第384話 船上仮装パーティーの黒猫
夕暮れの港に着いた。
まだ辺りは明るいが、既に明かりが灯った船上からは楽しげな音楽が聞こえて来ていた。
イベント好きの似た者兄妹は……もうフワフワ。
チケットを受付の女性スタッフに渡した。
女性スタッフは全員男性フットマンの仮装をしていた。
楽しくって仕方の無いレティは、ラウルの腕にぶら下がりながらキャアキャアとタラップを上る。
昔からウザイ妹だ。
甲板では……
ピエロや熊、悪魔やお姫様など様々な仮装をした人々がいて、可愛い真っ白なエプロンのメイドに扮した男性スタッフ達が、飲み物を運びながら皆を笑わせている。
「 ラウル様、リティエラ様、ようこそお越し下さいました 」
本来ならば……
許しも無くいきなり貴族への名前呼びは無礼な事。
ましてや平民だ。
しかし、レティは前もって公爵の名を出さない様に伝えていたので、初対面のラウルにも名前呼びをお願いしていた。
妖精の仮装をしたミリアが、待ち構えていた様に兄妹に駆け寄って来た。
そこにお姫様コスプレのベルと、魔法使いコスプレのスーザンもやって来た。
皆での挨拶が終わると直ぐにラウルは何処かへ行ってしまうが……
格好良いラウルの後ろ姿を目で追いながら、皆はキャアキャアと頬を染めていた。
「 まあ!可愛いですね~ リティエラ様、その猫耳は? 」
猫大好きなミリアがレティの黒猫コスプレに大興奮だ。
他の女性達からも可愛い可愛いと注目され、猫耳カチューシャは何処で買えるのかと質問攻めにされた。
『 パティオ 』と言う店で買ったのだと吹聴する。
よーし!
これで猫耳カチューシャの在庫を一掃出来る!
ガッツポーズをしていると……
「 相変わらず商売熱心だな 」
声の主を見ると……
髪と鬚で顔を覆い、見えてる目だけが金色でギロギロとしている。
まるで預言者(←レティの妄想する預言者)みたいな仮装をした人が立っていた。
金色の瞳……
「 貴方……ジャック・ハルビン!? 」
「 久し振りだな 」
ジャック・ハルビンが……
この船にいる。
1度目の人生の最期の時間がフラッシュバック……
……は、しなかった。
「 良いところに…… 」
誰もいないテーブルに座り……
先ずは商談だ。
過去(未来)の事より現実が大事。
レティはデカイ顔のリュックから注文書を取り出した。
デカイ顔のリュックには色んな物が入っているのだ。
「 デカイ顔のリュックの追加と……絹の反物と……真珠の……etc. 」
2人で頭を付き合わせて真剣に話をしていると……
「 誰だ? 」
さっきまで女性達に囲まれていたラウルが、心配して駆け寄って来た。
「 おや? 新しい彼氏? 」
ジャック・ハルビンがラウルをジロジロと見ながら、小声で聞いてきた。
「 違うわ。兄よ! 」
「 !? 」
「 お兄様。この人は、私のお店の仕入先の人で、さっき偶然ここに居合わせたのよ 」
ラウルはテーブルの上に置いてある注文書を見ている。
「 兄貴か!? 本当だ! そっくりだ 」
ジャック・ハルビンは2人を見比べて笑い出した。
「 それよりジャック・ハルビンは何故この船に? 」
「 外国船は何度も利用してるからな。この船の船長とは懇意にしている 」
まあ……
確かに。
ジャック・ハルビンはサハルーン帝国の人で商人だから、何度も船には乗るわよね。
レティは注文書をジャック・ハルビンに渡してると、ラウルが横に座って、白いエプロン姿のメイドのコスプレ男性スタッフを呼んでお酒を注文した。
飲食店を経営しているラウルは、変わったお酒は無いのかとジャック・ハルビンに聞いている。
「 あんたら兄妹は各々が店を経営してるのか!? 」
すげえなと言うジャック・ハルビンのカップルの相手は誰だろうとキョロキョロと見回す。
「 あら!? リティーシャちゃん! 」
……と、妖艶な魔女にコスプレした劇場のお姉様が、酒の入ったグラスを持ってやって来た。
劇場のお姉様の中でも1番若いお姉様だ。
「 キャーッ! 可愛い! 何? その猫耳!? 」
やはり……
女性にはウケるわ!
ジャック・ハルビンに猫耳カチューシャの注文も追加した。
「 あら! 良い男ねぇ! リティーシャちゃんの婚約者? 」
「 私の……兄です 」
「 ………キャーっ! そっくり! 」
ジロジロとラウルを見て、ゲラゲラ笑うお姉様は、もう、かなり酔っ払っている様だ。
「 お前の交友関係は、公爵令嬢のものじゃ無いぞ! 」
胡散臭いジャック・ハルビンと、派手派手なお姉様の登場に、ラウルは呆れ顔だが……
直ぐに3人は意気投合して飲み始めた。
レティはアルベルトからお酒を飲むのを禁止されている。
「 俺といる時以外は、絶対に酒を飲んじゃ駄目だからね! これは皇太子命令! 」
それは……
レティが初めてお酒を飲んだ時にやらかしたからで。
「 皇太子命令を出すなんて……一体私が何をしたと言うのよ!? 」
レティは酔っ払うとキス魔になる。
勿論、彼女は何も覚えていなかったが。
やがて……
あちこちの松明に火が灯られた。
揺らめく炎は幻想的で人々の心をロマンチックにする。
あちこちでカップルが肩を寄せ合い、海を見つめている。
そこに……
ザザザーーッと光の明かりが1つずつ点いて行った。
甲板の中央では……
光の魔力使いが魔力を込めて両手を広げて光を注いでいた。
「 格好良い…… 」
日が落ちて……
甲板の上空に吊るされた魔道具に、光の魔力使いによって明かりが点灯されたのだった。
「 シエルさんと……ノエルさん? 」
「 !? 」
「 あれ? リティエラ様……こんな所に…… 」
青いローブのシエルと、黒いローブのノエルがそこにいた。
シエルは錬金術師で弟のノエルは光の魔力使いだ。
「 フフフ……お仕事中ですか? 」
「 はい、依頼を受けましてね 」
キラキラと輝く綺麗な明かりに甲板にいる人々はキャアキャアと騒ぎ、音楽は明るいメロディに変わった。
「 素敵ですね~ 」
「 今宵は可愛い黒猫に変身ですか? 」
シエルは愛おしそうにレティを見つめた。
「 レティ! 」
ラウルがレティを呼ぶ。
「 じゃあね。ニャア! 」
レティは両掌を顔の前でクニョリと曲げて、猫のポーズをして……
ラウルのいる方に駆けて行った。
「 あ……兄上…… 」
「 ……… 」
シエルは……
動揺して赤くなった顔を隠す様に……
そっとメガネのブリッジをクイッと上にあげた。
***
「 お前……酔っ払いが多くなってるから、あまりウロウロするな! 」
酔っ払いラウルがレティを叱る。
酔っ払いめ!
自分だけ楽しんで……
ミリアはいないし……
スーザンとベルは各々のパートナーと楽しげに踊っていた。
「 あら!? 彼氏かしら? 」
次の料理教室で聞いてみよう。
ギャアギャアと煩い3人から少し離れたテーブルで、1人でスイーツを食べていると……
「 可愛い黒猫ちゃんだね 」
うわ!?
王子様だ!
王子様のコスプレをした男(ひと)が、レティに話し掛けて来た。
「 こんばんは。少し私とお話しませんか? 」
「 連れがいますのでご遠慮しますわ 」
キッパリと拒絶するが……
このエセ王子は諦めない。
レティはもう、色んな男から声を掛けられていた。
「 王子様から選ばれた君は光栄だったね。もっと静かな場所に移動をしよう 」
「 だから……行きません! 連れがいますってば! 」
ラウルを見れば、3人で肩を組んで拳を上げながら歌っている。
もう、お兄様ったら! 肝心な所で役に立たないんだから……
お母様に言い付けてやる。
「 貴族の女だ……こんな上玉は滅多にいないぞ! これはモノにしなきゃな 」
エセ王子様はぶつぶつ1人ごとを言いながらレティの肩に手を伸ばして来た。
もう、気持ち悪いわね!
立ち上がってエセ王子を投げ飛ばそうとした時……
「 キャーーーッ!!」
キャアキャアと黄色い声をあげて女性達が騒いでいる。
皆が一斉に見ると……
覆面男が甲板に上がって来た。
目鼻口が丸く空いた黒い覆面を被って、紺の騎士服に焦げ茶のブーツ、肩からは黒のマントを羽織っている。
月明かりと……
キラキラと点灯した魔道具の明かりの中……
松明の炎が背の高い彼の影を揺らす。
覆面男はマントを翻しながら……
真っ直ぐに黒猫レティに向かって歩いて来た。
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