第393話 皇子様のロリコン疑惑
アルベルトは毎朝リズベットと散歩をしているが……
その時間は早朝では無かった。
リズベットの起きてくる時間は自由で、大抵はアルベルトが執務を始めた頃にやって来る。
だから……
余計に登城して来た皆が2人を目撃する事になるのだが。
お里帰りをしたフローリアの元には、ひっきりなしに昔の友人や知り合い達が訪ねて来ており、アンソニーはシルフィード帝国のノウハウを学び取ろうと精力的に動いてるので、リズベットは毎日が退屈だった。
「 アルベルトお従兄妹様ぁ~リズは退屈ですぅ 」
毎朝一緒に散歩をする時間を割いているが……
午後でも、アルベルトが執務室にいるとやって来て、自分の話し相手をする様にねだる。
リズベットがいると執務が捗らないので、結局は外出する事になる。
だから……
仕事が溜まり深夜遅くまで執務をする事になってしまっていたが、それでもアルベルトは出来るだけリズベットに時間を割いた。
可愛い妹の我が儘に付き合う為に。
勿論、リズベットだけに時間を割いているのでは無い。
従兄弟であるアンソニーにも頻繁に話をする時間を作っていた。
兄がいればこんな感じなのかと。
「 アルベルトお従兄妹様ぁ~ 」
「 リズ! アルベルト殿はこれから私と視察に行くから、今日は母上と過ごしなさい! 」
アンソニーがアルベルトの執務室にいると、リズベットが何時もの様に訪ねて来た。
あら……
お兄様がいるわ。
何とか馬車の時みたいに連れて行ってくれるかしら?
「 え~っ! わたくしも一緒に行きた~い!」
「 今度は施設を訪ねるんだからお前は邪魔だ! 良い子でお留守番をしていなさい 」
……と、アンソニー王太子はリズベットの鼻を摘まんだ。
「 もう! お兄様ったら! 」
プンプン怒る妹を優しく微笑んで見詰めているアンソニーは、12歳も年が離れている妹が可愛くて仕方無い。
「 何時もはね、子供と遊ぶ事が多いからリズと過ごすのも久し振りなんだ。だからすっかり私に甘えて困ってるんだよ 」
アンソニー王太子には3才の王女がいて、王太子妃は現在第2子を妊娠中だ。
まるでラウルとレティを見てるみたいだな。
ラウルもあれでレティにかなり甘い。
***
視察は虎の穴。
グランデル王国にはこんな本格的な研究施設が無い事から、アンソニーは興味津々だ。
シルフィード帝国が大国だと言われる根元はここにあるのだから。
昔からあらゆるものを研究し発展を遂げて来た。
ローランド国、イニエスタ王国、ナルアニア王国などの同盟国にもシルフィード帝国に習ってこの研究施設が建立されている。
「 皇立特別総合研究所にようこそ 」
ルーピン所長の挨拶に、そんな名前だったのかと皆は思った。
いつの間にかレティの付けた虎の穴が浸透していた。
王太子の視察に、赤、白、青、黒のローブを着用した研究員達がズラリと並んでいる。
魔力使いは黒のフードを被りその顔を隠していたが……
「 背が低いのぉ…… 」
「 本当にシルフィードの血が入っとるのか? 」
「 皇女様には全然似とらんぞ 」
「 爺ちゃん!! 」
可愛らしい声と共に、爺達の口を塞いだのは白のローブを着た可憐な少女だ。
後ろから歩いて来ていたアルベルトが慌てた様に、爺とその少女の間に入って少女の手を引いた。
「 嫉妬じゃ! 」
「 まだお手を付けて無いからじゃ! 」
「 ワシの手管を…… 」
「 爺!! 止めなさい! 」
アルベルトが少女の耳を両手で塞いで、赤のローブの者達を威嚇している。
「 ? 」
アルベルト殿が?
珍しいな。
あの白いローブを着ている者は……女性?
研究室に女性がいるのかとアンソニーは驚いた。
「 さあ、王太子殿下! 後ろは無視して……この部屋の説明を…… 」
錬金術研究室には入れないが、研究員からの説明を聞く。
シルフィード帝国は魔石が採掘されるミレニアム公国の宗主国だ。
だからか錬金術師による魔道具の発展が著しいと聞く。
我が国にも是非とも魔石と錬金術師の技術が欲しいものだ。
話が終わり……
ふと、アルベルトを見ると……
先程の可愛らしい女性研究員と話をしている。
時折……
頬を触ったりしながら……
!?
アルベルト殿には公爵令嬢の婚約者がいると聞いたが……
そうか……恋人もいるのか……
周りを気にしないのは……公認なのか?
まあ、これ程の皇子ならば女性から寄って来るだろうから……そうなるのも仕方無い。
現に、この施設の女性スタッフからは熱い視線を送られ続けているし……
選り取り見取りだな。
しかし……
ここのスタイル抜群の色っぽい美女スタッフよりも……
あんな小柄で華奢な少女が好みとは。
***
午後からは……
皇宮病院を視察した。
午前中に視察した虎の穴にも驚いたが……(←既に虎の穴呼び)
シルフィード帝国と我が国では国体が違う。
医療の違いも然りだ。
シルフィード帝国の医療は、16歳でレティが医師となってからまた1つ前に進んでいた。
レティがもたらした医療は彼女が20歳の頃の医療である。
一歩前に進むと更に更にと面白い程に急激に前に進んでいたのであった。
それがシルフィード帝国の現在の医療。
白衣を着た医師や薬師達に見送られ、アンソニーは病院を出た。
何気なくアルベルトを見ると……
1人の女医の前で足を止めた。
えっ!?
キスした?
見間違い?
一瞬頬にキスをしたよね!?
何やら話してはクスクスと笑い合う2人。
この日グランデル王国の王太子が虎の穴と皇宮病院に視察に来ると言う事で、レティにも召集が掛かった。
勿論、休日でなければレティは来ない。
彼女の目標は無遅刻無欠席なのだから。
アルベルト殿はこの女医とも恋仲なのか?
流石だな……
何人恋人がいるのか?
まあ……
私も結婚するまでは随分と遊んだけれども。
それにしても……
虎の穴の研究員もそうだったが……
この女医も小柄でまだ少女の様相だ。
アンソニーは虎の穴の研究員と女医が同じ人物だとは気付いていない。
何時もは凛とした皇子様のイメージしか無いアルベルトの……
見てはいけないものを見た様で凝視出来なかったからで。
共通しているのは2人共に小柄で華奢な様相。
アルベルト殿の彼の好みの女性なのだろう。
アルベルト殿は……
妹のリズをかなり気に入ってくれてる。
これはもしかしたら……
若い頃の年齢の差はかなり大きい。
アルベルト殿とリズは6歳も離れているし……
見た感じは大人と子供。
だけど……
アルベルト殿の好きなタイプが華奢な少女ならば……
もしかしたら2年後に妹との結婚もあり得るのでは?
婚約者はまだ学生と聞く。
今動けば……
婚約を破棄する事が出来るのでは?
王太子が自分の御代を磐石にしたいと思うのは当然の事。
シルフィード帝国の国体の凄さを目の当たりにした事で、何時かはこの帝国を担う皇太子の元に、自分の可愛い妹を嫁がせたいと思ってしまったのも……
また仕方の無い事であった。
しかし……
婚約者もいると言うのにあちこちに恋人を作って……
女性関係では苦労しそうだな。
婚約者はどんな女性なのだろうか?
アンソニー王太子は……
研究員と女医と婚約者である公爵令嬢が同一人物だとは、夢にも思わなかった。
***
アルベルトは嬉しかった。
ラウルには妹がいる。
エドガーには弟がいて、レオナルドには姉がいる。
父も姉がいて、母は兄と姉2人もいるのだ。
近しい人達で一人っ子は自分だけ。
父親と叔母は……
もう30年近く離れているのに、それでも昔話や色んな話で盛り上がり、その姿はどうみても姉には頭の上がらない弟だ。
あの威厳のある皇帝陛下なのにと……
周囲の者も、弟の顔をした皇帝を楽しそうに見ているのだった。
『血は水よりも濃い』
アルベルトは血の繋がりのある従兄弟といる事が、嬉しくて仕方無かった。
どことなく似てる様相。
お従兄妹様(にいさま)と呼ばれる心地よさ。
ずっとラウルを羨ましく感じていた。
決してレティにお兄様と呼ばれたい訳では無いが。
もしかしたらもう2度と会えないかも知れない従兄弟達と、彼等が滞在してる間だけでも親しくしたい。
血の繋がった従兄弟であるアンソニー王太子や、リズベット王女に出来るだけの事をしたかったのである。
兄のアンソニー王太子と同じ様に従兄妹である俺に甘えてくれる事も嬉しい。
ラウルとレティみたいな兄妹になれてるだろうか?
それが……
まさかのロリコン疑惑に発展して行くとは……
この時のアルベルトは少しも思ってはいなかった。
年齢より上に見える大人っぽいアルベルトと、14歳の小さな少女。
その2人が逢瀬を重ねている姿はどうしても違和感がある。
婚約者の公爵令嬢もかなり小柄で童顔らしい。
皇子様は少女が好きなの?
もしかして……
ロリコン?
そんな噂がまことしやかに囁かれる様になっていた。
公爵令嬢が悪く書かれた本を信じる者。
慣例通りに他国の王女との結婚が良いと言う者。
中々発表にならない御成婚の日取りに、何か問題があるのではと疑う者。
誰もが婚約者の卒業する春には結婚すると思っているのだ。
帝国民の多くは皇室の慶事を楽しみにしている。
そんな中で……
程に見る皇子と王女の逢瀬の姿は、人々の印象に残るものであった。
それに反して……
まだ学生であるレティなので、帝国民の前にはあまり姿を現していない事が、こんな噂が広まった一因なのも否めない。
勿論レティが自由に街中を歩きたいと言う理由があるのだが。
早く言えば……
程にイチャイチャしてる姿を見せないと、直ぐに不仲説が流れてしまうのである。
両陛下の2人で行く視察は、そんな事を考慮してのものでもあった。
様々な意見が飛び交うようになった事で……
皇子様のロリコン疑惑と共に……
公爵令嬢不要論までが飛び出したのだった。
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