第178話 スーパー皇太子妃




レティは、アルベルトに強引に手を引っ張られる様にして、執務室を出た。

こっちが警備員室で、こっちが騎士団控室で、こっちが侍女室、それから………

アルベルトは皇太子宮を、未来の皇太子妃にハイテンションで案内をする。


「 そして、この奥の部屋が僕の部屋なんだ……入る? 」

「 入りません! 」

「 どうして? 僕達の部屋だよ? あっ、君が来るまでには改装するけどね、だから部屋の中を見ておく必要があるだろ? 」


「 私達はまだお付き合いを始めたばかりなのに……早すぎるわ、それに結婚までには5年もあるのよ? 」

「 僕は、今すぐ結婚しても良いんだけど…… 」

「 致しません! 」


「 じゃあ、何処でキスする? 」

アルベルトが腰を屈め、レティの耳元で甘く囁いた。

「 なっ!? 」

耳を押さえ真っ赤になるレティ……



アルベルトの部屋の前の廊下を1つ挟んだ部屋から、わちゃわちゃと騒がしい二人の前に、侍女らしき女性が出てきた。

「 皇子様、何かございましたか? 」


助かった……

今日の殿下はおかしい。

何?この異常なテンションは……


「 ああ……彼女は、侍女長のモニカ………モニカ!レティだよ 」

「………まあ! リティエラ様……お越しでしたか……」


「 知ってるの? 」

「 はい、以前、謁見の間の控室でお会い致しました、改めまして……わたくし、皇太子宮の皇子様付きの侍女長をしておりますモニカと申します、 宜しくお願いします 」

「 宜しくお願いします……あの……突然スミマセンです……」


こんなつもりで宮殿に来たんじゃないのに……

クラウド様に面会に来ただけなのに……

レティは申し訳なさそうにした。



「 じゃあ、僕の部屋に入ろうか…… 」

「 入りません! 」

アルベルトはレティの手を引き、部屋に入ろうとする。


レティはモニカを見つめ、助けてと訴えた。


こんなテンションの高い皇子様は見たこともありませんので、どう対処したら良いか分かりかねます。

モニカはクラウドと同じ様に首を横に振り、頭を垂れた。



ここでは誰も助けてはくれないのね……

ならば……

「 もう!殿下!しつこい! 」

レティはアルベルトを叱り付けた。

何でも、順序と言うものがあるのよ!とアルベルトを睨らみながら言った。

「 わかったわかった 」アルベルトは両手を胸まであげ、降参のポーズをする。

レティはプンスカ怒っている。



皇子様が……「 しつこい 」と、叱られている……

モニカはそれを見て吹き出し、肩を揺らして笑いを堪えている。

気が付くと……ギャラリーがいっぱいいて、皆が肩を揺らしながら笑いを堪え、二人を見ていた。


「 僕の婚約者は怒ると怖いんだ 」

アルベルトは肩を上げ、おどける様に言った。


「 じゃあ何か食べよう、お腹空かない? 」

「 ……うん、ちょっとだけお腹空いたかも…… 」

「 モニカ! 執務室まで何か軽い物を持ってきて!デザートもね、レティはデザートには目が無いんだ 」

「 はい、かしこまりました 」


お昼はちゃんと食べたの?…と、二人が仲良く手を繋いで、お喋りしながら歩いて、執務室に入って行った。



ギャラリーはキャアキャアとピンク色に染まった。


モニカは……

以前に、王女に叩かれた頬を押さえていた。

皇子様が居ないのにも関わらず、無理やり入ろうとした王女……

皇子様が入ろうと言っているのに、必死で拒んだリティエラ様……

モニカはクスクスと笑った。


しかし……皇子様のあの蕩けそうな甘い顔は何?

あんなおどけた皇子様も始めて見る……

他の侍女やメイドや警備員達がザワザワしている。


これは……皇太子宮は賑やかになりますね。

「 さあ!甘い甘いお二人に、美味しいお食事とデザートをお持ち致しましょう! 」

モニカは張り切るのであった。



勿論、サンドイッチやデザートが運ばれた執務室では、バカップルのあーんプレイが続き、クラウドの目が点になったのだった。



殿下……ご自重を……




***




それからレティは皇宮病院に行くと言うと、二人で行く事になり、二人で皇太子宮から出てきた。


手を繋いで歩く二人の姿は、皇宮にいる人達を驚かせた。

まあ……聞きしに勝る皇太子殿下の溺愛ぶりで……

婚約者を見る殿下の眼差しの甘いこと……

あの、お二人の恋物語の話は本当だったのだと改めて思ったのだった。



「 皇宮病院には何の用があって行くの? 」

アルベルトは、あの新米医師が気に入らなかった。

レティがグレイに向ける眼差しと、同じ眼差しを彼にも向ける事を感じ取っていたのだった。



「 私、医師の試験を受けるの 」

「 えっ!? 」

アルベルトは固まった。

皇太子妃になると言ってくれたのでは無かったのか?



「 この度はご婚約おめでとうございます 」

皇宮病院に着くと、二人を見た病院長やスタッフ達が、わらわらと集まり、祝辞を述べた。


「 有り難うございます、あの……病院長にお話があるのですが…… 」

「 私にですか?」

病院長はどことなく元気が無かった。


応接室に通され、閉口一番に

「 わたくし、医師の試験を受けようと思います 」

「 本当ですか!? 」

病院長の顔が輝いた。

「 そうでしょう、そうでしょう、貴女様の才能を皇太子妃………いやいや、兎に角、そのご決断を歓迎します 」


病院長が勝ち誇った様な顔をした。


「 じゃあ、詳しい事を書いた書類を用意します 、ユーリ! 」

「 はい 」

「 ウォリウォール嬢が、医師の試験を受けるから、早く書類を持って来なさい! 」

「 えっ!? 」

ユーリは目を輝かせながら、レティを見た。

そして、やはり勝ち誇った様な顔をしてアルベルトをチラリと見た。



何か……ムカつくぞ!

レティは俺のものだ!



病院長は、レティの気が変わったら大変だと、急いで手続きの書類にサインをさせ

「 では、試験の日をお待ちしております 」

そう言って、こっそりガッツポーズをして頭を下げた。

それ程までに女性医師を欲っしていたのである。



二人は皇宮病院を後にした。

アルベルトは黙って歩く。

皇太子宮でのハイテンションが嘘の様に寡黙だった。

レティと繋ぐ手をギュッと握りしめ……

離すもんか……絶対に離さない。



すると、レティが足を止め

「 殿下、良いですよね! 皇太子妃が医者でも…… 」

「 ……… 」

「 やっぱり駄目かしら? 」

レティの耳が垂れシュンとした。



「 ああ……良いよ、かまわないよ!皇太子妃が医者でも、騎士でも、薬師でも…… 」

アルベルトはたまらなくなってレティを抱き締めた。

才能あるレティが、何時か自分から離れて行ってしまう気がしていて、ずっと不安だったのだ。


レティは……

皇太子妃としての未来をちゃんと考えてくれていた。



レティは抱き締められながら思った……

後、実業家を目指しているけど……これはセーフよね、殿下も、両陛下も実業家だって言ってたもの。


アルベルトは、レティの顔を覗き込みながら

「 僕のお嫁さんは、スーパー皇太子妃だね 」

「 あら!?随分と強そうな皇太子妃ね…… 」

二人で見つめあい、クスクスと笑った。



「 次はどこに行きたい? 」

「 虎の穴に…… 」

じゃあ、婚約の挨拶回りに行こうか……と、二人で仲良く手を繋ぎ歩いて行った。





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