第164話 SAY YES



「 レティ、腹が減った、何か食いに行こう! 」


アルベルト御一行様は、10人の爺達も入れる大衆食堂にやって来た。

流石に2年前に留学で1年間滞在していただけあって、アルベルトは街や店をよく知っていた。



旨い旨いと、アルベルトの奢りとなると爺達はよく食べた。


「 12人分も……殿下、大丈夫ですか? 私もいくらか………」

レティが、アルベルトにお財布を渡そうとすると……


「 僕を誰だと思ってるの? お金なら心配いらないよ 」

内緒だけど実業家なんだよ。

アルベルトはそう言ってレティの頭を撫でた。


「 爺達には世話になったからね 」

「 そうじゃ! 殿下は我々に、一生ご馳走をしても良いくらいじゃ 」

「 良いよ、何時でもご馳走するよ 」

本当に……爺達には感謝しても仕切れない。

お陰で恥ずかしい事を叫んでしまったが……


しかし……

よく食うな……酒まで頼んでるよ……

爺達は異国の地でも元気だった。


早めの夕食が終わると、腹一杯食べて、ほろ酔い気分でご機嫌の爺達とはサヨナラして(←益々エロくなっていた)、二人は手を繋ぎ街をブラブラと歩いていた。



「 あっ!やばい…… 」

アルベルトは慌てて変装をした。

レオナルドになったアルベルトに、レティは大ウケだった。


レオナルドの癖と口真似をしたら、更にキャアキャアと大喜びだった。

手を繋いで歩きながらも、何度も何度もレオナルドになったアルベルトを覗き込んでは、クスクスと口を押さえて笑うのであった。


可愛い……

こんなに喜んでくれるなら、このレオナルド変装セットをラウルから貰い受けようかな………

それに、皇都でレティと堂々とデートが出来るじゃないか……

アルベルトはレティとのデートに思いを馳せるのだった。




二人は大きな池の周りに小路が続いている、王都で一番の大きな公園に来ていた。


木々が繁り緑が多く、カップル達が同じように楽しげに歩き、すれ違って行く。

人通りも少なくなったので、帽子とカツラと伊達眼鏡を取り、レオナルドからアルベルトに戻った。


「 どう? 次は皇子様に変装したよ 」

「 うん……カッコいい皇子様だわ…… 」

二人でケラケラ笑った。


アルベルトは繋いでいたレティの手を持ち、レティの手の甲にキスをし、恋人繋ぎに指を絡ませ、見上げるレティにちょっと照れた様に笑った。



恋人繋ぎ………

ドキドキする………

レティは顔が熱くなった。



空いているベンチに二人で座る。

夕焼けが辺りを朱く染め、池もオレンジ色に染まった。


「 綺麗…… 」

レティの顔も、オレンジ色に染まっていた。



その時………

夕日に照らされた黄金の髪がキラキラ光る長身の美丈夫が、ベンチに座る亜麻色の髪の小柄な美少女の前に立ち、右手を

少女に差し出しながら、片膝を付いた。



「 アルベルト・フォン・ラ・シルフィードは、リティエラ・ラ・ウォリウォール嬢に結婚を申し込みます 」



「 レティ……愛している……僕と結婚して下さい 」



アルベルトはレティにプロポーズをした。

レティを見つめ、緊張しながら静かに返事を待った。

オレンジの夕日にアルベルトの髪がキラキラと光っている………



レティは立ち上がり、深呼吸をし、一瞬唇をキュッと結び……



「 はい……リティエラ・ラ・ウォリウォールは、アルベルト・フォン・ラ・シルフィード殿下の結婚の申し込みをお受け致します 」

レティは、アルベルトの差し出した手の上に震える手を乗せた。



「 レティ………有り難う 」

アルベルトは震えるレティの手をキュッと握り………



「 皇太子妃になってくれますか? 」



これが大事な事だった。

アルベルトとの結婚は普通の結婚では無いのだ。

皇太子妃になる事であり、将来にはシルフィード帝国の皇后になる事でもあるのだ。



見つめ合う二人



レティ………イエスと言って……



長い長い沈黙の後………


「 はい、皇太子妃になって、皇太子殿下をお支えし、命懸けでお守り致します 」

最後にはちょっと騎士が出た。




「レティ………」


ん? 命懸けで守る?

レティが可笑しな事を口走ったけれども………


アルベルトは立ち上がり、胸ポケットから指輪を取り出し、指輪にキスをして、レティの手を取り、薬指に指輪を嵌めた。

青い小さな宝石が埋め込まれた指輪だった。


「 ちょっと大きいね、本当は、もっとちゃんとした指輪を贈りたかったんだけど……時間が無くて……今日、街の店で買ったんだ 」

アルベルトが申し訳なさそうに言うと………

レティは首を横に振り、指輪にキスをした。

「 嬉しい……… 」

レティはポロポロと涙を溢した。




永い永い時間を越えて

やっと巡り会う事が出来た二人……


何度も何度も時間が巻き戻ったのは

二人が巡り会う為だったのだろうか……


今、分かっているのは

ただただ好きだと言う事……


将来がどうなるのかは分からない

未来があるのかも分からない


レティは不安を感じながらも

大好きな人の想いを受け止める事にした………




「 好きだよレティ 」

アルベルトは指でレティの涙を拭い、レティの顎を持ち上げ、唇を落とした。

二人のシルエットが1つに重なった。




二人で過ごす時間はあっと言う間に過ぎて行く………


「 もう、帰る時間だね 」

アルベルトはズボンのポケットから懐中時計を取り出し言った。

留学生寮の門限は8時だった。



学園の門の前に着くと

「 明日、授業が終わる頃に、ここに迎えに来るからね 」

レティの頭にキスをする……

「 じゃあね、お休み 」

「 お休みなさい 」


手を離したくなくて………

ずっと繋いでいると、門を閉める為に門番が定位置に付いた。


レティは慌てて手を離し、胸の前で小さくバイバイと手を振りながら、学園の中に駆けて行った。


時間ギリギリの生徒達が次々に駆け込んで来る。

懐かしいな……

ラウル達とこんな風に駆け込んできたっけ……

俺達の学園生活も後僅か……



アルベルトは宿屋に向かって歩き出した。






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