎兵達の背中にも弓矢があった。
弓矢を背に持った凛々しいその姿が格好良いのなんのって……
私も……
一緒に行進したかった。
20歳の……
まだ入団したばかりの新米レティはパレードには参加出来なかった。
エドガーがそうである様に。
そんな事を考えているレティを、アルベルトはずっと見つめている。
レティがそこにいる限りは何時でもどんな所にいたって、レティを見つめてしまうのだから仕方無い。
まるで……
恋をしたての頃の様に。
レティと視線が合うと……
ウィンクをしたりチュッと唇をキスの形にしたりと、悪戯っ子の様に、ただただレティを構いたくなる皇子様。
あにゃ?
投げキッスまで……
扇子を持って無いのに。
レティも指を唇に当て……
チュッと小さく投げキッスをした。
途端に破顔する皇子様。
キャアキャアと黄色い声が飛びまくる。
その様子を凄い形相で睨んでいるのがリズベット王女。
アルは私を大好きなんだから諦めなさいよね。
勿論……
私の方が大好きなんだけど。
おお!?
その横にいる王太子も凄い顔で睨み付けて来てるわ。
良いわよ!
気合い十分ね!
メンチの切り合いには負けないレティ。
ゆるりと立ち上がりアンソニーを睨み付ける。
睨み合う両者に……
うおーーーーっっ!!っと歓声が上がり、どんどんとボルテージが上がる。
おいおい……
まだ騎士達のデモンストレーションが終わってないぞ。
気合いたっぷりのレティを見ながらアルベルトが笑った。
パレードが終わり、両陛下とフローリア王妃に挨拶をしてアルベルトはレティの元へ。
側に行くとチュッとレティの頬にキスをする。
またまた歓声が上がる。
「 どうだった? 」
「 格好良かった…… 」
「 本当に? 」
レティはアルベルトの軍服姿が大好物。
今日は何時もとは違うペリースを纏ったアルベルトにレティは赤くなる。
アルベルトもそれを知っているから……
2人はチラチラソワソワ、ウフウフと照れている。
側にいる護衛騎士達が恥ずかしくなる程だ。
「 やっぱりお2人は仲良しよ 」
「 皇太子殿下の寵愛は健在ね 」
「 誰だ? ロリコンなんて言ったのは? 」
そんな声が出始めている。
やはり……
皆の前で、仲の良いところを見せるのは大事な事なのである。
剣士による剣技のデモンストレーションが終わり、弓騎兵のデモンストレーションが始まった。
走る馬に乗って次々と的に矢を射るのである。
グレイ、サンデイ、ジャクソン。ロン、ケチャップと馬に乗った5人が次々にスタートをして的に矢を射って行く。
パシーン、パシーン………
5人が5つの的に見事に的中して行く。
皆が彼等の見事な演技に心を奪われる。
「 いつの間に……こんなに…… 」
レティは涙ぐんだ。
昨年はたった1人で披露した。
皇宮騎士団騎乗弓兵部隊が発足して3ヶ月。
元々馬に乗る事に長けている5人が、この日の為に練習をしていた。
「 アル……有り難う…… 」
こんなに早く弓騎兵が誕生したのは皇太子殿下の力を行使して。
アルベルトはレティの頭を自分の胸に寄せて、優しくレティの涙を拭った。
次はアルベルトの番だ。
「 俺の格好良い所を見ていて 」
レティの頬をサラリと触って階段を降りていく。
今、騎乗弓兵部隊が射た的を目掛けて、雷の魔力を落とすのだ。
足を肩幅に開き、魔力を突き上げた腕の先の手の指先に込める。
片側の肩に羽織った真っ赤なペリースがフワリと翻った。
指を鳴らして……
どっかーん、どっかーんと雷を全ての的に5連続で落とすし、的を木っ端微塵にさせた。
その凄さに場内はシーンと静まり返る。
直ぐに大歓声が起こった。
シルフィード帝国万歳!
皇太子殿下万歳!
……と、何時までも歓声を送った。
これにはグランデルの者達も腰が抜けた。
絶対にシルフィードには逆らっちゃ駄目だと。
なのに……
あのバカ王太子が!
皆はアンソニーに恨みがましい目を向けたのだった。
「 アルベルトお従兄妹様ステキ! 」
誰もが惚れるのは無理もない。
リズベットが兄を見ると……
次は決闘を控えているのに兄の目はハートだった。
誰もが惚れるのは無理もないが。
「 ? お……お兄様? 」
***
レティは騎士服に着替えて来た。
もう2度と袖を通す事が無いと思っていた騎士服だ。
女性用と言っても仕様は男性の騎士服と同じ。
今日の騎士達は式典なので、銀糸で縁取された丈の長い正装をしているが、何時もの騎士服は紺の詰め襟の動きやすいシンプルな物だ。
女性の騎士服と言っても、小柄でスレンダーなレティには騎士クラブの練習着と同じで少しブカい。
ベルトできつく締めて調整したらなんとかなったが。
やはり騎士になる女性は皆体格が良いらしい。
「 どう? 」
「 可愛い騎士さんだね 」
騎士服を着たレティはアルベルトに向かって敬礼をした。
全く……
何を着ても何をやっても可愛い。
騎士服は動きやすいだけでなく丈夫に作られている。
打ち合いでは無くて決闘をするのだ。
場合によっては容赦なくレティに打ち付けて来るだろう。
少しでも守ってくれれば良いが。
アルベルトは、レティが着ている騎士服の詰襟のホックを止めながら言う。
「 出来るだけかわして長引かせろ。体力なら君の方が上だ。アンソニー殿は剣の腕前はそこそこだそうだが、普段から剣の訓練はしてなかった上に、来国してからは全く練習はしてない事からかなり体力的にはまずい事は間違いない 」
実際にアンソニーとグランデルの騎士達の練習を見ていた特別部隊の騎士達の情報である。
コクンとレティは頷いた。
「 では……本日の軍事式典のデモンストレーションの最後の種目です。グランデル王国、アンソニー王太子殿下とシルフィード帝国ウォリウォール公爵のリティエラ嬢の模範試合を執り行います 」
アナウンスの声が流れると大歓声が起こった。
「 何だとー! 」
「 決闘と言えーっ!! 」
……っと、野次が飛び交う。
「 頑張っておいで 」
アルベルトはレティの手の甲にキスをした。
因みに……
投げつけた手袋はこっそりと回収した。
この手袋は……
何でも吸収するローブと同じ生地で作った、アルベルトから貰った2つと無い特別な手袋なのだ。
「 騎士服を着ている 」
「 本気だ! お遊びじゃ無いぞ! 」
「 良いぞーっ! 殺ってしまえ! 」
騎士服を着て登場したレティに、会場の皆は盛り上がる。
「 両者前へ 」
審判は……
なんとカルロス・ラ・マイセン辺境伯だった。
審判に決まっていた騎士団団長のロバートから、その役を奪い取ったのである。
「 久し振りだな。ルーカスの娘 」
「 お久し振りでございます。こんな形でお会いする事になるとは恥ずかしい限りです……でも、これも騎士の矜持でございますので 」
なんと……
この娘には騎士の矜持があるのか。
気に入った!
是非とも我が一門に迎えいれたい令嬢だ。
グレイが駄目ならエドガーでも構わないが。
カルロスはドゥルグ家の親戚筋。
先の皇帝が身罷った時、侵攻して来ようとした隣国に、一歩も引かずに国境を守り抜いた屈強の軍人である。
そんな事を考えながらカルロスはアンソニーに向き直った。
「 おい!若造! 貴様は愚かな言動の責任を取らなければならない! 良いか? これは騎士の決闘だ!本気で闘え! 」
その有無を言わさない迫力にアンソニーは元より、レティも竦み上がる。
オッサン……イっちゃってる。
「 少しでもよからぬ企み事をしたら、お前の首を刎ねてお前の国の王に送り付けるぞ! 皇女様は我が国に返して貰うから安心せい! 」
本気で私の首を刎ねる気か?
いや……この男ならやりかねない。
アンソニーは木剣の柄を強く握り締めた。
レティも気合いを入れ直して……
木剣の柄を握り締める。
「 両者、礼! はじめ!! 」
カルロスの声と共に大歓声が上がった。
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