第166話 怪しい店の怪しい店主



「 ジャック・ハルビン! 」


レティは、奥から出て来た男を見るなり叫んだ。



「 確かに俺はジャック・ハルビンだが、貴女様にフルネームで呼び捨てにされる謂れは無いが?」



赤毛に金色の瞳……

こいつだ!こいつだ!

確かにあの時私に何かを渡した男だ!


ついに見つけたわ!

こいつが変な物を渡すから、こんな奇妙な人生を送る羽目になったんじゃないの?


あの時渡した物は何?

4年後に私に何を渡すつもりなの?

私が海に突き落とされなければならない程にあれはヤバい物なの?


聞きたい事が山程あるのに、今はこいつに何も聞けないのだ。

レティは唇を噛んだ。

私にとっては過去に起こった事だけど、未来に起こる出来事なのだから……


ジャック・ハルビンを睨み付けるレティの肩を抱き寄せながらアルベルトが言った。

「 失礼をお詫びする 」

アルベルトがそう言ってレティを覗き込み

「 知り合いなのか? 」………と、小声で聞いて来た。


ハッと我に返り

「 失礼しました。貴方の甥であるノア君と知り合いなんですの 」

レティは、名前を名乗らずそれ以上の事は言わなかった。

この男が胡散臭過ぎたからだ。


「 確かに、ノアは俺の甥だが……あんたら貴族だろ?それもかなりの高貴な貴族だよな? なぜ平民のノアと知り合いなのか? 」


レティは、暴漢に襲われた時に、ノア君に助けられた事を話し、ノア君とはそれで知り合いになり、叔父である貴方とは前に一度シルフィード帝国で見掛けて、ノア君に教えて貰ったと、苦しい説明をした。


「 成る程ね、よく分からないけど……で? 何の用だ? 」

「 ここで何をしてらっしゃるのですか? 」

「 ここは俺の店だ、それが何か? 」

「 えっ!? 貴方の店? 」


これはラッキーだった。

この男とは絶対に親しくならないとならない。

親しくなって情報を得たい。

お店をやってるなら、私のお店に仕入れると言って取引が出来、繋がりが持てるわ。

だけど………

今は殿下が居る……

お店をやってるのは内緒だから、今、商談するわけにはいかない。



困った……


あっ!

「 これ!これを買いたくて……… 」

レティはデカイ顔をした人形を持った。


「 ………… 」

皆が、それを買うのか? それが欲しいのか?と言う顔をしている………

「 何か……この子にビビッと感じるものがあって…… 」


そこで、パチンとジャック・ハルビンが指をならしたので、奥からもう1人男が現れた。


「 レティ、俺が買ってあげるよ 」

ヒェ~……お兄様へのお土産にしようと閃いたのに、殿下が買ってくれるとなると、そうはいかなくなったぞ……


「 有り難うございます……一生大事にします 」

うん……デカイ顔をしたこの子……大事にします……


アルベルトが支払いをしていると、ジャック・ハルビンはアルベルトをジロジロと見ていた。


ヤバい……カツラを被って無いんだわ……

早く店を出なきゃ!


ドアから外に出る時に

「 ここの商品をまた買いに来ます 」

レティはサハルーン語で話し掛けた。


ジャック・ハルビンは驚いた顔をし、クシャッと笑った。

「 君が来るのを楽しみにしてるよ 」

ジャック・ハルビンもサハルーン語で返した。



店から出ると

アルベルトが不機嫌で、レティと手も繋がずにスタスタと大股で歩いて行った。


「 えっ!?……あの………」

小柄なレティとは歩幅が違うので、二人の距離はどんどん離れていった。


殿下は何か怒ってる?

どうしたんだろう?

あのデカイ顔の人形が嫌だった?

アルベルトとはぐれて途方にくれてると……


「 君、1人? こんな綺麗な子が1人でいると危ないよ 」

「 俺達が送ってあげるよ 」

ニヤニヤしながら男達がレティに声を掛けて来た。


「 結構です! 」

これは……

こんな人混みで暴れても良いのかな? いや、私はこの国の者じゃ無いんだから、問題は避けたい。

レティにとってはこんな弱っちい男達をぶちのめすのは簡単だった。


男達がレティの肩を抱こうとすると、一瞬固まり、慌てて逃げていった。

あれ? まだ私は何にもしてないのに?

前を見上げると、アルベルトが凄いオーラで睨み付けていた。


アルベルトはレティと手を繋ぐと、黙って歩きだした。

右手には、デカイ顔をした人形を掴んでいた。

皇子様に不細工なアイテムは許せない、お洒落番長のレティがムクムクと出て来た。



「 あの……殿下…… 」


アルベルトは黙ったままレティの手を引き、屋台が並んでいる小さな広場の中のベンチにレティを座らせ、その横にドカッと座った。


真っ直ぐ前を見据えたまま

「 レティ、また買いに行くってどう言う事? それになんでサハルーン語で話したのかな?」


あっ!?

殿下はサハルーン語も話せるんだわ……

確か、殿下は5ヵ国語を話せるってレオナルドが言ってたわね。


「 あの……」

レティは、サハルーン語はレオナルドと一緒にサハルーン人の父を持つノア君から教わっている事を伝えた。


「 何故サハルーン語を習おうと思ったの? 」

「 去年にサハルーン帝国が魔獣に襲われたと本で読んで……サハルーン帝国に興味を持ったの 」

だから、習いたてのサハルーン語を試してみたかったのだと、アルベルトに伝えた。


「 気を悪くしたのならご免なさい 」

「 ああ、気分が悪いね、次の約束を外国語でするなんて……僕に内緒だったの? 」

えーと……どうしょう……

オロオロするレティ


「 お友達とお土産を買いに来たかったの……だから…… 」

サハルーン語で話したのは、まだ習い始めたばかりで、話せる言葉だったからだと説明した。



長い沈黙の後、アルベルトはふうと息を吐き

「 じゃあ、仲直りのキス 」

アルベルトはそう言って、自分の頬を指でツンツンとした。

レティは直ぐにアルベルトの頬にチュッとキスをした。


「 ご免なさい……」

「 ああ、もう、そんな可愛い顔をしないで 」

シュンとして、耳が垂れたレティをアルベルトが抱きしめた。


「 怒ってごめんね、僕は酷い焼きもちやきだね 」

「 うん、知ってる…… 」

「 素敵な皇子様を目指してたのに……レティの前ではダメ皇子だね 」

アルベルトがおどける様に言った。

「 おどろおどろしい皇子様であっても良いと思うわ 」

「 嫌だよ、そんな恐ろしい皇子様は…… 」

二人でケラケラ笑った。



「 またあの店に行くの?」

「 ………お友達となら行って良い? 」

「 怪しい店なんだから、1人で行っては駄目だよ 」

「 分かった 」

ニコっと笑うレティが愛らしくて、またアルベルトはレティを抱きしめた。



「 何か食べに行こうか? 何を食べたい? 」

「 えーとねぇ…… 」



ふう………

殿下の尋問は恐ろしいわ……

でも嘘は言ってない。

リンダ達とお土産を買いに行く約束をしてるんだから。

大事な事は少しも言えてないけれども……


そしてレティは、あのデカイ顔の人形を自分で背負った。

デカイ顔の人形は収納型リュックで、小さな体に紐が収納されていた。

アルベルトが、リュックを背負ったレティをみて、可愛い可愛いと大喜びするのであった。

レティはこのデカイ顔の人形リュックを仕入れる事に決めたのだった。




明日の早朝にはアルベルトは帰国の船に乗る事になる。

二人で過ごす時間は後僅か………

夕食を食べ終わり、学園の寮までゆっくりと歩いていた。



すると

アルベルトは止まり、気配を探るように佇んだ。

レティもただならぬ気配を察知していた。


「 逃げれるか? 」

アルベルトが小声でレティに囁いた。

「 何人います? 」

「 3人……いや、5人だ 」



暗闇から黒い影が現れた。









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