第212話 残念な皇子様
レティは医師であり虎の穴の薬学研究員である。
試験中に皇宮病院に通い、医師達に情報共有の必要性を問いて聞かせた。
レティの座右の銘は『 情報共有 』と『 無遅刻無欠勤 』である。
今、正に薬学研究員達が、皆で知恵を出し合ってドラゴンの血による万能薬とポーションを作り出そうとしているのであるが、その製造過程で薬学研究員達は完全に行き詰まってしまっているのである。
だからレティとしては医師達の知識と経験が絶対に役立つ事になり、話してる内に何か閃く事があるだろうと思っていたのである。
しかし薬学研究員と医師の仲はあまり良くなくて、今まで話す機会は少なかった。
医師達は兎に角偉そうに無理難題を研究員達に言ってくるので、研究員達は医師達を敬遠していたのであった。
研究員達がドラゴンの血とポーションの研究してると言えば、やはり医師達は食い付いてきた。
万能薬や回復薬、ポーションなんて薬は、医師達からすれば喉から手が出る程に欲しい薬であった。
そうして、レティの取り計らいで医師と研究員達の初めての会合が行われる事になったのだった。
勿論、これは医師であり薬学研究員のレティだからこそ出来た事であった。
レティの喜びは計り知れなかった。
早く早く……焦りを隠せない。
カウントダウンはもう始まっているのである。
***
そんな頃……
公爵邸に、クリスマスパーティーで着るドレスが届いた。
勿論レティの婚約者からである。
「 何でよ~ 」
レティは頭を抱えた。
レティは洋裁店のオーナー件デザイナーであるので、クリスマスパーティーは店の格好の宣伝場所なのである。
だからクリスマスパーティーで着るドレスは自分でデザインをし、もう既に仕上がっていたのであった。
婚約式の時に公爵令嬢が着たドレスは、レディ・リティーシャの店『 パティオ 』で作ったと宣伝したので、その反響は絶大だった。
その後はかなりドレスの注文が入り、レディ・リティーシャの店『 パティオ 』は順調に売り上げを伸ばしていたのであった。
だから、レティはクリスマスパーティーで自分のデザインしたドレスを着て、これは『 パティオ 』でオーダーしたのよと宣伝するつもりだったのである。
はぁ……
計画が……
しかも……このドレスはライバル店のドレスよね。
ケースにある店のロゴが恨めしい。
皇室御用達店はその肩書きだけで儲かるのである。
それにこのドレスには、クリスマスドレスらしくグリーンのベルベットの生地に色んな色の宝石が散りばめられている。
どんだけお高いのよ……
ああ……私の店で注文して欲しかった。
レティは項垂れた。
「 まあ、素敵……レティは幸せね 」
母と侍女達が嬉しそうに殿下がプレゼントしてくれたドレスを眺めている。
着用してみると……
若干胸元がぶかついている。
「 殿下はレティの胸がもっとあると思ったのかしら? 」
「 寄せて上げれば何とかなるでしょう 」
皆……何気に失礼なんですけど……
「 お嬢様にしたらちょっと大人っぽくありませんか? 」
「 殿下も大人の装いなんだわ…… 」
キャアキャアと皆で騒いでいる。
だけど……
彼は侍女にパンツを履かせて貰ってるのよ……
今やアルベルトは、レティの中ですっかり残念な皇子様になってしまっていた。
***
クリスマスパーティーの余興の話をしている生徒会室の、一番奥の広い執務デスクに腕を組み、ふんぞり返って座り、金髪碧眼の体格の良い男が………
パンツを履かせて貰っているのである。
「 レティ、俺に何か言いたいことがあるのか? 」
その体格の良い男が訝しげに見てくる。
貴方は本当にパンツを履かせて貰っているのか?
レティは頭を横に振りながら生徒会室から出て行った。
「 おい!ラウル! レティが変だ…… 何かあったのか? 」
「 あいつは何時も変だよ 」と、ラウルはギャハギャハ笑っている。
「 試験勉強もしないで500点満点を取れるんだから、変としか思えないよな 」
最近はお袋に刺繍をさせられて余計に変になってるぞ!とラウルは面白がっていた。
因みに
今回の学期末試験の結果は、レティは手を抜いて500点満点にしていた。
勿論アルベルトも500点満点であり、学年トップの成績は変わらなかった。
レティは人並みの点が取れたと満足したが、先生達は手を抜いたとレティを教務員室に呼び出して、君はこんなもんじゃないだろ?と言ってきた。
そもそも、500点満点の何処が不服やねん!とレティは腹を立てて、教務員室からプンスカ怒って出ていった……と言う話である。
レティは試験の度に先生達と戦っていた。
***
好奇心旺盛なレティは、本当にパンツを履かせて貰っているのかをアルベルトに聞きたくなってきていた。
駄目よプライベートな事は聞いちゃ駄目!
大体こんな事を皇族に聞くのは不敬罪になるわ!
だけど……
レティにそんな心の葛藤があるからなのか、あの香水の時の様にアルベルトから距離を置く事になってしまっていた。
そんなレティにアルベルトは焦った。
「 またか…… 」
また、俺が何かしたのか?
もしかして………
あの時にキスを迫ったからか?
そんなに嫌だった?
金髪碧眼の美丈夫で、誰もが欲するシルフィード帝国の皇太子殿下は、最愛の婚約者の一挙一動にオタオタしてしまう残念な皇子様になっていた。
この日はクリスマスパーティーの前日で、生徒会のメンバーは色々と準備に忙しく、この疑惑は持ち越しとなった。
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