第383話 船上仮装パーティーへ

 



 料理クラブも4年目に入る。

 1年目は包丁の扱いなどの基本の料理。

 2年目はお菓子作り。

 3年目はメイン料理作り。

 4年目は創作料理。


 4年間料理クラブに在籍したらシェフになれると言われ、最近では男子生徒も入部してきている程だ。



 レティのいる4年生の4人は、1年生の時から同じ班で一緒に料理作りをしている。


 ベル、スーザン、ミリアの3人は、同じクラスのマリアンナやユリベラと共に、レティの15歳の誕生日には、お誕生日会に公爵邸に呼んだ事もある。


 16歳の成人になると、家族以外では誕生会をしなくなるのは貴族の常識なので、領地暮らしで友達のいなかったレティの、初めてのお友達で、初めて友達を呼んだお誕生日会でもあった。




「 ベルもスーザンも船上仮装パーティーに来てね 」

 料理を終えて、皆で試食をしながら談話中である。


 そうか……

 ミリアのお父様は外国船の船長だったわね。

 ベルのお父様は宝石商でスーザンのお父様は輸入品を扱っているので、この3人は子供の頃から繋がりがあるのだわ。


 貴族が平民のパーティーに行く事は無いので、レティは黙って3人の話を聞いてる事が多い。

 大体……

 この庶民棟のクラブに、公爵令嬢がいる事が不自然なのであるが。




 船上仮装パーティーか……

 楽しそうだな。


 4人で考えた創作料理の、鳥のもも肉のトロ~リチーズのトマト焼きを頬張りながら……

 あら!?美味しいわ。

 今度家でも挑戦してみましょ。



 そんなレティの前で、ミリアは2人にチケットを渡した。

「 ペアで来てね 」


 何気なくチケットを覗き見すると……



『 星空を見ながら船上仮装パーティーを楽しみましょう! 主宰、猫クラブ・ストロング社 』



 猫?

 ストロング?




「 えーーーっっ!? 」

「 リ……リティエラ様? 」


 急に大声を出したレティに3人は元より、他の班の人たちも驚いている。


「 どうされました? 」

 3人がオロオロしている。


 レティは両手で口をふさいで、鼻でフーフーと深呼吸を何回もして心を落ち着ける。


「 その船上仮装パーティーにわたくしも参加させて頂いても宜しいかしら? 」

「 えっ!? リティエラ様がですか!? 」

 皆は目をキラキラとさせて嬉しそうである。

 レティがウンウンと頷く。


「 本当ですか!? 父も喜びます 」

 キャアキャアと嬉しいを連発するミリアから、チケットを2枚貰った。



「 あの……ペアでの参加なのですが……もしかして……」

 3人の目が期待でキラキラと輝き、頬を赤くして両手で押さえている。


「 無理よ! 無理! 殿下は無理ですから 」

 ペアで参加と言えば……

 そうなのだ。

 レティの婚約者はこの国の皇子様で、皇太子殿下。


 しかし……

 いくら何でも平民のパーティーに皇太子は行けない。

 いくら仮装パーティーでも。


 皇太子が動くとなると、必ず護衛騎士が付いて来る。

 それが平民のパーティーならば、警備に高宮騎士団第1部隊や第2部隊までもが導入される事になり……

 もはや、気楽な楽しいパーティでは無くなるのだ。



「 そうですよね……ではどなたとお越し下さりますか? 」

 ガックリと残念がる3人。


「 そうねぇ……お兄様をお誘いしましょうかしら? 」

「 キャーーーっっ!!! 」

 今度はミリア達が絶叫した。


「 そこの4人! もう少しお静かに! 」

「 すみません…… 」

 先生に叱られてしまった。


「 ラウル様ですか!? 」

 もう、ミリア達はキャアキャアである。


 あら!?

 お兄様って人気があったのね。


 レティの兄は、ラウル。

 泣く子も黙るウォリウォール公爵家の嫡男。

 レティと同じ亜麻色の髪で、ピンクがかったバイオレットの瞳のレティよりは深い紫色の瞳。


 高身長で、整ったルックスであるラウルがモテない筈がない。

 ただ……

 何時も一緒にいるあの皇子様が凄過ぎるだけで。



 婚約者のいる令嬢は、婚約者以外とはパーティーや夜会には参加出来ない。

 婚約者以外のカップルで参加しようものなら、どんなハレンチな噂が立つか分からないのだから。


 だから……

 婚約者のいない者は、当然ながらペアのお相手は父親か兄弟か親戚になる。


 お兄様なら……

 船上仮装パーティーを面白がって行ってくれるわよね。




 ミリアのラストネームはストロング。

 ミリアは大の猫好きである。

 だから……

 船に猫マークがあるのも頷ける。



 私が死んだ船はミリアのお父様の船だったんだわ。



 これは行かねばならぬ!

 ……と、船上仮装パーティーのチケットを貰ったのだった。





 ***




 ラウルは二つ返事で了承してくれた。

 面白そうだと。




 それから1ヶ月。




「 よし! 」

 レティは頭に猫耳のカチューシャを付けた。

 ジャック・ハルビンから仕入れたものの、この猫耳カチューシャは全く売れない。


 デカイ顔のリュックは直ぐに完売した。

 未だに問い合わせがある位だ。

 ジャック・ハルビンに連絡が取れない事が痛かった。


 この猫耳カチューシャはサイドに付いてある紐を引っ張ると、耳が動く可愛い代物だけど……

 さっぱり売れないから、在庫が多過ぎて困っている所だ。



 貴族は仮面舞踏会が頻繁に行われて、平民達の間では仮装パーティーが流行っているらしい。


 仮装パーティならピッタリだわ!

 何とか猫耳カチューシャを売らなきゃ!

 商売人レティは燃えるのであった。



 猫耳カチューシャに、首には赤い蝶ネクタイ。

 黒のレースがいっぱいの黒のドレスを着て、黒猫の仮装の完成だ。



 ラウルは……

 白いブラウスに青いベスト。

 腰には太いベルトと偽物の短剣をさして、長い巻き毛のカツラに海賊の帽子を被り、口髭を付けた海賊の仮装だ。



「 まあ!? お兄様! よく似合うわ! そんな衣装を何処から仕入れて来たのよ? 」

「 雑貨屋でね。どうだ似合うだろ!? 」


「 ニャア! 」

 レティは、顔の前で掌をクニョっと曲げて猫ポーズで返事をした。


 ラウルは一瞬固まった。


「 お前……そのポーズをアルの前でするなよ! 」

「 どうして? ニャア? 」

「 どうしても! 」



 公爵家の家人達は仮装をした兄妹を見て、可愛い可愛いの連発である。

 ローズも姿絵にしたい位だと大はしゃぎをしていた。


「 ラウル! レティをちゃんとエスコートするのよ! 」

 夜だから酔っ払いに気を付けてよと、行く寸前までクドクドとお小言を言う。


「 これが殿下なら安心だけど……ラウルは不安だわ 」

 ……と、ローズが言うのも無理はない。


 子供の頃、領地の街に出掛けた2人が……

 ラウルが他の事に夢中になったが為に、レティが迷子になったと言う前科があるのだから。



「 ミリア達も来るから大丈夫よ! では行ってまいります! 」


 海賊と黒猫の2人は、ワクワクしながら馬車に乗り込んだ。

 勿論、公爵家の馬車では無くお忍び様の馬車で。







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