第180話 皇子と王子と公爵令嬢と



はぁ……

あの話はするんじゃ無かったわね。


あれからアルベルトは、レティに会うと、耳も尻尾も垂れて悲しい目で見る様になった。

ラウル達3人も同じ状態であるから始末に悪い。


まあ、面白いからこのままでいよう。

特に、シュンとしたお兄様を拝めるなんて滅多に無い事ですからね。

レティは腕組みをして4人を見ていた。(←こんな奴)



こんな事……

私が死ぬ事に比べたら些細な事なのだ。


それに、本当に2年になってからは被害は無くなった。

だから……

多分、卒業生なんだろう……殿下より1学年上の誰か達。

ずっと大好きだった皇子様が1年生の小娘に取られたら……そりゃあムカつくわ……


嫌がらせをしてきたのは……

1度目の人生の私では無いのかと思ったら、不思議と許す事が出来た。



1度目の人生を思い起こす。

皇太子殿下に一目で恋に落ちた私は、殿下に会いたくて、側に行きたくて、殿下の瞳に私が映る事をひたすら夢見ていた……


あの晩餐会で、王女とのダンスを見て、皇太子殿下と王女は恋に落ちたのだと思っても……

一度でも良いから殿下と踊りたくて、全ての晩餐会に出席していたのよね。

厚化粧をして………


2度目の人生と3度目の人生では、晩餐会に行ったのはあのデビュタントの時だけだった。

2度目の人生は勉強が楽しくて、勉強ばかりしてたし、 3度目の人生は、騎士の訓練に明け暮れていたのだから……


純粋に恋に夢中になっていたのは、1度目の人生の時だけかも知れない。



嫌がらせをする程、私を憎いと思っていた彼女達は

殿下と私の婚約発表をどう思ったのだろうか……





***




そんな頃………

事の元凶になった厄介な人物達がやって来たのである。



レティ達の帰国と入れ替わりに、ローランド国から留学生が来国して来た。

シルフィード帝国のジラルド学園と、ローランド国のアントニオ学園が毎年行っている、長期休暇を利用しての交換留学である。


今回は、ローランド国の第1王子のウィリアム・レスタ・セイ・ローランド王子が留学生の1人だった。




「 おいおい……背が低くてぽっちゃりだなんて……全然違うじゃないか? 」

ラウルが王子を見て驚いた様に言った。


アルベルトがウィリアム王子と会ったのは、彼が14歳の時で、アントニオ学園に入学する前だった。

それから2年。

背はスラリと伸びて身体も痩せていた。

勿論、アルベルト達よりもまだ背はかなり低いが、今は成長期だろうから、将来はもっと伸びるだろう。


顔も、何時もアルベルト達の様な極上の顔を、間近で見てるレティからしたらぼやけている様な顔なんだろうが、普通にイケメンで、やはり王子らしく品のある顔をしていた。


歓迎式では、女生徒達がキャアキャア言っていた位である。

まあ、自国の皇子様が婚約をした事も関係してはいるが……



生徒会役員達の5人は、教員達の横に並んで立っていた。

学園長の長い話が終わり、その間にレティを見つけていた王子様は、レティの前までスタスタとやって来た。


「 やあ、リティエラ君、僕の案内は君にお願いするよ 」

と、言ってレティの手を取り、レティの手の甲にキスをした。


女性から手を差し出されれば、男性は女性の甲にキスをするのは社交界のマナーだが……

男性から女性の甲にキスをするのは、男性が女性に好意を持っていると言う事をアピールする手段に使われていた。


王子の突然の行動に皆が驚いた。


「 何の真似? 学園でエスコートは不要だと言わなかったっけ? 」

レティが手を引っ込めながら、怒りの声をあげる。


「 今度は俺がお客様だよ、お客様はもてな……す…… 」

「 何ですって! 留学は遊びじゃなーい! 」

レティが王子の言葉を遮り、怒鳴った。凄い剣幕だ!


「 前に言った事を少しも理解してないの? 王子殿下にはこのシルフィード帝国の良いところをしっかりと持ち帰って頂きますからね! 」

「 分かった……よ 」

ウィリアム王子は嬉しそうな顔をした。



そうなのだ……

流行り病は、ローランド国から広がって来て、ローランド国も莫大な被害を被った。

ローランド国での被害を最小限に食い止めてくれれば、我が国もあれだけの死者を出さずに済むのかも知れない。

私だって……死なずに済んだのかも知れないんだから……


しっかりせえよ!あんた達!

レティはアルベルトとウィリアムに念を送った。



何が何だか分からずレティに睨まれたアルベルト。

俺の婚約者は怒ると怖い……

しかし……僅か1ヶ月足らずの留学で随分と仲良くなったもんだな。

流石、人たらし……

いや、感心してる場合じゃ無い。

あの王子……よくも俺のレティに……

怒りがメラメラと込み上げてくる


そんなアルベルトの前に、ウィリアム王子がやって来た。

「 帝国の若き太陽、アルベルト皇太子殿下、お久し振りでございます、ご挨拶が遅れました事をお詫びします、これから皆が世話になります、宜しくお願いします 」


ウィリアム王子がアルベルトに手を差し出す。


「 ああ、私の婚約者が随分と世話になった様だ、しかし、私の婚約者に気安く触るのは止めて頂きたいね 」


二人は握手しながら手に力を込める。


順位的には帝国の皇子が上である、そしてアルベルトは皇太子でウィリアムはまだ王子であるので、遥かに格の違う皇子と王子である。


「 そうですね、忘れてましたね、婚約者でしたね 」

王子は不適な笑いをした。


そこへ、学園長が慌てて入ってきて、留学生達を連れていき、歓迎式はお開きとなった。


生徒達は大興奮していた。

今度は、皇子と王子と公爵令嬢の三角関係だと騒いだ。

勿論、レティと王子は共通語で話していたから、話の内容は分からなかったが……




クラスに戻った皇子様の機嫌は最悪だった。

だけど……

ラウル達3人はニヤニヤしていた。

面白い事になったぞ……(←こんな奴ら)



「 この二人といると退屈しねぇ! 」








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