第134話 皇子と王女




レティは、16歳の誕生日のその日に、皇都の広場近くにある『売り店』に行った。


成人したら、親や保証人が居なくても、一人で売買契約が出来るのである。



「 こんにちは 」

「 ああ、よくぞお出でくださいました 」



売り店のドアを開けたレティを見るなり、店主と奥様が駆け寄って来たのだった。



「 貴女様の処方してくれたお薬が、大変よく効きまして、こんなに元気になりましたのよ 」



見ると、店主の顔色は随分良くなっていた。

レティは店主の手を取り脈を取った。


店主達は、不思議そうにレティを見ていた。

「 あの……お医者様の経験は無いのですよね? 」



あっ、しまった………医者が出てしまったわ……



レティはニッコリと笑いながら

「 効いて良かったです………じゃあ、お店はお売りにはならないのですか? 」

「 いえ、私共は息子の家に行きます、余生を孫の面倒を見ながら過ごすつもりです 」



だから、レティが来るのを待っていたと言い、店はレティに買って欲しいとお願いしてきた。

お金も、レティの言い値で言いと言われたが、レティは店主達が示していた値段の倍の値段を提示した。


何度かの押し問答があったが、レティの提示した値段で売買契約は成立した。



このお店、繁盛するんです。

後々儲けさせて貰いますから………

ずっと売らないでいてくださって、有り難うの気持ちです。



「 マーサ、お金を………」

お供の侍女からお金を受け取り、即金で支払金を渡した。


16歳になったばかりの少女なのに、完璧な書類で、店主達も驚いていた。



だって………

一度目の人生で経験済みですもの……


でも、あの時は学園を卒業してからだから、店を持ったのは19歳のレティだった。

当然店の場所も、この店では無かった。



レティは一度目の人生と、違う道を歩いている事が嬉しかった。




レティは上機嫌であった。




「 マーサ、馬車で待ってて 」


このまま家に帰るのは勿体ないと思い

街へ出た次いでに、赤い髪で金色の瞳の、ジャック・ハルビンと言う男の情報を得るため、聞き込みをしようと港へ出る事にした。






ああ………

あのまま帰れば良かった………






港では、イニエスタ王国からアリアドネ王女の乗った船が港に着き、アルベルト皇太子殿下が出迎えている所だった。



沢山の護衛騎士に囲まれ

アルベルト皇太子殿下がアリアドネ王女の手を取り、タラップを下りて来る所に遭遇したのである。


手を取り、優しく見つめ合い、楽しくお喋りしながらタラップを下りて来る二人………



レティは思わず物影に隠れた………




私はこの時、とんでも無い思い違いをしてる事に気付いた。



舞踏会でダンスを踊り、二人は恋に落ちたのだと思っていたけれども………

こんな所から、もう二人の恋は始まっていたのかも知れない。


皇子と王女……

揺るぎない身分の二人。


私の知らない二人の物語は沢山あるのだ。

一緒に食事をしたり、一緒にお散歩をしたり、一緒に勉強したり、一緒にお茶をしたり………



やはり、邪魔者は私だった……



レティは、痛む胸を押さえ、溢れそうな涙をこらえ……

そっとその場を立ち去った。





そんなレティを見つめている1人の騎士が居た。



グレイ・ラ・ドゥルク

皇宮騎士団 第1部隊 第1班の班長が、皇太子殿下と王女の護衛として、任務にあたっていたのだった。



グレイは

泣きそうな顔で駆けていくレティを、馬上から何時までも見詰めていた。









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