第163話 異国の地での再会
さて………
どうしたものか………
アルベルトはローランド国に降り立ち、港所有の馬車に乗り、王都までやって来ていた。
今日は休日なので、学園は休みだ。
留学生寮に訪ねるしかないか………
しかし、2年前に学園にいたので、正体がバレる可能性がある。
それに、レティの事だから寮にじっとしてる筈が無い。
彼女の行きそうな場所………
図書館か………
いや、王立図書館には他国の者は入れないだろうな。
アルベルトが考えながら街を歩いていると………
ん?
赤の塊が………
居る………
赤に混じって白が居る……
何してるんだろう?
アルベルトが見てると
白のローブは店に入って行った。
何の店?
………唐揚げ店だ!
袋を抱えて店から出てきた白のローブが、赤のローブの塊に唐揚げを配っていた。
何やらキャアキャアと楽しそうだ。
顔が見たい……
白のローブはフードを被っているから顔が見えなかった。
因みに、今は夏だがらローブを着るのは暑そうに見えるが、この虎の穴のローブは、錬金術で何でも吸収しやすいローブになっている。
なので、夏は暑さを吸収し、冬は寒さを吸収すると言う優れ物であった。
赤と白の塊は、唐揚げを頬張りながらテクテクとアルベルトに向かって歩いて来た。
「 旨そうだな 」
「 誰じゃ?」
赤のローブの爺達が口々に言いながら、白のローブを向こうへ押しやり隠した。
あっ! 俺、レオナルドだった………
「 私だ……… 」
帽子とカツラを取り、伊達眼鏡を外し、鞄に入れた。
「 おお!?……殿下……お待ちいたしておりました 」
爺達が口々に言い、一斉に頭を垂れた。
白のローブは、アルベルトの方を見て黙って立っていた。
フードを深く被っていて顔がよく見えない……
二人の間に時間の風が吹く………
そこだけ時が止まった様に、二人は黙って向き合っていた。
アルベルトを見ていた白のローブは、クルリと回れ右をし、スタスタと反対方向に歩いていった。
「 !?……」
アルベルトはクックッと笑いながら
白のローブを追い掛け、手を取り、肩を抱き、直ぐ横の路地裏に連れ込んだ。
白のローブのフードを、ずらしながら………
「 レティ、顔を見せて 」
アルベルトは両手でレティの頬を優しく包んで、顔を上げさせた。
ピンクバイオレットの瞳、大きな目、可愛い鼻、赤くまあるい唇………
前髪が風に揺れると、アルベルトの大好きなまあるいおでこが現れた………
ああ……レティだ……
狂おしい程に見たかった顔があった。
「 逢いたかった………」
そう言ってレティを抱き締めようとしたが、レティはアルベルトをトンと押した。
「 殿下………駄目ですよ二股は………」
「 !?……」
そう来たか……
レティは、俺と王女の婚姻が決まったと思ってるんだよな……
「 レティ、好きだよ…… 」
「 だから………あっ!!………」
殿下は私を側室にするつもりなんだわ。
4度目の人生は側室?
そんなの………
どの人生より駄目じゃん!
王妃と側室4人との泥沼の戦い……
毒殺とか……
ふっ……毒薬を作れる薬師の私が疑われるに決まってるじゃないの………
レティの妄想の中では、何故か側室が4人いる事になっているアルベルト皇帝陛下なのであった。
1人は、アルベルトとオペラデートをしたあの令嬢で、後の二人は、アルベルトに体当たりをしたあの姉妹だった。
何気に根に持っていた。
さあ、アルベルト皇帝陛下の妻達5人の中で、真っ先に毒殺されたのは誰でしょうか?
レティ側妃は疑われ、拷問部屋で石を抱かされていた。
吐けーっ!吐けーっ!ピシーンと鞭で叩かれ………
「 レティ、何か変な事を考えて無い? 」
「 殿下、ワタクシは殿下を好きですが……側室にはなりたくありません 」
あっ………好きって言った………
……って側室って何だよ?
「 僕はレティしか愛さないよ 」
「 それは……王女様が可哀想だわ! 」
真剣に眉をしかめて言うレティに、アルベルトは可笑しくなって笑ってしまった。
「 レティ、よく聞いて! 王女との婚姻は断ったんだよ 」
「 えっ!?、だってお父様が……… 」
「 ルーカスがレティに謝っといて欲しいって………」
「 でも………」
「 この爺達がね、書簡で進言してくれたんだ 」
「 何を? 」
「 いや………それは………」
俺の子種の話しで決まったなんて言えない。
アルベルトは指で頬を掻いた……
「 実は……僕はレティしか嫌だと駄々を捏ねたのさ 」
「 子供みたいに? 」
「 そう、ひっくり返って手足をバタバタさせてね 」
「 皇子様なのに? 」
「 皇子様もやる時はやるよ 」
手足こそバタバタとはしてないが、ごねたのは事実だ。
アルベルトはレティにウィンクをした。
まだレティは、何やら納得のいかない顔をしていたが………
「 おいで、レティ……ギュッとさせて………」
アルベルトは両手を広げた。
アルベルトに抱きつく………
いや、抱き付いたのは赤のローブの爺だった。
アルベルトの逞しい胸に貼り付く爺は、頬を染めうっとりとしていた。
この爺は、アルベルトに抱かれる事を常に狙っている爺だった。
赤のローブの爺達がわらわらと路地裏前に来ていた。
「 この、糞ジジイが! 」
アルベルトは、抱き付き爺をつまみ上げながら悪態を付いたが………
その後、姿勢を正し
「 貴殿達のこの度の進言に感謝する 」
アルベルトはそう言って爺達に丁寧にお礼を言ったのだった。
爺達は、皇太子殿下のお礼に深々と頭を垂れた。
「 殿下、お役に立ててなによりです………妃様があまりにも悲しそうだったものですから 」
「 爺ちゃん! 」
レティが恥ずかしそうにした。
アルベルトは、切なさに眉を下げながら………黙って両手を広げた。
抱き付き爺が、またもやアルベルトに抱き付きに行こうとしたが、流石に他の爺達に阻まれた。
レティはアルベルトの腕の中にポスっと入った。
自分の胸に顔を埋めるレティに、アルベルトは愛おしそうに抱き締めながら、レティの頭に頬をスリスリした………
「 髪………短くなったね 」
「 ウフフ……邪魔だから切っちゃったの……似合う? 」
「 似合うよ、ちょっとお姉さんになったみたい 」
アルベルトはレティの頭にキスを落とした………
「 大人っぽくなった? 」
「 うん……ドキドキする 」
二人はクスクスと笑いながら額をコツンと合わせた。
しかし
慌ててアルベルトはレティの耳を覆った。
「 殿下には妃様に、たっぷりと子種を…… 」
「 そうじゃ、邪魔しちゃならぬ 」
「 殿下は何時でも猛り……… 」
悲しみを乗り越え
遥々海を渡って来た感動の再会の場でも
爺達はワチャワチャと論ずるのを止めないのであった。
「 お前達、五月蝿い! 」
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