第135話 軍事式典、弓兵部隊と皇太子殿下の聖剣
シルフィード国には、年に4度の皇室主宰の行事があって、
7月には軍事式典がある。
昨年は、アルベルト皇子の立太子の礼と重なる事になり、軍事式典は中止となった。
軍事式典は、シルフィード帝国が建国間もない頃に、敵国と戦い、勝利し、凱旋パレードをした事から、国の為に功績を残した者を称える式典となった。
立太子の礼で皇帝陛下に聖剣を賜り、シルフィード帝国の最高指揮官になった皇太子殿下が、パレードの総大将として皇都の広場から皇宮の門を通り、宮殿の広場まで行進をするのである。
広場から皇宮の門までの道には民衆が集まって歓声を送る。
宮殿の広場には貴族達が整列し、壇上には皇族が座る席が用意され、パレードを待つことになる。
壇上には 皇帝陛下と皇后陛下と、来賓であるイニエスタ王国のアリアドネ王女が座っていた。
王女は、この軍事式典に参列をし、約一月の間、皇宮に滞在する予定である。
本格的に、アルベルト皇太子殿下との婚姻を結ぶ為に、押し掛けて来たのであった。
昨年の建国祭の時に来国して以来、アリアドネ王女はアルベルト皇子に想いを寄せていた。
ラッパが鳴り響き、パレードが始まった。
皇宮の門の外から大歓声が聞こえる。
白の軍服の正装をし、赤いサッシュに赤いマントを翻した皇太子殿下が、白馬に乗り行進が始まった。
太陽の光を浴びて、アルベルトの黄金の髪がキラキラと輝き、その美丈夫に、逞しさが備わった18歳になった皇太子アルベルトは、1年前の立太子の礼の時よりも遥かに輝きを増していた。
皇宮騎士団第1部隊、第2部隊、第3部隊が騎乗し、隊列を成して後に続く。
その次には、国境警備隊の第1部隊、第2部隊、第3部隊が騎乗して続き
その後に、弓兵達が歩いて行進をする。
レティが、3度目の人生で所属していた皇宮騎士団騎乗弓兵部隊は、まだ設立されては居ない。
弓兵部隊も、国境警備隊にあるだけであった。
大歓声が続く中
皇太子殿下が白馬に乗りやって来た。
馬の手綱を引きながら
貴族席の横を通りすぎる。
通りすぎる瞬間に、レティと目を合わせるアルベルト。
だけど、レティは目を反らした。
アルベルトはちょっと驚いた顔をして、何度もレティを振り返り見ていた。
殿下、お願い
もう私に構わないで………
王女様が、格好良く素敵な殿下に見惚れているわよ………
アリアドネ王女が両手を胸の前で組み、壇上からアルベルトを見つめている姿は、誰もが、王女はアルベルト皇太子に想いを寄せている事が分かった。
レティが貴族席から立ち去ろうとした時
皇宮騎士団第1部隊にいるグレイが、騎乗し通り過ぎた。
レティはグレイと目が合った………
軽く会釈をすると、グレイは破顔した。
ドキッと胸が高まる……
レティは何時までもグレイを見ていた。
弓兵隊が行進して来た。
レティの目的は弓兵達であった。
何時もは、華やかな騎乗部隊とは違い、徒歩の弓兵部隊は地味で、あまり注目されない寂しいものであるが………
今回は、美しい少女が、胸の前に手を合わせて、目をキラキラさせて見てくれている………
それもガン見………
この美しい少女は、弓兵部隊の行進に付いて来ていた………
弓兵達は高揚し、気合いを入れて行進をするのであった。
ああ………
あの時、一緒にガーゴイルと戦った弓兵達だ。
グレイ班長が、皇宮弓騎兵隊に引き入れた仲間達も居た。
空を埋め尽くす何百ものガーゴイル相手に
僅か10名の弓騎兵隊と30名余りの弓兵が最前線に立ったのである。
あまりにも突然の魔獣の襲撃だった。
国境警備隊の弓兵達が応戦する中、知らせを受けた皇太子殿下率いる皇宮騎士団が、到着したのは1日経ってからであった。
しかし、ガーゴイルは夜には動かなかった為に、何とか持ちこたえていたのである。
ガーゴイル相手には、剣士は全く役に立たない。
直ぐに、グレイ班長が率いる10名の弓騎兵隊が最前線に立つ。
その中に……
皇宮騎士団弓騎兵隊の女性アーチャー、リティエラ・ラ・ウォリウォール公爵令嬢がいたのである。
共に戦った同士……
いや、もう、これから一緒に戦う兵士達なのである。
貴方達………馬に乗りましょう!
空を飛ぶガーゴイルと戦うには、動けない弓兵より、自由に駆け巡る事が出来る弓騎兵の方が、断然有利なのである。
しかし
人間相手の戦いでは、弓騎兵は完全に不利なのだから、弓騎兵が浸透していないのが現実だ。
最前線なんかに出たら、的を狙ってる間に殺られてしまうからだ。
下等なガーゴイル相手だからこそ通用する弓騎兵なのである。
弓騎兵隊をどうやって作るか………
それが問題で、また、悩みの種である。
皇宮騎士団や兵士達が、捧げ銃をする中、皇太子殿下が白馬から下り、両陛下に挨拶をし、皇帝陛下が兵士達に労いの言葉を述べた後に、ラッパの音が鳴り響きパレードが終わった。
次は、皇帝の前での模範演技だ。
アルベルト皇太子殿下もアリアドネ王女の横の席に座った。
「 アルベルト様、素敵でしたわ 」
アルベルト皇太子殿下が、皇子様の顔で微笑んだ。
アリアドネ王女が頬を染めてアルベルトを見つめる。
レティは何処に行った?
さっきまで貴族席に居たのに………
席に着くと、アルベルトは直ぐにレティの姿を探した。
さっきは、俺に気付かなかったのかな?
確かに目が合ったと思ったのだが………
いた………
弓兵隊の側にいた。
ちょこまかと動き回って……
可愛いなあ……
あんなに嬉しそうに弓兵隊を見てるよ。
騎士クラブの俺の生徒達に、弓の訓練を許可しようかな?
レティの手を取り、弓を教えられるし………
そんな、よこしまな考えを巡らすアルベルトだった。
「 アルベルト様!………聞いてらして? 」
隣の席の王女が、焦れたように言う。
レティしか眼中に無いアルベルトは、(適当に)優しく皇子様の微笑みを返す。
アルベルトは、牧場で王女に腕を組まれているのをレティに見られた事から、あらぬ誤解を招かない為に、必要以上には王女に関わる事はしなかった。
16歳になったレティに、プロポーズをするつもりなのだから、当然と言えば当然である。
剣士達の模範試合が終わり、弓兵隊の的を射るデモンストレーションが始まった。
的が用意され、1人づつ順番に、的を目掛けて弓を放つ………
うきゃあ~となった
レティはくぎ付けだった……
これだ!!
騎乗し、馬を走らせながら的を射るデモンストレーションをすれば、弓騎兵に興味を持つ人が出る!
レティは、来年の軍事式典の、弓兵のデモンストレーションに参加する事に決めたのだった。
最後に
ラッパが鳴り響き、メインイベントが始まる。
座席に座っていた皇太子殿下が立ち上がり、赤いマントを翻しながら階段をゆっくりと下りて行く………
弓兵達が使った的の前に立ち
赤いマントを翻し、聖剣を天に掲げ、聖剣を振るった………
黄金の髪が揺れ、稲妻が炸裂し、的が木っ端微塵に破裂した。
「 えっ!? ………すげえ………」
これには、アルベルト自身も驚いた。
聖剣を持つと、雷の魔力が発動しやすくなり、その威力は計り知れなかった。
場内は静まり返っていた………
民衆は、シルフィード帝国アルベルト皇太子殿下の凄さを目の当たりにした。
とたんに会場が大爆発した。
もの凄い歓声が沸き上がった。
「 皇太子殿下万歳! 」
「 シルフィード帝国万歳 !」
………と何時までも何時までも歓声が止まなかった。
何ですと……?
聖剣ですと……?
弓兵部隊の中に交じり、アルベルトのデモンストレーションをこっそり見ていたレティの目が、光り輝いたのは言うまでもない。
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