第141話 シエルとレティ




レティは虎の穴で薬草作りに専念していた。


毒薬と解毒剤

これを作れる様になれば一人前らしい。



「私は魔女……貴方を生かすも、殺すのもワタクシ次第………」


「オーホほほ…… 」


レティは鍋をかき混ぜながら、魔女の悪役令嬢と言うわけの分からないものに成り切っていた。



「 リティエラ嬢! 魔女は悪役令嬢ではございませぬぞ 」

薬師のミレーさんが笑いながら言う。

ミレーさんはレティの指導係をしてくれているのである。



「 いえ………今年の文化祭はこれで行こうかと……」

「 学園の文化祭ですか? 」

「 ええ……去年は兄のクラスに負けたので、今年は絶対に負けれませんの……」




「 リティエラ嬢がいると学園も楽しそうですね 」

錬金術師のシエルが薬学の部屋に来ていて、クスクスと笑っていた。



「 あっ、シエルさん 」


「 劇場から依頼されてた魔道具のスポットライトが出来上がり、設置に行くのですが……」


「 私も行きたいです! 何時ですか? 」

レティが目をキラキラさせて食い付いた。


「 そう言われると思ってましたよ、 来週の休日ですよ 」

シエルは嬉しそうに言った。



やった!

スポットライトに映えるドレスを持って行こう!

女優さん達に売り込める!



レティは、16歳の誕生日に店舗を購入したばかりで、お金が無くなっていたので、商売のチャンスとばかりに張り切っていた。


そんなレティを、シエルは優しく笑い、見つめているのだった。



シエルとの打ち合わせで、設置テストの時にドレスを着て、舞台に立っても良いと言われたので、

その日レティは、披露するドレスを着て、虎の穴の研究員として白のローブをドレスの上に羽織った。



劇場に着くと………

魔道具を設置するシエルを見ながら

アルベルトとのデートを思い出していた。


寝ちゃってたからあまり記憶が無いけど……

でも、大人な殿下にエスコートされて………嬉しかったな……





すると………

劇場がざわざわして

二階をみると………

殿下と王女が二階の貴賓席に現れた。



ああ………まただ……

また、知らなくてもいい事を………

見なくてもいい物を見てしまったのだ。



何で遭遇するかなあ……

あまりにもの遭遇率に、もう、笑うしか無かった。




支配人の説明があり、劇場の灯りが消えた。

シエルから、舞台の中央に立つ様に指示をされ、レティは白のローブを脱ぎ、舞台の中央に立った。



殿下は私に気付くかしら?

ドキドキしながら舞台の上で待っていた。



シエルの合図と共に、スポットライトがレティを照らした。

観客からどよめきが沸き起こった。

レティは、ドレスをチョコっと持ち、丁寧にお辞儀をした。



そして、舞台上を自由に動いて欲しいとシエルの指示が飛ぶと、レティは、ドレスが綺麗になびく様に、クルクルと回り、ステップを踏みながらダンスを踊り出した。



スポットライトがレティを追い掛け、照らす………

翻ったドレスがキラキラと輝き、観客を魅了した。


成功だ。

客席から、拍手と歓声が上がった………



レティとシエルは親指を立てて、成功を喜んだ。



スポットライトが消され、会場に灯りが灯った。

すると、シエルがレティの側に行き、白のローブをレティに着せて、襟元のリボンを結んでくれた。


何?………

レティは、そんなシエルにビックリして、ドキマギしていた。

「 あ……有り難うございます 」



すると……

支配人が、アルベルト皇太子殿下とイニエスタ王国のアリアドネ王女が観覧に来ている事を紹介した。

観客が一斉に立ち上がり、二階の貴賓席を見て拍手をした。



レティは、余計なものは見たく無かったので、見ることはしなかった。


シエルが、俯くレティを静かに見ていた………




殿下は、私に気付いたかなあ……

気付いたならちょっとビックリしたわよね。


さあ!商売だ!

レティは、控え室の女優さん達を訪問し、ドレスのセールスをした。

その結果、何着か注文が入ったのだった。


ホクホク顔で戻って来たレティに、シエルにこのままオペラを見ようと誘われたが、レティはオペラは苦手だと断った。


本音は、アルベルトと王女がデートしている場所には居たく無かったのである。



シエルが家まで送ると言うのも断り、レティは自分の店に行った。


考えない様にしていても………

アルベルトと王女の姿が浮かび、胸が傷むのだった………




そして胸を痛めている者がもう1人居た。

リティエラ嬢は、皇太子殿下の恋人だからと自分の想いを封印していたが……

皇太子殿下と王女の婚姻が成立すれば、レティに交際を申し込もうと真剣に思い始めていたのだった。



シエル30歳、皇立特別総合研究所の錬金術師である。

侯爵家の3男坊で、研究に没頭するあまり、生涯結婚なんてしないと思っていた男の、遅すぎる初恋であった。






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