第142話 グレイとレティ
早いもので、初夏に入り、
学園は学期末試験のテスト週間に入った。
もう、3度も試験勉強をしたレティは、今さら勉強をする必要は無く、薬草作りに精を出していた。
庭の薬草もグングンと成長し、レティは上機嫌だった。
「 レティ、頭が良くなる薬は無いか? 」
ラウルが窓から顔を出しながら言った。
「 そんなもんがあったら私が飲みますわ! 」
「 お前は、勉強しなくても、600点だもんな……もしかして飲んでるのか? 」
「 まさか………そんな薬なんてあるわけ無いでしょ!」
お前の頭が羨ましいよとお兄様は言うが………
私は3回も試験勉強をし、テストに出る問題も知っているのだ。
私は、決して天才なんかでは無いのよ……
天才は殿下よね。
ずっと500点満点を取り続けるなんて……
きっと………賢い皇帝になられるわ……
そしてレティは、午前中に終わる授業の後、皇宮に赴き、騎士団の訓練場で、弓兵達の訓練を見学していた。
皇宮騎士団の練習は、前もって見学届けを出せば誰でもが見学する事が出来るのである。
軍事式典の為に来ていた国境警備隊の兵士達は、暫く皇宮に滞在して、その間訓練をする事になっていた。
軍事式典で、弓兵達と仲良くなったレティは、毎日差し入れのお菓子を焼き、籠いっぱいに持って来ていた。
訓練が終わると、差し入れを配り、皆で輪になってお話をする。
彼等が話す魔獣討伐の話に、レティは興味津々だった。
そして
何時しかそこに、騎士団のグレイが加わって来ていた。
ああ………ここに居ると、3度目の人生の時の事を思い出す………
グレイ班長が居て……
皆でワイワイやってたっけ………
私が死んだ後は、皆はどうなったのだろう?
やはり、そこで時間が戻ったので、皆は私みたいに、痛くて苦しい思いをしないで済んだのだろうか………
そうだったら良いな………
そんな風に思うレティは何処までも優しい少女だった。
それを遠くから見つめている男がいた。
アルベルトだった。
ラウルから、レティは試験勉強もしないで騎士団の訓練を見学しに行っていると聞いて、やって来たのであった。
多分、今、皇宮に滞在してる弓兵の訓練を見てるんだろうな………
それ程好きなら、やはり騎士クラブでも弓の訓練をオッケーにしても良いかも………
そんな事を思いながらやって来たアルベルトは、弓兵達と楽しそうに話をするレティを見付けた。
俺のレティは今日も可愛い………
しかし、弓兵達に混ざってグレイが居た………
何故、弓兵に混ざってグレイがいるのか?
グレイと楽しそうに話すレティ………
レティとグレイには何なのか分からない特別な違和感があった。
レティのグレイを見る目が、他の人には向けられないものがあったのだ。
舞踏会の時も……
グレイはレティをダンスに誘おうとしていた。
そして………レティはグレイを見つめていた。
グレイとダンスを踊るつもりだったに違いない………
クソっ………
レティと視線が合った……
アルベルトは、踵を返し戻って行った。
レティは何時までもアルベルトの後ろ姿を見ていた………
あれ?殿下はどうしちゃったんだろう?
グレイ班長がいるから、こっちに来ると思ったのに……
グレイはレティに惹かれていたが、騎士として主君の女をどうにかするなんて事は、あるまじき行為なので自分の気持ちは封印していた。
だけど………
港で、皇太子殿下と王女を見て、泣き出しそうな顔をして掛けて行った公爵令嬢を見たのだ。
だから………
舞踏会の時は、王女と踊る皇太子殿下を見て、寂しそうにしている公爵令嬢と、踊ろうとしていた事は事実であった。
しかし、皇太子殿下は王女と踊り終えると、走ってグレイを追い越し、公爵令嬢の所まで行ったのだ。
グレイは余計なお世話だったなと笑ったが……
少し残念な気持ちになったのだった。
彼もまた、皇太子殿下と王女の婚姻が決まれば、レティとの結婚を考える事になるだろう。
因みに、3度のどの人生でも、レティのデビュタントでファーストダンスを踊ったのはグレイだった事は、レティが思い出した事だったが………
父親ルーカスが、グレイとレティを結婚させようとしていた事は、もう誰も知る事の出来ない事である。
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