第213話 クリスマスの告白タイム

  


 ジラルド学園のクリスマスパーティーの日は、その日の授業は午前中に終わるので生徒達は一旦自宅に帰り、ドレスやタキシードに着替えて夕刻から始まるクリスマスパーティーに参加するのである。


 1年生はまだ成人していない事からダンスを踊る事を禁止しているので、昨年はダンスを踊れなかったレティだが今年は踊る事が出来る様になった。


 男子生徒はパートナーである女生徒の邸宅まで迎えに行き、カップルで会場に出向く事が習わしとなっている。



 公爵邸にはタキシードに着替えたアルベルトが、皇太子殿下専用馬車でレティを迎えに来た。


「 私の婚約者殿……今宵は私と一緒にパーティーへ行ってくれますか? 」

 アルベルトは胸に手を当て腰を折り、レティに右手を差し出した。

「 はい、喜んでご一緒致します 」

 レティはそう言いながらアルベルトの差し出した手の上にそっと手を乗せた。


 アルベルトはレティの目を熱く見つめながら、レティの手の甲にキスをした。


 でも……パンツを履かせて貰ってるのよね?

 レティの疑惑の目がアルベルトを見つめる……

 

 思いきって聞いてみようかしら?

 いや……クリスマスに聞く事じゃ無いでしょうに……



 馬車の中で向かいあって座る。

 レティは少し伸びた髪を編み込み、後ろでバレッタで留め、グリーンのドレスの上には白のケープ型のコートを羽織っている。

 少しお化粧をして少し大人っぽくなったレティに見つめられると、アルベルトは少し照れた様な顔をする。


「 レティ……綺麗だよ、……ドキドキする 」

「 有り難う、アルも素敵よ 」

  でも、パンツを履かせて貰ってるんでしょ?


 駄目だ……

 パンツが気になって仕方無いぞ。



 馬車から下りる時にもアルベルトがレティに手を差し出し、両手で優しく下ろし、レティのコートを脱がしてスタッフに渡す。


「 さあ、行こう 」

 アルベルトは、自分の腕に手を添える様にと腕を少し浮かし、レティを見て美しい顔で微笑んだ。

 レティは逞しいアルベルトの腕に手を回した。

 手を取るエスコートは以前もしてくれていたが、アルベルトの腕に手を回して歩くのは初めてだった。


 大人なアルベルトにエスコートされ二人は講堂へ歩いていく。

 何時もなら、レティの脳内御輿が担ぎ上げられそうな大人なアルベルトなのに、レティは何処か上の空である。


 どうしてもパンツ疑惑が頭から離れないのであった。



 誰もが見惚れる注目の二人が腕を組み現れると、会場がざわつき歓声が上がり一気に会場のボルテージが上がった。




 学園長の開催の挨拶が終わりクリスマスパーティーが始まった。

 楽団が音楽を奏でると、カップル達がダンスを踊る為に講堂の中央に集まる。



 レティもアルベルトにエスコートされ中央に行った。

 アルベルトがたまらなく甘い顔をしてレティを見つめる。

 演奏が始まり、アルベルトがグッとレティの腰を引き寄せ、ダンスが始まった。


「 レティ、僕に何か言うことは無い? 」

「 ……… 」

「 嫌な事は僕に言ってって言ったよね? 」

「 嫌な事なんて無いわ……ただ…… 」

「 ただ? 」

「 聞いて良い? 」

「 うん、ちゃんと言って…… 」


 レティは意を決して口を開く。

「 アルは……パンツを……その……履かせて貰ってるの? 」

「 はあ!? 」

 突拍子もない話しで思わずダンスの足が止まってしまった。

 他の踊ってるカップルと危うくぶつかりそうになり、慌ててダンスを再開する。


「 何で? 何? 何の話? 」

 アルベルトは意味が分からずにパニック状態になっている。

 慌てるアルベルトにレティの目はギラギラしている。


「 だって……お兄様がアルは未だに侍女にパンツを履かせて貰ってるって…… 」

「 何だって!? 」

「 本当なの? 」

「 そんなわけ無いだろ! 履かせて貰って無いよ、自分で履いてるよ! 」

「 あら……そうなの? 」

 皇子様は自分で履くのね……何故だか残念な気持ちになるレティなのであった。



「 ラウル!! ラウル! 」

 アルベルトはダンスを中断し、レティの手を引きラウルに向かって足早に歩いていく。


 ラウルは、エドガーとレオナルドと一緒に学園の運営スタッフ達と話をしていた。


「 お前、レティに何をデタラメな事を言ったんだよ! 」

「 何を? 」

「 俺が未だにパンツを侍女に履かせて貰ってるってどう言う事なんだ? 」

「 違うのか? 」

 そう答えたのはエドガーとレオナルドだった。


「 皇子様は、パンツも自分で履かないんじゃ無いのか? 」

 ラウルが飄々として当たり前の様に言う。

「 なっ!? ちゃんと自分で履くわ!! 」

 アルベルトが憤慨して叫んでいる。



 えっ!?

 皇子様は自分でパンツを履いてるのか!?

 会場の皆がそう思った。

 皆も皇子様は何にもしないんだと思っていたらしい。


 会場の音楽も止み、皆がダンスやお喋りを中断し皇子様とラウル達に注目をしている。



「 7歳の頃、お前らと池で遊んで水浸しになった時に、侍女に着替えさせて貰ったら、お前らがからかったんだろ! 」

 それ以来自分の事は自分でしてるとアルベルトは言った。


「 あれ? お兄様は10歳でも爺やに着替えさせて貰ってたわよね? 」

 そうなのだ。領地に来た兄を朝から着替えさせ、幸せそうに世話をやいている爺やを目撃した事がある。


「 レティ! 余計な事を言うな! 」

 ラウルがレティの口を塞ぐ。

 何だと! お前が10歳? ……と呆れながらアルベルトはレティからラウルを引き剥がした。


「 俺は生まれた時からパンツは自分で履く 」

 ……と、エドガーが真面目な顔をして言うと、そんな分け無いだろ!……と、アルベルトとラウルが突っ込む。

 レオナルドは

「 俺は自分でパンツを履いたのは5歳だな 」と言う。



 すると……

「 俺も10歳だな 」

 俺は6歳だと、あちこちから男子生徒達の告白がされだした。


 するとラウルが「 君は? 」と、庶民棟の男子生徒達の方に行きインタビューを次々として行く。

 女生徒達はクスクスと口を押さえて笑い、男子生徒達はクダラナイ告白に花を咲かせ会場が和んでいた。



 そこへ、激しく楽しい音楽の演奏が始まった。

 庶民棟の生徒達がワッとなり歓喜の声援が上がった。

 流れたのは、平民達が街で何時も楽しんで踊ってる曲だった。


 今までなら、貴族棟の社交ダンスを見ながらお喋りと軽食を食べるだけだった庶民棟の生徒達なのだが、今年は生徒会が運営を担った事で、庶民棟の生徒達も一緒に楽しめる様にしたのだった。


 庶民棟の生徒達が大興奮で手を繋ぎ、大きな輪になり皆で踊り出した。


 いつの間にかレティが、その輪の中に入って楽しそうに踊っている。

 最初は見よう見まねだったがそれはそれは楽しそうに踊る姿は、可愛らしいの極みだった。


 そう、レティは料理クラブや騎士クラブで庶民棟の生徒達とも友達で、彼等に一緒に踊ろうと誘われるままに、何の違和感も無しに踊っているのだった。


 レティの横で手を繋いで踊っているのは料理クラブで一緒のベルと反対の手はノアと繋いでいた。

 レティが楽しそうに踊ってるので、マリアンヌやユリベラ、ケインを初め2年B組のレティのクラスの生徒達が直ぐに輪に入った。



 アルベルトは、レティと手を繋ぎほんのり赤い顔をしているノアの間に無理やり入り、レティと手を繋いだ。

 皇子様を見上げるレティが輝く笑顔になり、皇子様は破顔した。


 周りはキャアキャアとピンクの歓声を上げる。


 皇子様が輪に入ったもんだから他の貴族達も輪に入り、輪は3重になり、皆で足を上げ、手を上げてグルグルと回りながら踊った。


 レティを初め、豪華なドレスを着た貴族女生徒達は踊りにくそうにしていたが、それでも初めて皆で踊るダンスは楽しかった。




 素敵な時間だった。

 皇族、貴族、平民が一緒に踊るなんて前代未聞だった。

 だけどここは学園。

 この光景を見て、学園長達が大満足していたのは言うまでも無い。


 ここにいる生徒達は生涯忘れられない出来事となったのである。

 アルベルトが皇帝になる御代には、この生徒達が大いに助けになる事であろう。



 暫く踊ると、アルベルトはレティの手を引いてこっそりと輪から離れた。








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