第179話 本当の強さ
ラウル達が生徒会室に入ると、アルベルトとレティが居た。
何だかよそよそしい……
レオナルドがニヤニヤしながら
「 アル、口紅が付いてるぞ 」
アルベルトが慌てて唇に手を持って行くのと同時に
「 私、口紅なんか塗って………な…… 」
と、レティは言いかけて真っ赤になった。
「 ふ~ん…… 」
「 仲良くしてたんだ 」
「 ここなら護衛が居ないもんね 」
室内以外では、アルベルトには何時も護衛騎士が付いている。
勿論、学園内なので遠巻きにいるのではあるが……
─今から10分前─
二人で話をしていたら、アルベルトが突然言い出した。
「 レティ、何時になったら名前で呼んでくれるの? 」
「 ………呼べない……」
「 どうして? 婚約もしたのに…… 」
「 だって……今更恥ずかしいし…… 」
アルベルトは、レティが座っている椅子を引き寄せ、肘掛けに両手を付いて、レティの顔を覗き込む。
「 呼ばないとチューするぞ! 」
キャー止めてよ、こんな所で……お兄様達が何時来るか分からないのに……
レティがそう言って、逃げようとする。
「 後、3秒で呼ばないとチューする! 」
「 1 」
「 2 」
アルベルトの顔が近付いて来る。
「 アルベルト………様? 」
嫌だわ……王女を思い出す。
「 アル………様? 」
アル様は……何だかあの体当たり姉妹を思い出すわね。
「 アル? 」
頭を傾げ、真ん丸い目でアルベルトを見つめるレティが可愛くて可愛くて……結局キスをしたアルベルトであった。
「 !? 話が違うわ! 」
「 君が可愛すぎるのが悪い 」
その時
ラウル達の声が聞こえ、慌てて離れる二人であった。
***
「 ほら! 留学生のリスト、生徒会で面倒を見ろってサ 」
ラウルが用紙を見せてきた。
4人共に興味が無いと、別の話をし出したが
「 あっ! ウィリアム王子様が来るんだわ……」
「!? 王子ってどんな奴だっけ? 」
「 背が低くてぽっちゃりしていて……顔は……思い出せない 」
アルベルトが王宮で何度か会ったと言っている。
そうかな? ぽっちゃり?
確かに……皆みたいには背は高くは無いけれども……
「 レティ? 王子と何かあるの? 」
考え込んでいるレティを見て、アルベルトが問う。
レティから、他国王子の名前を聞くだけで不愉快になるのだから仕方が無い。
レティは、自分の美しさは勿論だが、元来の人たらしであると言う自覚が無い。
彼女の、その人となりは勿論だが、豊富な知識、何事にも興味深々で、分け隔てなく誰とでも接し、物怖じしない堂々とした振舞い……
話せば話す程に、関われば関わる程に深く深く好きになってしまう……そんな女性だった。
「 あっ!バケツ君も来る 」
「 バケツ君? 何だそれ? 」
皆が興味深々に聞いてきたので、レティは迷った末に……
雑巾の絞った後の水が入ったバケツを、2階の窓から頭から掛けられて……
あの時の話をした。
でも……
クラスも同じで、騎士クラブも語学クラブも一緒のケイン君と、追い掛け回し、追い詰めて謝罪させたと言う全容を簡単に説明した。
「 俺の妹に……汚水を…… 」
ラウルは握り拳に力を込めた。
皆の怒りは爆発寸前だった。
「 それで? そうなった原因は何かある? ただ、留学生だからと言う理由でそうなったのか? 」
アルベルトがレティの横に座りながら聞いてきた。
「 ………あのね……ウィリアム王子と王立図書館に行く約束をしたって前に言ったでしょ?……それで、女子生徒達がうちの王子を誘惑するなって……」
「 なんだと!? だから汚水を掛けられたのか!? 」
「 それは別に慣れているから良いんだけど……許せなかったのは、C組の留学生達がそのバケツ君に苛められていると聞いて……怒りが爆発したの……他国なのにちょっとやり過ぎちゃったかもって反省してるのよね 」
レティはそう言って肩をすくめ、ペロッと舌を出した。
「 レティ…… 」
皆は、自分の為じゃなく、苛められている生徒の為に暴れたと言うレティの、人となりに胸が熱くなった。
アルベルトがレティの手を握りながら
「 ねぇ、レティ……慣れているって……何に? 」
「 えっと……私も…… 」
「 えっ!? 」
レティは言う。
皇子様に言い寄られていい気になるなとか、皇子様がお前に構うのはラウルの妹だから、と言う様な手紙を貰ったり、物を隠されたりするのは頻繁で、いきなり押されて階段から突き落とされそうになった事もあると言う話を、ポツリポツリと言いにくそうに話した。
「 大した事じゃ無いのよ、皇子様は皆の皇子様なんだから、特別に親しい私を憎く思うのは、ある意味仕方が無い事なのよ 」
でも、雑巾の絞った水は掛けられたのは今回が始めてで、あれは臭くてその後大変だったんだからと笑った。
皆は、レティの話がショック過ぎて言葉が出なかった。
あんなに勝ち気なレティが……
我が国の筆頭貴族である公爵令嬢が……
仕方が無いと……黙って苛めに耐えていたなんて……
「 クソッ! 」そう言うと、エドガーは壁にパンチをした。
レティは皇子の魔除けだと喜んでいた事を悔いた。
魔除けのレティにこそ気を配るべきだったのに……
レオナルドは臍を噛んだ。
1年の時とローランド国でも、アルが少しでも女生徒と親しくすると、こんな問題が発生していた事を知っていたのだから、レティの身に起こる事は十二分に考えられる事だったのだと……
ラウルは、自分がレティの兄だから、兄がいるから誰もレティには手を出せないと高を括っていた。
何故俺に言わないんだとレティを叱った。
「 レティ、ごめん…… 」
アルベルはレティの小さな肩に顔を埋めた。
「 まだ、苛めは続いているのか? 」
「 1年生の時だけかな、でも時々だったし……本当に大した事じゃ無いから……」
1年間も……
いや、婚約が決まったならこれからもあり得る……
「 レティ、次にやられたら絶対に兄ちゃんに言うんだぞ! 」
「 あら!やり返すなら自分でやるわよ! 」
レティは殿下に関わる事だから、やり返さなかったと言った。
これが普通の苛めなら受けて立つし、絶対に相手を突き止めて、ぶん殴るわと笑った。
それがウォリウォール家の人間でしょ?
ラウルは可愛いく笑いながら話す妹に泣きそうになった。
そして……
皆の、皇子様を取られた時の悲しい気持ちは理解できるから、つい意地悪をしたくなるのは仕方が無いと言うのであった。
それから、ウィリアム王子やバケツ君達には仕返しはしない様にと言った。
「 あの後はちゃんと謝ってきて、仲良く皆で街にお買い物をしに行った位だから、もし、何かしたら私が相手よ! 」
ね!エドガー部長!と、仕返しをしかねない騎士クラブの部長のエドガーに言ったのだった。
レティが自分のクラスに戻った後も、4人は言葉が出なかった。
特にアルベルトはショックを隠せなかった。
「 俺は……皆の皇子様でいなきゃいけないか? 」
それは、アルベルト自身がずっと心に刻んで来た言葉であった。
『 帝国民の太陽である皇子は、国民を平等に愛する皇子であらなければならない 』
「 皇子が1人の女性を愛する事は……そんなに駄目な事なのか? 」
アルベルトの問いに……
3人は答える事が出来なかった。
自分のせいで、愛する人が嫌な思をしてるなんて耐えられ無い。
何よりも……
レティから、皇子様は皆の皇子様だ……なんて言葉は聞きたくは無かった。
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