第165話 異国でデート




「 校門に、背が高くて、凄くカッコいい男性がいる 」

女子生徒達がキャアキャア騒いでいる。


ローランド国のアントニオ学園は、街中にある事もあってか、多くの学生は徒歩で通っていたのである。



どなたをお待ちになっているのかしら?と、生徒達の待ち人探しまで始まってしまった。


アルベルトは4年生、2年生の時に1年間もこの学園に居たので、3年生と4年生はアルベルトを知っている筈だ。

レティは、バレたら大変と急いで寮に戻り、ワンピースに着替えて校門まで走る。

校門の外まで行くと、遠巻きに大勢の女性徒達が、頬を染めてキャアキャアと言いながらアルベルトを見ていた。



アルベルトは壁に凭れ、本を読んでいる。


カッコいい……

帽子を深く被り、眼鏡を掛け、レオナルドなのにカッコ良かった。

いや、レオナルドもかなりカッコ良いのだけれども……

アルベルトには到底敵わない。


いや……見惚れている場合では無い。

レティが行くと、周りは更に更にザワザワとキャアキャア騒ぎ出した。

アルベルト目掛けて突進して来そうな猛者もいる……


「 殿下……早く行きましょう 」

護衛騎士が居ない今………私がお守りせねば……


本を読んでいたアルベルトが嬉しそうに顔を上げた。

「 レティ、お帰り 」

「 ただいまです……殿下、ここは危険です! 」

小声で言いながら、アルベルトを自分の後ろに隠す様にして、レティは足早に立ち去る事を促した。


レティは小柄なので、背が高く体格のよいアルベルトが隠れる筈が無いのだが、3度目の人生の時に騎士養成学校で習った、騎士の心得通りに主君を守る行為を徹底した。


アルベルトは……

騎士になっているレティに吹いた。

今は騎士なんだね?

俺を守ってくれてるんだ……可愛い……

君は俺の婚約者なんだけどなぁ……

たまに騎士になるレティが可愛くて仕方の無いアルベルトだった。


「 有り難うレティ、もう大丈夫だよ 」

騎士レティに守られ、移動に成功した主君が笑いながらレティに手を繋いで来た。


ふう……もう、安心ね……

「 あら?それ……… 」

「 ラウルから渡された袋に入っていたんだ 」

アルベルトが持っていた本は、レティの愛読書の『魔法使いと拷問部屋』だった。


「 この本のおかげで、船旅でも退屈しないで済んでるんだ 」

「 ………あのね、それの結末はね……」

「 こら!レティ、悪い口だな! 」

アルベルトに口をつねられ、こう言う所はラウルにそっくりだと呆れられた。

ふふふ……兄妹ですから……



「 今日は何処に行きたい? 」

「 氷の微笑み 」

友達に聞いていたジェラードのお店の名を言った。

美味しくて有名なお店だそうで、スイーツにめがないレティは、留学中に絶対に行きたかったのだ。


「 ああ……あの店ね 」

アルベルトが気まずそうな顔をした。



店の前に来たらその理由が判明した。

お店はピンクが基本色で、クリーム色と水色の水玉や白い花がいっぱいの、絶対に女の子しか行かない様な可愛らしいお店だった。


窓から中を覗くと、女の子達以外にはカップルが数組いて、男性はカップルで来てる以外は皆無だった。


「 ここ……止めましょうか? 」

「 良いよ、入ろう 」


店に入って行くと……

女の子達の目がハートになり、女性スタッフも、席に案内しながらアルベルトを熱く見つめ、なんと彼氏といる女の子も、アルベルトを見つめていた。


これから

これに慣れなければいけないんだろうけれども……



アルベルトはアイスコーヒーを、レティは友達のオススメのジェラードタワーを頼むと、スタッフが運んできたジェラードタワーは、これでもかと言うくらいに色んな色のジェラードがてんこ盛りだった。


キャア~!美味しそう~食べごたえバッチリだわ!

レティの目がキラキラと輝いている。


「 本当にそれ食べるの? 」

「 ええ! やっつけるわ! 」

「 おお! 勇ましいねぇ 」

アルベルトはクスクスと笑った。


一口食べると……口の中で溶けていく……

「美味しい?」

レティがコクコクと頷くと、アルベルトが嬉しそうにレティの顔を覗き込んで

「 幸せそうな顔をしてる 」

そう言って、蕩けそうな顔をしてレティの頬をチョンとつついた。

赤くなるレティに周りはキャアキャアと黄色い声をあげている。



でも……

暫くすると、ある考えが消しても消しても湧き上がって来て、レティは暗くなってしまっていた。



このお店……

絶対に彼女と来たんだわ。

お店の名前を言った時に気まずそうな顔をしたのは、彼女との思い出があるからなのよ。

こんな可愛い店に、お兄様達なんかと来るわけがない。

それに……

昨日のプロポーズの公園も……



「 どうしたの? 負けそう? 」

レオナルドに変装した殿下がニコニコしている。

眼鏡の奥のアイスブルーの瞳が美しい……


こんなにカッコいい人がモテない筈が無いわよね。

それに……

私に会うために、護衛騎士も付けずにこんな所まで来てくれたんだから……


レティは

胸がチクりと痛んだけれども、アルベルトの過去(妄想)に蓋をした。



ちょっと落ち込んでしまったので食べるペースが落ちると

「 レティ、手伝ってあげようか?」

アルベルトが、食べさせてとあーんとしている。


スプーンに乗せたジェラードをアルベルトの口に持って行くと、パクっと食べた。

何だこれ?殿下が甘い……

そして……可愛い……


周りはザワザワとし、キャアキャアと騒いでいるが……

これは止められないぞ!


「 殿下……あーんは? 」

次々にジェラードをアルベルトの口に運ぶ……

「 レティ、もう無理……無理だってば! 」

頭がキーンとすると言ってこめかみを押さえていたアルベルトだった。



「 次はレティだよ、あーんは? 」

スプーンをアルベルトに取られ、ジェラードをレティの口に運んで来た。

パク………

「 可愛いね、レティ……美味しい? 」

「 うん、美味しい 」




バカップルの誕生である。





お店を出て、手を繋ぎ二人で街をブラブラと歩いた。

外では、カツラが暑いと言って、アルベルトはカツラを取り、帽子を更に深く被っていた。


伊達眼鏡は掛けているが……

それがまたカッコいい……

すれ違う女性達がアルベルトに見惚れている……

中には声を掛けて来る女性もいる。


「 見て分からない? 今恋人とデート中なんだけど……」

殿下はハッキリと拒んでくれたけれども……

横で、恋人繋ぎをして歩いている私をなんだと思ってるのかしら?


ちょっとムッとしてると、アルベルトが顔を覗き込んで来て

「 好きだよ……レティは? 」

「 ……こんな所で言えない…… 」

「 じゃあ、二人っきりになれる場所に行こうか? 」

アルベルトがレティの耳元に顔を寄せ囁いた。

その声が甘くて甘くてドキドキが止まらなくなる……


恋人同士になるとこんなにも、甘くなるのかと顔が熱くなるレティなのであった。


いや、あんたら……普段からそんなんだろうと、ここにジラルド学園の生徒がいたら、そう突っ込んだに違いない。



何だか怪しい小さな雑貨店の前に来たので、店に入る事にした。

こんな店には掘り出し物があるのだ。

レティの仕入れ魂が燃える。


カランカラン………

店に入ると、見たことも無い珍しい物が沢山あった。

アルベルトはキョロキョロしながら変なお面を手に取っている。

何だこの置物は?

レティがデカイ顔をした人形とにらめっこしていると……



「 いらっしゃいませ 」

奥からやって来た人を見て、レティは思わず叫んだ。



「 ジャック・ハルビン! 」



彼は

一度目の人生で、レティが海に突き落とされて死ぬ原因となったであろう包みを、レティに渡した人であった。







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