第140話 公爵令嬢、スポットライトを浴びる
アルベルトは王女の希望で、オペラを見る為に劇場にいた。
カップルシートに座るや座らないで、王女と一悶着あって、うんざりしていた。
何で好きでも無い女と、カップルシートに座らなければならないのか?
本当にうんざりする……
アルベルトは、楽しかったレティとの一時を思い出していたが……
何故だか嫌な予感がするのは、過去のトラウマからだろうか………
そして
つまらなさそうに肘掛けに肘を付き、舞台をぼんやり眺めていた。
支配人が舞台上で、今から実験をすると言う。
灯りが落とされ場内が暗くなった。
すると、1つのライトが舞台上にいる1人の女性をパッと照らした。
客席からどよめきが起きた………
ライトが彼女を照らし、ドレスがキラキラと輝いた。
彼女は女優であろうか………
白い肌、赤い唇、ピンクバイオレットの瞳、亜麻色の髪もキラキラと輝いている美しい女性がお辞儀をし、ニッコリと笑った。
嘘だろ!?
アルベルトは椅子から立ち上がり、身体を乗り出した………
舞台でスポットライトを当てられ立っているのは、レティだった………
周りには、見慣れた青のローブを着た錬金術師がいた。
シエルだ。
劇場の支配人から、頼まれて作った魔道具のスポットライトの設置とテストに来ていたのだった。
レティは、スポットライトに良く映える自分のデザインしたドレスを作り、それを披露する為にシエルに同行させて貰っていたのだった。
シエルの指示で、レティがドレスを翻しながらクルクルと可愛らしく踊り出した。
レティの動く方に、スポットライトも動く………
翻ったドレスがキラキラと輝き、観客を魅了する。
成功だった。
客席から、拍手と歓声が上がった………
ニッコリと笑うレティは、誰よりも美しかった。
俺の恋人はなんて綺麗なんだ………
アルベルトはレティに見惚れていた。
しかし………
毎度ながら、レティの神出鬼没さと、度胸の良さには驚かされるばかりだ。
アルベルトは可笑しくてクックッと笑った。
本当に………大好きだ……
「 綺麗な女優さんね 」
王女は公爵令嬢のレティとは気付かなかった様だ。
青いローブを着たシエルがレティを見つめている。
その時に
シエルはこっちを見上げて、会釈をした。
そして……
舞台上にいるレティに、白のローブを掛けて、首元でリボンを結んであげていた………
恥ずかしそうにするレティ……
俺がいるのを知っていて………
まるで二人の親しさを見せ付ける様に、シエルはレティの世話を焼いたのだ。
堪らなくなって、アルベルトは席を立ってレティの元に向かおうとした……
しかし
その時支配人が、アルベルト皇太子殿下とイニエスタ王国のアリアドネ王女が観覧に来ている事を紹介した。
観客が一斉に立ち上がり、二階の貴賓席を見て拍手をした。
ちっ……余計な事を……
仕方なくアルベルトは片手を上げ、歓声に答えた。
アリアドネ王女もニッコリと微笑みながら観客に手を振っていた。
舞台の袖に立っている白のローブを着たレティは、顔を伏せたままで、アルベルトを見る事は無かった………
レティ………
アルベルトは、観劇の途中でトイレに行くと装い、レティを探したが………
もう、レティとシエルの姿は何処にも無かった。
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